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引縁の魔法

「いや怖くない? ジャンルが恐怖演劇とかだよ君の戦い方」


 帰るとセリナは苦笑いを浮かべていた。


「え? 何? ボルフさんはどういう戦い方したんだ?」


「知らない方がいいよー夜中起きても便所行けなくなるから」


「ただの混乱魔法だ。大したことしたつもりないんだけどな」


 謙遜したポーズをみせる。


「嘘つけ。そんなわけないだろ。あれで大したことしたつもりなかったら本物の恐怖だよ」


 さすがにセリナは的確にツッコんでくれた。


「え? いや気になるじゃん。教えてよ僕にも」


「明日ね。本当に怖い話だから期待しててよ」


 怪談の娯楽性を求めて聞かれても困るな。さておき、戦利品を床に置いた。


「なにそれ?」


「剣」


「見ればわかるわ」


 隊長が持っていたものだ。僕の魔法が付与されている。この感じの弱まり方だと二千回くらい押されたかな。

 さて、久しぶりに術式を組むか。


「一刻ほど集中するから」


「あ、そう。先寝てるね。暗くしてもいいよね」


 むしろそっちの方がありがたいぐらいだった。


 頭の中で書を開く。発狂しそうな情報を秘めた(実際に発狂する人もいるらしい)魔導書だ。魔法文字と魔法音の海の中から、必要なものを拾い上げていく。


 第一稿はすぐにできる。荒っぽい構成だ。単純で、無駄が多く、一貫性がない。

 美しくない。

 問題はここから、そして僕の真の力が発揮されるのもここからだ。


 無数の神話を、無数の変数記号を、無数のメタ言語規則を、頭の中の小宇宙で公転させる。三二行目から三五行目を一四〇二行後に動かす、三二二四行目の美称を二三五三行目に合わせる、第二二八定義の変数名を変更し三つの神話解釈を参照する、場所格の三つに一つは倒置して省略する、並べ替えて省略、挿入して参照、倒置して祈祷……。


「……できた」


 終わってみれば一瞬だった気がする。五感が戻る。真っ暗で、皆の寝息が聞こえる。経過時間計測魔法をみれば、一刻にやや足りないぐらいだった。最終稿を第一稿と並べてみれば違いは明白だ。ずっと美しい。短く、難解で、強力だった。


「解放」


 さっそく魔法を行使する。光や音は出さない。皆を起こしては悪いからね。

 そして静かに始まり、静かに終わった。


「んー。おはよー。早いねー」


 翌朝二番目、つまり僕の次に起きたのはセリナだった。昨日の魔法のことを聞かれたが、みんなが起きてから話すことにしている。

 その後メイメイが起きて「なんで二人で起きてるんですか!? 楽しそうに……」と不穏になったり、ペルペが起きて怪談をセリナにせがみ、セリナが嘘にならない範囲でとびきり怖く語ってメイメイが涙目になったりした。


「で、昨夜の魔法なに?」


「そうだな。この剣は向こうの隊長から奪ったんだけど」


 剣を軽く振ると、刃の部分が光の粒となって消えた。少し遅れて柄の部分も消える。


「はー、すごいな」


「いやペルペくん。これは序の口なのだよ。大天才、【至高の魔術師】ボルフさまが手ずから作った魔法がまさかこの程度のわけがないだろう!」


「セリナさんはそういう煽りが好きなんだね。今ので十分すごいと思うけど」


 二人が小芝居を始める。僕は中断して話し出した。


「引縁の魔法というのがある。昔話の、悪いことして呪われた人の近しい親戚まで呪いがかかるやつだ」


「あー、あるね」「それは僕の地方だと実在してたらしいよ。ずいぶん前に失伝したけど」


「確かに実在する。これをモノに使う。つまり、さっきこの剣を『殺した』が、この剣の親類も同時に殺された」


 三人の頭上に疑問符が浮かぶ。疑問符というのは書き言葉である文が疑問文であることを示すための記号だ。実際に頭上に浮かんだわけではない。浮かべることもできるが。


「まず剣を殺す、さっきのように光の粒として消す魔法がある。これは既存のものだ。それと【引縁】を合わせて、僕の術式という同じルーツを持つものたち二千個の武具や魔道具をすべて光の粒として消した。僕の別の術式を印されたものも多少傷ついたかな」


「え? おかしくないか? 親類殺しってだいたいいとこぐらいまでだろ? モノだともっと簡単に大量に巻き添えにできるの? それとも伝承の中では単純に描かれたのかな」


 ペルペがさらなる疑問を呈する。これはいい点をついている。実際の引縁はせいぜい三〇人ぐらいしか巻き添えにできない。モノを相手にする場合、さらに厳しい。普通は十数巻き込むことができれば御の字だろう。その点を強化するため一刻かかったのだ。


「いやいやいや、怖い怖い怖い、さっきの話より怖いよそれ、その気になれば数千人の一族を根絶やしにできるってこと!?」


「しないさ」


「しかもそれ術式になってるってことは誰でも起動できたり」


「その点も大丈夫だ。これほどの効力は一度しか出ない。複製もできないしたとえ再現できても発動しようとすれば脳が焼ける」


「信じるよ!? 信じるからね!?」


「ともかくだ。結果どうなったかというと、組織【アナスタシス】の武器類が二千個消えてなくなったってことか。いや怖いな。主にこいつがつい最近まで悪の組織にいたのが怖い」


 セリナがまとめてくれた。ここではそれだけ分かればいい。


「すごいです! さすが先生!」


 メイメイは目を輝かせて素直な称賛をくれて嬉しい。


 ちょっとは怖がった方が健康な気もする。

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[良い点] 怖い点 「しないさ」
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