組織動く
組織犯罪集団【アナスタシス】幹部、ヨルダン監査役は報告をまとめていた。
「ボルフのもとに使いに出した奴らは戻らず、か」
ヨルダンの予想の範囲内ではあった。四十二人が自殺した後骨も残さず焼却された魔法痕跡が見られるとのことだ。残り一人は行方不明だが、隊長と似た風貌の狂人が街で目撃されている。
隊員が自殺したのは何か恐ろしい未知の魔法が使われたのだろう。遺体がない時の魔法痕跡の検査では自殺か他殺かまではわかっても、詳しい原因まではわからない。
ボルフには完全に敵とみなされたか。推薦者であるヤーノの助言で【アナスタシス】の主たる業務内容は伏せてきたが、さすがに外に出ればわかるというものだろう。
しかし、自分が生きているということは、恐ろしい魔法も無制限に使えるものではないと推論する。
「研究開発部のベルクがハプト卿との宴会に出席。魔法技術に関する質問に応答できず、心象を損ねた可能性。研究主任は人前に出ることを好まないと営業のヘールが説明。ハプト卿はボルフに会いたかったと言っていた……これはいいか。良い物を作り続ければ問題ないのだ。ボルフに会いたいというのも、噂でしか知らないか、あのお人好しなら騙しやすいという話だろうな」
次に移る。
「マッチポンプの件で、山賊が我らの護衛を打ち負かし略奪を行なった。山賊が裏切るのは考慮されていた。護衛の方が新しい武装を持っているのに打ち負かされたのが不可解である。確かにな。山賊が練度を上げているのか?」
マッチポンプとは山賊に武器を渡す一方で通行者に護衛を紹介する業務だ。商会からは非難轟々だったが、この業務自体優先度が高いものではない。調査隊を出すことにしようか。
しかし次の報告は捨て置けるものではなかった。
「武器が消失した。その数二四〇〇点に及ぶ。例外なくボルフの魔法術式が刻まれたものだった、と」
梗概だけでなく詳細にも目を通す。訓練を開始し、剣を振った途端、または弓を引いた途端、光の粒となって消えた。参加した戦闘員全員が証人である。盗難の線はない。
ボルフの仕業に間違いない。しかし、にわかには信じがたかった。
「メラー師だ。ボルフよりも有能なあのお方なら何かを知っているのではないか」
そう思い、その後研究室を訪れた。
「魔法で武器を消失ねェー……ボルフがそれを使って荒くれどもを近接戦闘で圧倒したってわけかね?」
「そうではない。使いの者を皆殺しにしたのは別の恐ろしい手段だ。そちらについても聞こうと思ったが、あとだ。武器が消失というのは、戦闘訓練の際に……」
説明すると、メラーは驚きに目を見張った。
「そんな魔法があるのかねェ! まだ私にも知るべきことが山ほどあるワケだ! 深遠、深遠、深い深い深い深い深い深いヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
「先生!」
メラーに研究員が声をかける。
「書庫を……禁書を読まねば……」
「すみません、最近時々このように取り乱すことがあるのです」
「そうか? いつもこのような感じでは」
ヨルダンには違いがわからずにいた。わかったのは、メラーもボルフの魔法を知らないということだ。
確かに、そのようなものを知っているのであれば、王の武力さえも無視して国を掌中に納めることができている。
「ボルフを手放すべきではなかったか? いやしかし」
彼は組織の方針を理解せず、研究開発部の仕事を無際限に膨らませた。
もっとも、組織の判断で方針を伏せていたのではある。
「仕方ない。切り札を切るか」
ヨルダンは会議を設定する。
ボルフ排除のため最高戦力【五振りの剣】の一角、単純な出力で最強を誇る戦力が解き放たれようとしていた。