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09 屋敷(1年目)

 あれから2週間が過ぎた。

 こんなにも平和で良いのだろうか。ニーナさん以外のメイドとも話せるようになり、丁寧語も上達してきたと思う。丁寧語を早くマスターして、ニーナさんのような尊敬語も使えるようになりたい。


 文字や数字は、ほぼ完璧だろう。


「セリアは見本帳を見なくても、もう文字が書けるのか。丁寧語も慣れてきたし、頭良いんだな」

「違うよ~。仕事終わって夕飯食べたら、寝るまでの間ずっと見本帳と新聞で読む復習してたの。そのお陰かな」

「頑張ってるんだな。俺もそろそろお役ごめんかなぁ」



 テオに褒められ、素直に嬉しい。

 復習以外にも、あれから誘拐がないかも気になっていたのだ。

 旦那様が「私たち貴族の大人に任せなさい」と言ってくれたが、私がスラムから居なくなったことで、誰も誘拐された子供を助けに来ないんではないかと心配だった。情報が欲しくて必死で文字を覚えたのだが、杞憂だったようだ。



 先日の新聞では「警備隊の巡回エリア拡大、ついにスラム立ち入りへ」と書いてあった。

 記事によると今まで誘拐された子供たちは()()()の手によって戻ってきていた。ほとんどの子供はみな恐怖で今までどこにいたか思い出すのも辛いようで聞き出せなかったことで場所が把握できず、犯人の拠点が解らなかったようだ。


 しかし、時間が経ちショックから立ち直った子供たちの証言を合わせることで、スラムであったと判明したようだ。

 ()()()は見返りも求めず、黒いマントでフードを深く被っていたため正体はいまだ分からない。黒い姿で小さいことから「黒き妖精現れる!? ~スラムに住む妖の気まぐれか――――」となっていた。



 妖精か……私はそこまで小さくない!っとツッコミを入れつつ安心した。巡回が強化されるなら、治安も少しはマシになって、私ひとりが頑張るよりずっと安全になるはずだ。



 ひとり納得しているとテオが不穏な事を言い出す。



「静かな日々は今日で終わりかー」

「え?どういうこと?」


「お嬢様の誘拐事件で休んでた家庭教師が明日から復活なんだよ。うるさくなるぞ」

「リア様の先生うるさいの?」


「明日になったら分かるよ」

「ふーん。まぁ数日リア様と挨拶しか出来てないのに、勉強が再開したらそれすらも難しくなるのかな?……お嬢様が足りない」

「セリア……どんだけだよ」



 テオが私を可哀想な目で見てくる。だって天使の癒しを知ってしまったのだ、病みつきなのだ!

 小説の世界であれば男爵家で天使の容貌、芯が強くて優しいエミーリア様は正にヒロインだと思う。エミーリア様には素敵な男性に出会って欲しいし、悪い男は私が排除しよう。



 **********



 翌日――――



「お嬢様!先生をお待たせしてはなりません」

「お嬢様、扉を開けてください」

「嫌よ!あなた達の言うことなんて聞かないわ!」


「先生の対応をしているメイド長を呼んできて!」

「スザンナを呼ぶなんて卑怯よ!」

「しかし、お嬢様!」



 **********



 さらに数日後――――



「エミーリア嬢、淑女になるために必要なことですよ!」

「そうですよお嬢様!頑張りましょう」

「使用人がうるさいわ!私の気持ちも知らないくせに!」


「メイド長は本日お休みよ!奥様にお伝えを」

「やめて!お母様には言わないで!」

「エミーリア嬢、諦めてください」


 ガチャリ……


「今日だけよ」




 お嬢様はかなりのお転婆だったようです。勉強だけではなく、メイドに身支度を整えてもらっている時もだ。


「あなたのへアセットはダサいわ!触らないで。スザンナがやって」

「お嬢様、メイド長はお客様の応対中で」

「私の望みが聞けないの?あなたが下手なのがダメなのよ」

「申し訳ございません」



 そして大変、我が儘だった。

 応接室からは遠いからお客様には聞こえないだろうけど、使用人の休憩室にまで聞こえてくる。



「あの……リア様って前からああだったんですか?」

 エミーリア様の変貌が信じられずに先輩たちに聞いてみる。



「えぇ。セリアが来てからは2週間は機嫌が良くて可愛らしかったんだけど、勉強が復活したら元通りなのよ」

「お嬢様は好き嫌いが激しいですからね。お気に入りのセリアやメイド長の前では素直ですが、他の使用人の前では……」

「メイド長もお忙しいから代わってあげたいんだけど、お嬢様の怒りを買うだけなのよね」

「左様ですか」



 先輩たちも随分と苦労しているようだった。旦那様と奥様はエミーリア様が生まれたあと、子宝に恵まれず溺愛して甘やかしてしまったらしい。嫌な予感がしてくる。



「セリアがお気に入りなのって、恩人ってだけでなくて見た目も格好いいからよね」

「格好いい……ですか?」

「お嬢様は面食いです。セリアの中性的な顔が好みに合ったのでしょうね」

「……サヨウデスカ」



 あぁ……エミーリア様。今の男の子と間違えるような容姿から、私が成長して顔つきが変わったら捨てるのでしょうか?


 あなたは確かにヒロインです。でも、ざまぁされるタイプの悪役ヒロインのようだ。

 エミーリア様を素敵な淑女に変えなければ、身分の高いイケメンに恋をして、事件をお越し、ざまぁされ、恩のある一族ごと断罪され…これは由々しき事態である。



「ニーナさん、先輩方……お嬢様を変える方法はないんでしょうか?」

「言ったわね?次、お嬢様のイヤイヤが始まったらメイド長ではなくセリアを呼ぶわ!ね、ニーナ良いでしょ?」


「そうですね。セリア……お嬢様を説得して成功した日は、私の夜のデザートを報酬としましょう。いかがですか?」

「やらせてください!」


「それじゃニーナがずっと食べれないじゃない。交代で私たちのデザートもあげるわ」

「「「さんせーい」」」

「決まりですね。今夜、寮の談話室に集合して作戦を練りましょう」



 こうして早番のメイド達によるお嬢様改造計画が始動したのだ。

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