商売をしよう
「永久灯。貴族ですらそうそう手に入るものじゃあありませんよ? 作るとおっしゃいましたか? 製法は門外不出のはずですが、あなたは……」
僕の提案に商人が疑義を示す。この商人は僕が詐欺師だと疑っているのだろう。商人は中年の女の人で、騙される経験も積んでいるはずだ。
「こちらが見本です」
机の上に小さい筒型の装置を置く。手をかざすと光を放った。
「……これほどまばゆい光を放つ魔導灯は見たことがありません。かなりの腕をお持ちとお見受けします。しかし、持続時間については申し訳ありませんが信じることができません。持続性と光の強さは両立できないものです。だから、この魔導灯は長持ちしないと考えました」
商人の言うことはもっともだ。ちなみに永久灯と言うが、本当に永久なわけではない。通常のものは百年ぐらいが寿命だ。
「ええ。そこでこの見本は差し上げます。鑑定にでも出してください。呪いの品だとお思いなら持ち帰りますが」
「はあはあ。それでは鑑定に出すことといたしましょうか。……先生!」
商人は建物の奥の方に声を張り上げる。戸が開き、鑑定士が現れる。
「話は聞かせていただきました。そちらの品を鑑定いたしましょう」
用意がいい。この商人は一代で貴族と取引するまでになったという。さすがの手際だ。怪しい取引を持ちかけられ、詐欺を疑って、その場で暴くことができるよう備えていたのだろう。
装置を検分していた鑑定士がどんどん難しい顔になる。
「どうやら破壊検査を行わざるを得ません。こちらの品は無料で差し出すと、確かにそうおっしゃいましたね?」
「ええ、好きに分解でもなんでもしてください」
すると鑑定士は巻物を取り出した。時間加速の魔法だ。構築は荒っぽいが、動くだろう。あまり使いどころの多い魔法ではない。戦いで敵の武器を一瞬で朽ち果てさせることができれば使えように思えるが、そうはいかない。対象が動いているとうまく発動できないのだ。それに、重い剣が重く鈍い剣になっても、殴られればひとたまりもない。
ここは数少ない有用な場面だ。持続性があると謳う魔道具を鑑定するための最後の手段が、実際に時間経過を見るというもので、そのために使うというわけだ。
「……どうしたのですか? 破壊検査を行なうのではないのですか?」
巻物を持ったまま固まった鑑定士に商人が問う。
「行なっています。時間を加速させ、光の劣化を見るという検査です」
「光は衰えていないじゃあありませんか。今どのくらい経ったのですか? 二刻ぐらい?」
鑑定士はますます難しい顔になる。
「……五十年です」
「な……それじゃ、まさか」
「この永久灯は、まぎれもない本物です。鑑定士ギールが、法の神の名において宣言します」
商人はまだ信じられないでいるようだ。
もう一押し必要か。
「お待たせ! 呼んできたよー」
折しも外から運び車の音が聞こえ、セリナが呼びかける。
「全く、つまらん用事で呼びおって! 至高の魔術師殿の能力にわしの証言などと、カウブの列聖に等しい」
いかにもといった風貌の職人が部屋に入ってくる。カウブの列聖とは、史上最高の学者であるカウブ師はどんな教会権力よりも偉大なので列聖してもその権威が増すことはない、という意味である。
「ボルフ殿、お初にお目にかかる。今は闇を払う天才と呼ばれているのだったか。商人殿とはお会いしたことがあるな」
初耳の称号だった。まあいいか。
これまでずっと油断ならない笑顔だった商人が驚きを顔に出す。
「ガザム様!? それでは永久灯の発明者であるあなたが、この装置を……」
ガザムと呼ばれた職人は舌打ちした。
「そこのボルフだよ! 全く、忌々しい! こんな逸品をことも無げに作ってみせるんだからな」
「……失礼いたしました。本物のボルフさんとは思わなかったのです」
量産が前提というのもあり、手を抜いたつもりだったが、それでもできが良すぎたか。永久灯を目にしたことなどほとんどないから、加減がわからなかった。ガザムさんにも迷惑をかけてしまった。客人としてもてなすのはもちろん、近いうちに菓子折りでも持っていこう。
「こちらの永久灯はゲール卿とセルム卿に販売させていただきます。もしかすると王族への献上もありえるかもしれません」
商人は興奮を隠しきれないようだった。
活動基盤を固めるため中堅以上の商人とつながりをもつという目標を、達成したことになった。
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