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かかし

作者: 白龍
掲載日:2020/09/10

今回の題材は案山子です。

誰もが一瞬恐怖した案山子、案山子に失礼ですが、怪談にぴったりでした(笑)

畑を守る案山子。

へのへのもへじ、という順で言いたくなるようなその顔は、誰もが見た事があるだろう。

自然の恵みである農作物を守ってくれる畑の神のような案山子。

一見すると少し不気味に見えるが、実際はとてもありがたい神様なのだ。

だが、そんな案山子を怒らせればどうなるだろうか。

普段怒らない人が怒るととても怖いように、案山子も…。




「うえーい木偶の坊!」

複数人の小学生の男児たちが、学校帰りの畑に立っている案山子を蹴飛ばしたり殴ったりして遊んでいた。

勿論この程度ではびくともしない案山子だが、何度も衝撃を受けてはたまらない。

十分ほど暴力を振るい続けると、案山子は今にも倒れそうにグラグラと揺れてしまっていた。

男児たちのなかでもリーダー格の、小学生にしては背の高い男児、健郎たけろうが案山子にとどめをさす。

「くらえー!!」

赤いスニーカーで案山子を思いきり蹴飛ばし、木が崩れる音と共に案山子は勢いよく畑の土に叩きつけられた。

その顔は影がかかり、一層不気味に見えていた。

健郎の周りの、彼の部下たちは先程こそ案山子を蹴飛ばしていたものの、これにはさすがにポカンと口を開けていた。

「お、おい。それさすがにまずいんじゃね…?謝ろうぜ?」

「何ビビってんだよ?こんなもんただの木だよ木!」

倒れた案山子の頭を踏みつける健郎。

部下の男子二人は、お互いの顔を見つめあって、これからどうするか困惑していた。


「こらあああ!!案山子に何をしているクソガキどもおおお!!」

ぎょっとして振り替える。

そこには鬼の形相でこちらを睨み付けながら走ってくる畑の管理人が。

「やべえ逃げろー!!」

健郎たちは、倒れた案山子を背に大急ぎで逃げ出した。



その夜…。

健郎はお気に入りのゲームを楽しみながら寝転がり、案山子の事など全く気にせずに自分の時間を楽しんでいた。

勉強机の上には山積みになった宿題。どれも全く手をつけていないし、これからもその予定はない。

散らかった部屋で楽しい時間を過ごすのが、彼の日課。その生活からも、彼の問題児ぶりが放たれていた。

「トイレでも行くかなー」

立ち上がり、散らかった部屋に落ちた漫画を蹴りながら健郎は部屋を出て、トイレへ向かう。


「ん?」

ふと、奇妙な物が目に映る。

廊下に落ちていたのは茶色い葉っぱだ。

当然本来は家のなかにこんな物がある訳がない。窓から飛び込んできたのだろうか。

「きたねえな」

健郎は葉っぱを拾い、後で捨てようとポケットに突っ込んだ。


「あーすっきりしたー」

トイレから出て来て、笑顔で部屋へと帰っていく健郎。

ポケットの葉っぱの事など忘れていた。

「あ、明日は運動会の朝練か…。いいや、サボろう」

今までも何度もサボり続けてきた彼にとって、運動会をサボるなど何の躊躇いももたない事だった。

明日はどんな風に過ごそうか、そんな呑気な事を考えながら部屋に入る。




その時、彼は冷たい視線をはっきり感じた。

「ん…?」

その視線は、どうやら部屋のなかからのようだった。

氷のように冷たい…全身の身の毛がよだつような、とにかく嫌な視線だった。



「…そ、そんな事ないよな」

彼の頭に、ある顔が浮かび上がるが、大丈夫と自分に言い聞かせるように深呼吸する。

「何馬鹿な事考えてんだ俺…さて…」


ドアを開ける。



「…!!?」

彼の予感は、当たった。




部屋のなかに、案山子が立っていたのだ。

大きな笠を被り、木の体を白いぼろ切れを着せられ…。

へのへのもへじ…の顔には泥が張り付いている。

それは、まさに夕方に健郎が蹴り倒したあの案山子だ。

その木の顔には…怒りが浮かんでいた。

昼間と何一つとして変わってない顔だが、確かに強い怒りが感じられた。

健郎は当然ながら部屋から飛び出し、何かに追われるかのように階段をかけ降り、母を呼ぶ。

「母さん!!助けてー!! 」



母がいるはずの一階につくなり、健郎は絶句した。

そこにいたのは母ではない。


案山子だ。

さっきまで二階にいた案山子が、一回のキッチンに立っていたのだ。

またもや悲鳴をあげ、転びそうになりながら家のなかを走り回る健郎。


「はあ…はあ…」

健郎は、トイレに閉じ籠っていた。

便座の前で体を屈め、震えが止まらない。

手には冷や汗が滲み出ており、今何が起きてるのかも分からず、ただただ深い恐怖の中で涙さえ浮かべる。


案山子は自分を追ってきたのか…!?

このまま閉じ籠っていても、案山子は入ってくるのか…?

あまりの恐怖に気が狂いそうだった。そして、彼の性格上、若干の苛立ちも覚えていた。

「なんなんだ…!案山子のくせに、ちょっと蹴られただけで…!こんな…!」

ガンッ、と何かが叩きつけられるような音がドアを打ち鳴らす。

心臓が跳ねあがり、健郎はドアから離れるが、ドアからは狂ったように叩く音が響き渡る。



それから三十分間、ドアはひたすら叩かれ続けた。

この間健郎は自分の過ちを改めようとも考えず、ひたすら恐怖に打ちのめされていた。

人間は極度のパニックに陥るとそれ以外の事を考えられない。いくら彼の性格が悪くても、こればかりは仕方なかった。

(神様…神様…)

心の中で、時々口にも出しながら、生まれて初めて本気で神に祈り続けた。



ふっ、と、彼の耳に沈黙が飛び込む。

恐る恐る頭をあげると、ドアはもう鳴らされておらず、そこには黒くて長い髪の母が、不思議そうに健郎を見下ろしていた。


「…!?」

床を蹴り、トイレから飛び出す。


そこは、いつもの家だった。

案山子など立っていない、いつもの、ごく普通の自分の家。


助かったのだ。




「…母さん…」

泣きじゃくりながら母に泣きすがる健郎。

「どうしたのよ健郎…」

「ご、ごめん母さん…母さん…」

恐怖から解放された事で、彼の感情は滝のような勢いで流れ出した。



「どうしたのよ健郎…」

「ううっ…」

「どうしたのよ健郎…」


…彼は、ようやく母の様子がおかしいのに気がつく。

恐る恐るその顔を見上げると…。



その顔は…木でできたへのへのもへじ、母の顔は、案山子に変異していた…。

「…!!」

腰を抜かす健郎。

案山子になった母の両腕がみるみるうちに木の皮になっていき、軋む音で健郎を掴む。

「どうしたのよ健郎…」

低い、とても低い男の声で、案山子は健郎に呼び掛ける。

健郎より一回り大きな案山子の頭は下に曲げる事ができず、健郎と視線をあわせないまま、怒りをはっきりと見せた。

「ぎゃあああああ!!!!」


ポケットから舞い散る、茶色い小さな葉っぱ。




「健郎ーー!!どこにいるのー!!」

案山子…。

彼らは畑の神様だ。

毎日畑を守り、そして農作物を守る。

一見すると立っているだけの彼らも、畑で日の光を受けながら生きている神様だ。

「………」


決して、神様を侮辱してはいけない。

彼らは、罰を下す時はとことん残忍にもなれるのだから…。

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