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あらあら、婚約破棄されましたわ

ネタバレ:婚約破棄されます。

「ディアナ、お前との婚約を破棄する」


そう高らかに言い放った金髪碧眼の眉目麗しい王太子は、冷たい目を私に向ける。

桃色の髪の可愛らしい令嬢の腰を抱き寄せながら。




その日、王宮では王太子殿下の18歳の誕生日を祝うパーティーが開かれていた。

隣国の王女であり、殿下の婚約者でもある私も当然お祝いに呼ばれていた。

大臣達や貴族達と表向きは談笑を楽しむふりをしていると、主役である殿下が楽団の奏でる荘厳な音楽をバックに登場した。

桃色の髪の令嬢をエスコートしながら。

婚約者ではない令嬢を伴って現れた殿下を誰もが眉をひそめて見ている中、殿下は私の前に立ち、言ったのだ。「婚約を破棄する」と。


「理由をお聞きしてもよろしいかしら」


国同士で決めた婚約を一方的に破棄に出来るほどの理由があるのならば是非教えて欲しい。まさか、横にいるご令嬢と真実の愛に目覚めたからなんて愚かな事は言わないでしょうね。


「私は真実の愛に目覚めたのだ。このシャリアと出会ったことでな」


言った。

婚約して一年、ほんの数回しか会ったことが無かったから殿下の事はよく知らないけれど、愚か者だったようだ。


ちらりと桃色の令嬢に目を向けると、彼女はくりくりとした大きな緑色の瞳を不安げに揺らしながら殿下を見上げていた。

なるほど、殿方がおもわず守ってあげたくなる庇護欲をそそるタイプのようだ。

殿下は愛しげに彼女に微笑みかけている。


見た目が良いだけのバカで、しかも浮気者。

こんな人と結婚なんてごめんだし、私としても是非とも婚約解消したいものだけれど。


「真実の愛も結構ですけれど、この婚約は陛下から我が父、ランゼウム国王へとお話をいただいたもの。陛下がお許しにならないのでは?」


元々我がランゼウム王国の領土だった西側一帯の土地を返還する代わりに、第一王女(私だ)を王太子の妃にくれと言ってきたのはそちらの方でしょうに。


その土地は50年程前に起きた我が国の内乱の隙をついて、このキリカ王国に盗られていた土地だ。

まぁ、領土は還ってくるし、その他色々とこっちの要求も飲んでくれたしいっか。というノリで、平和主義で温厚な我が父王は一人娘をこのバカ王子に嫁がせることを承諾した。

そんなに譲歩までしてキリカ国王が私を王太子妃に望んだ理由だっていくらバカでも知っているはずで、婚約破棄なんて出来るはずがない。…無いわよね。なんでこのバカ得意げな顔でこっちみているのかしら。


「父…陛下の許しなら必要ない。何故なら」


殿下は不敵な笑みを浮かべて、自信満々で言った。


「この国の摂政権は今現在私にある」


会場にいた貴族達がざわめく。

一体どういう事だ。陛下はどうなされたのか。

そんな声がそこかしこから聞こえてくる。


「陛下は昨晩倒れられた。よって、陛下が回復されるまでは王太子である私にすべての決定権があるのだ」


ざわめきが大きくなる。

私は先ほどまでずっとそうしていたように、表情を一切変えないまま、殿下に言う。


「陛下が取り交わした婚約を破棄する権利もおありになるということでしょうか」

「そうだ。そもそも、この婚約は我が国に利がないばかりか領土を渡すと言うではないか。本来ならばそちらから持参金を寄越すのが筋というもの。我が国がランゼウム程度の小国と繋がりを持つ意味はないというのに」


言ってくれる。

ランゼウム程度の小国に頭を下げて来たのはお前の父だというのに。


私は苛立ちを抑えるために笑みを浮かべる。

無表情の仮面の下から憤怒の感情が溢れそうになるとき、そんなときは優雅に笑うものだと、そう教えてくれたのは温厚な王の仮面を被った父だ。


「恐れながら殿下。この婚約の意味をご理解していらっしゃいますか」


普段表情が変わらない私が笑ったせいなのか、私の言い方が気に触ったのか、殿下は不快そうに眉を寄せる。


「この国を守るためには私の力が必要なのではありませんか?」

「…聖女の力の事の言っているのか?」

「あら。ご存知ではありませんか」


せっかくかすめ取った領土を返還し、持参金は不要、その他色々とランゼウム王国側ばかりが有利なこの婚約が結ばれた理由。


それは、私が『聖女』であるからだ。


いまから約700年前、この大陸では黒龍と呼ばれる悪しき龍が暴れまわり、人々を苦しめていた。大陸の半分が黒龍に滅ぼされ、人々は絶望の中にいた。

そこに現れたのが、神殿に選ばれた『聖女』だった。

聖女がその清らかな心をもって祈りを捧げると、聖なる奇跡の光が黒龍の身体を包みこんだ。

その神聖なる力によって黒龍は深い眠りにつき、大陸には平和が訪れたのだ。


「そして700年経った今、黒龍がこの地で目覚めようとしていると神託が降りました。キリカ国王は、神殿から『聖女』と認められた私に、再び黒龍の封印と、その後も聖なる力で長く国を守って欲しいと仰られました」


黒龍の脅威を退けた『聖女』が王太子妃、後の王妃となれば、他国への牽制にもなる。

少しの領土や持参金などとるに足らない恩恵が受けられるのだ。

つまり、私との婚約破棄の意味することは、国の破滅。

そんな選択をするだなんて愚かとしか言いようがない。


しかし殿下は、そんな事はわかっていると言わんばかりに平然としている。

頭が悪すぎて状況がわからないのかしら。

そんな事を考えていると、意外なところから声があがった。


「あの、ディアナ様。いくらお姫様でも嘘をついてはいけないと思います!」


前に進み出て発言したのは、殿下にしがみついてうるうるしてた桃色の令嬢だった。

頬を赤く上気させてこちらを睨み付けている。

王族同士の会話に割って入るなんて、わかっていたけれどバカの恋人もバカということね。

王女である私の名を許しもなく口にし、敵意を示す態度をとった令嬢を拘束しようと、私の後ろについていた護衛が動く気配を見せたので、それを軽く手を上げて止める。


「シャリア、と言ったかしら」

「シャリア・ダラスです!」


シャリアは喧嘩腰のまま名乗る。

挨拶もろくに出来ないなんて、調べるまでもなくきちんとした教育を受けていない事がわかる。こんな女相手に真実の愛ねえ。まあ、お似合いだけれど。


「ダラス男爵令嬢。私を嘘つきとは、どういう事か説明して下さるかしら」


私が心情とは裏腹に、にっこりと友好的な笑みを浮かべて問うと、シャリアは得意げに、少しの嘲りをにじませながら言った。


「だって、本物の『聖女』は私ですから。ディアナ様は偽物という事でしょう?」


今度こそ動こうとした護衛を再び止める。「姫様」と不満そうな声をだすも、私の命令には絶対逆らわない。

まわりの貴族達は私が笑顔のままだからか、殿下の恋人を敵にまわしたくないのか、誰もシャリアの不敬を咎めようとせず、戸惑ったまま静観していた。


「私は聖ミレーニア教会に『聖女』と認められた、正真正銘の『聖女』なんです!」

「聖ミレーニア教会が?」

「そうだ。シャリアは清らかな心と、国で一番強い光魔法の素質を教会に認められた『聖女』だ」


殿下がシャリアの隣に立ち、彼女の肩を抱き寄せる。


「お前は、片田舎の寂れた神殿から『聖女』と認められたと言い張っていたが、どうせ金を積んで認めさせただけだろう」

「聖ミレーニア教会は各国に支部のあるちゃんとした組織ですから!ディアナ様と違って不正は出来ないんですよ?」

「つまり、我が国には本物の『聖女』がいる。お前との婚約は無駄という事だ」


2人の話を聞いていた貴族達も、「確かにそうだ」「他国に借りを作る必要などないではないか」と口々に言い出した。


あらあら。

これは中々大変な事になってきたわ。

私を偽物と判断したらしく、敵意に満ちた目を向けてくる貴族達をゆっくりと見回し、顔を覚える。

殿下とシャリアは勝ち誇ったような顔で私を嘲笑った。


「『聖女』を語り、我が国を危機に陥れようとした事は重罪だ」

「この偽者を捕まえて牢に閉じ込めちゃいなさい!」


聖女様(シャリア)が声を張り上げると、会場を警備していた騎士達がまわりを取り囲む。


「あらあら。男爵令嬢ごときの命令に従うだなんてこの国の騎士様には誇りが無いようですわね。王宮騎士になれたという事は上級貴族の出でしょうに」

「黙れ、偽者が!」

「聖ミレーニア教会が認めた聖女様を侮辱するとは、王女と言えど許されぬ」

「信仰心のあついこと。けれど聖ミレーニア教会の成り立ちはご存知無いようね」


バカにするようにため息を吐いて見せると、騎士達の顔が怒りに染まり、私を取り抑えようと襲いかかってきた。


「アレス」

「お任せを」


それは一瞬だった。

私が護衛の名を呼んだと同時に、騎士達が宙を舞った。

国内でも選りすぐりのエリートである、栄えある王宮騎士達が6人同時に。

たった1人の護衛の、たった一閃で。


「なっ…なにを…」


吹っ飛んできた騎士をすれすれで避けた殿下が口をぱくぱくとさせながらアレスを指差す。シャリアは殿下を盾にしたようで、殿下の肩上から顔を半分覗かせてこちらを見ている。


「貴様!!罪人を庇うとは何事だ!その女は偽の聖女なのだぞ!」


正当性を訴えてわめき散らす殿下をアレスは面倒そうに一瞥し、そのまま何も答えずに私の前に立った。

少し長めの黒い前髪のせいで表情が見えにくいが、どうやら怒っているらしい。


「姫様。いかがしますか」


そう問うてきたアレスに、私はにっこりと微笑んで答えた。


「帰りましょう」


私は殿下を始め、まわりで唖然としている貴族達にカーテシーをして、最後の挨拶をする。


「それではご機嫌よう。もうお会いすることが無いよう祈っておりますわ」

いつも書き始めで飽きるので、続きはいつ書くかわかりませんが書くつもりはあります。

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