五話 異世界に危険な兄妹が爆誕した日
魔法陣から放たれる光に手をかざし目を閉じたその瞬間、唐突に光が消える。
先程まで感じられなかった騒々しさや、多数の足音を感じ手をどかした。
そこで目の前の光景に目を奪われてしまう。
目の前には、中世ヨーロッパを思わせるような建物が左右に立ち並んでいた。
目の前の大通りには2メートルを超えるであろう人型のトカゲの様な種族や猫耳に尻尾まで生やしている猫型の種族、様々な種族がいる。
その中には人もいたりして、比率から考えると人間半分、その他半分と言ったところだろう。
妹に目をやると、目を輝やかせて忙しなく辺りを見渡している。
はぁ~、こうゆう所は年相応の少女っぽくて可愛いのに⋯⋯。
通りを見ると左右には屋台が並び、これまた様々な生き物達で賑わっていた。
屋台には日用品や肉、野菜など一般的なものから、魔法道具店や武具店まで目につく辺りが異世界感をさらに強くしてくれている。
武具店辺りには全身鎧にまとった大柄の男や、ローブを羽織り背中に杖を抱えているエルフ?の様に見える種族などがいる。
彼らがこの世界の冒険者なのだろう。
俺達もあんな風になれるのか⋯⋯?
生まれてこの方喧嘩すら楽にした事ないってのに。
こんなんで妹を守れるのかと不安になってしまうがそんなこと考えていても仕方がない。
クレアに手を引かれそして目が合うと頷き合う。
『早く帰るために』『お兄ちゃんと結婚するために』
二人はそうしてそれぞれ目的がずれたまま歩きだしたのだ。
「なぁ、クレアとりあえず今の状況整理したいんだが二人きりになれる場所行かないか?」
「えぇ!? お兄ちゃんが⋯⋯お兄ちゃんがっ!? 神様ありがとうございます! ついに、ついにお兄ちゃんが⋯⋯いつもツンデレなお兄ちゃんがとうとう自分かあいたっ!! もう何するのお兄ちゃん!」
「誰がツンデレだ誰が⋯⋯てか誘ってねぇよ、これからの事話すために決まっ」
「これからの事!?」
「だから、違うわ!!」
こんな時でもクレアはマイペースだな⋯⋯
妹の普段通りさに若干救われるも、わざわざ言ってやるとつけ上がるだけなので、問答無用で引っ張って行こうとするが、クレアは辺りをキョロキョロ見ながら応答するが動こうとしない。
「おい、行くぞ!」
頭にチョップをする。
「あうっぅ……痛いよぉ……」
そう言うと頭に手を当てて泣き目になって付いて来る。
人通りの少ない路地を見つけ、そこにクレアの手を引き入る。
ここなら大丈夫だろう。
「とりあえずこれはもちろん夢ではないよな?」
「そりゃぁもちろん! どっからどう見ても現実だね!」
「はぁー何でそんなテンション高いんだよ」
「ん? 異世界だよ異世界! 誰でも一度は異世界で冒険してみたい! と思うのが普通だよ!」
そうゆうものなのかぁ? と目で訴えてみる。
「まぁ、お兄ちゃんは普通じゃないからね。なんたって妹が大好きで大好きで仕方なくて寝てる間に拘束しちゃうほどの変態さんだもんね」
うんうんと頷いている。
「おいちょっと待て、勝手にお前のした事をあたかも俺がした様に言うのはやめてくれ。誰かに聞かれたらお兄ちゃん冒険前から人生の終点にたどり着いてしまうぞ、多分」
「あれ? そうだったかなぁ⋯⋯うーん⋯⋯うーん⋯⋯いや、やっぱお兄ちゃんだよ!」
ここはあえて無視を選ぼう。
本当にこいつは時々自分の好きな方に記憶を改ざんするので、やめて欲しい。
「とりあえず荷物とか持ってないか? お父さんの言い方だと初めから何か持たされてる感じだったけど」
そうして探していると覚えのない腰につけるタイプのポーチが付いている。
ポーチの中をのぞいて見る。
そこにはどこまで続いてるのだろうか、永遠に続いてそうなほどに真っ暗な世界が広がっていた。