配信中つばめ
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彼女は遠くへ行ってしまった。どれくらい遠くへ行ってしまったのかを測りたくて、30cm定規を準備したものの数値を読み取ることができなかった。距離的にこの定規では測れないところまで行ってしまったのか、はたまた今感じている距離というものが長さの単位をもつものではないのか。ここに僕は差があるとは到底思えなかった。
「君はどうして遠くへ行ってしまったんだい。僕のことが嫌いになったとか。」
「どうしてあなたは私を責めるの。遠くというのは相対的なものよ。遠くというのは行くものではなく、結果として提示されるものに過ぎないわ。」
「でも僕はここから一歩も動いていないんだ。前にも後ろにも。」
「位置というのもまた相対的なものね。あなたが動いていないのは、あなたが定めた系での話であって、それを私に押し付けるなんてちゃんちゃらおかしいのよ。」
改めて乾杯、と彼女は僕にグラスを向ける。その姿を望遠鏡で覗く。僕は望遠鏡の仕組みをさっぱり知らない。だからこの望遠鏡が彼女と僕のなにを繋いでいるのかはやはりわからなかった。
彼女と僕の間にはどうも何かしらの遠さが生じる。小さな川一本渡ることのできない僕はごみを集めてそこに引き籠るしかなかった。
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