表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/42

恐怖の夜

「セリナ・ネビアの家まであと二百聖歩(メートル)だ。そろそろ発見されるぞ。いつ接敵、じゃない、ボルフ殿と遭遇して交渉することになってもいいよう構えておけ」


 ボルフ呼び戻し作戦の実働隊長は振り返って驚愕した。自分に加え四十二人の編成のはずが、十数人しかいない。今日のこの辺りはいやに霧が深かったが、いつの間にはぐれたのか、あるいは。


「お、お前たちっ……」


 点呼を考え、やめた。そんな悠長なことを言っている段ではない。炸裂の魔法を使う。最高レベルの警戒の合図だ。はぐれたのであっても音か光が全員に届く。

 落ち着いて現状を確認する。あたりを見回し、兵たちを互いが視界内に収まるよう誘導する。全員で八人。これ以上減れば必ず気づくというわけだ。

 霧も晴れたようだ。ツイている。


 今いるこの六人で交渉に望む。おそらく、いや必ずボルフがいるはずだ。確信があった。


「至高の魔術師ボルフ・ベイルフ様! 私はヨモルと申します! こちらの四人はラメク、セデス、ケイム! ……失礼、三人でした!」


 これはおかしい。隊長は疑問に思った。


 なぜ私は人数を間違えたのか。ハナから、今回の作戦は四人という少数で臨むものだった。


「ヨモルさん、一人かな」


「申し上げたように、その通りであります」


「辺りを見てみるといい」


 そのように言われたヨモル隊長は辺りを見渡す。


 死屍累々だった。

 数えなくてもわかる。その数は四十二人だ。全員が自分の剣で首を刎ねられている。

 剣を奪われて斬られたのではない。自分で、自分の剣を振り、自分の首を刎ねたのだ。

 異様だった。

 ヨモルは全身の震えを感じた。

 とっさに剣を捨てる。こうすれば、自ら首を刎ねることはない。


「何をやってるんだ? 敵を前にして武器を捨てるなど」


 確かに、その通りだ。何をしていたのか。

 ヨモルが混乱していると、「それ」は目の前に現れた。

 見たことのある人影だ。【アナスタシス】で見かけたことが何度かある。


 ボルフ・ベイルフは人間だ。人間は斬れば死ぬ。

 ヨモルは、恐れていても剣を振る訓練を受けている。

 体に刻み込まれた反射の回路にしたがって剣を振る動作をし、手に剣が握られていないことに気づいた。


「アア……ア……」


「これは全員に聞いてるんだけどさ」


 目の前の人影が喋る。


「人を殺したことはあるか? どのぐらい? 無抵抗な相手は? 楽しかったか?」


 答えを間違えれば死ぬ。そう直感した。


「ある! 確かにある! だが任務で仕方なくだ! 二、三十人殺したが、皆戦士として戦った上でだ! 殺すのはいつも心苦しかった」


 最初以外嘘だ。数え切れないほどの人を殺してきた。その中では女子供の方がむしろ多かった。最初は心苦しかったものだが、ある時期からは作業あるいは悦楽として殺人をしている。


「七九人。そのうち四一人は無抵抗で、かなり楽しかったようだな。次の質問だ。僕は麻酔薬を作るための触媒を錬成したことがあった。あれは依存性が高く悪用の余地がある。知ってるか?」


「し、知っている。けど俺は関与してない!」


「どういう人に売った? それか使った?」


「知らないと言ったはずだ!」


「売ってはいないか。使ったのは攫った女とか無欲な村人とか、と」


「ア……ア……」


 ヨモルは呼吸もままならない、もはや可哀想な状態だった。

 いや、ボルフはそれを可哀想とは思っていなかった。


 そして、ヨモルは直視する。ボルフの目を見てしまう。


「アアーーーーーッ!! アーーー!! アアーーーーーーーッ!!」


 ヨモルは絶叫しながら走り出し、死ぬまで止まることがなかった。

少しでも「面白い!」「気になる!」「続きが読みたい!」と思ったら、ブックマーク登録とポイント評価をよろしくお願いします! 

読者の存在は作者にとって大きな活力になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ