IF◆テオルート前編(sideセリア)
突然の思い付き番外編。
もしセリアがテオを選んだとしたらのIF物語。48学園(冬)のカフェでテオが告白したシーンの続きからとなります。
セリアとテオを簡単に復習するなら、17屋敷(2年目)、19.5受験(テオ視点)、45屋敷(テオ視点)がおすすめです。
カフェで今までの事を振り返るうちに、私はテオの気持ちに気付いてしまった。
テオの顔を見ると、慈しむような、でも熱のこもった眼差しで私を見ている。この瞳はずっと私を妹だと思って向けていたのではなかった……顔に熱が集まる。
「ねぇ、いつから?」
「自覚したのはルイス様の手紙事件が解決したときかな。それから真っ直ぐで、強くて、涙もろくて、どんどん綺麗になっていくセリアをずっと見ていた」
「……そんな前から」
「俺はセリアが好きだよ。俺の事を兄ではなく、男としてみてくれないか?」
テオの言葉に反応できない。彼は本当に私の事を思ってくれているのが分かったのに、私は自分の気持ちがわからない。
「すぐに答えなくて良いから意識して、考えてくれよな。俺は待ってるからさ。さぁ帰るぞ」
「うん、帰ろう」
テオの事はずっと前から好きだけど、この気持ちはお兄ちゃんに対する気持ちと思っていて、今もそう思っていたはずなのに……前回会ったときに抱き締められた事を思い出して、急にテオは男だったんだと突きつけられたような気持ちになった………私はなんでこんなにも動揺してるのだろう。
そして耳を赤くしたままのテオに促され、テオは屋敷に、私は学園の寮へと帰った。
**********
本当に自分の恋愛偏差値の低さに絶望する。テオに好きと言われたことは嬉しいけど……私の好きは何の好きかすっかり迷走していた。
「血塗れ枯れ枝さん……私はね、気持ちが迷子なんだよ。君は過去にそういう経験ある?」
「……ないだろう」
植物園で魔界植物と話しているとツッコまれて、後ろを振り向くと苦笑いをしたエルンスト様が立っていた。なんでまた聞かれるのか……
「また魔界植物に話しかけてるのか」
「はい……」
「あの執事に好きとでも言われたか?」
「なんでそれを」
「なんだ、当たりか」
「───!」
かまをかけられ、まんまと引っ掛かった。エルンスト様は私の隣に腰をおろすが、私は潜れる穴はどこかにないかと探したくなる。
私ってそんなに考えていることが分かりやすいのだろうか。
「返事はしたのか?」
「いいえ、自分の気持ちが分からなくて、まだ何も」
「なら、俺の事も考えてくれるか?」
エルンスト様は鋭い眼差しで私を見つめ、なのにその手は優しく私の黒髪を掬い上げ口づけの真似をする。まるで騎士の忠誠のような、絵になるような姿で魅入ってしまう。
「俺は君に惹かれている。セリアが愛しい」
彼のストレート過ぎる言葉に私の心臓が止まるかと思った。まるで物語の主人公と王子様のような告白……そう、物語を見ているような他人事のように見る冷静な自分がいる。
エルンスト様は凛々しくて、剣も強くて、私を私にしてくれたきっかけの子供で、今は大切な友達で……
テオは少し意地悪だけど優しくて、お茶が美味しくて、文字や仕事を教えてくれて私をずっと側で支えてくれて……この世界を教えてくれた人で……だから今の私が作られて……
「セリア…………ハッキリ言って欲しい。俺を諦めさせるために」
「エルンスト様?」
「だってセリアの顔はもう、俺ではない誰かを想う顔をしている」
「────っ!」
私の瞳を力強く見つめながらエルンスト様は懇願する。まさか他の人に告白されて、その人を傷付けることで分かってしまうなんて。そう……私が本当に好きな人は
「エルンスト様、私は執事であるテオが好きなようです。大変申し訳ございません」
深く頭を下げて、素直にエルンスト様の気持ちには応えられないことを伝える。するとエルンスト様は握っていた髪からパッと手を離して立ち上がった。
「セリア、正直に話してくれてありがとう。既に余地はなかったんだな……でも俺は恩人の黒猫への憧れは変わらない。これからも友達でいてくれないか?」
「はい。そういうことであれば。貴重な友達です!」
「ありがとう。それと、きちんと執事に伝えるんだぞ?貴族の俺に対しても宣戦布告に近い眼差しを向けるほどだ。きっと待ってる」
「エルンスト様……はい。ありがとうございました!」
そう言うとエルンストは植物園から去っていった。伯爵家という権力を使えば断ることなど出来ないのに、きちんとエルンスト様は私の気持ちを優先させてくれた。私は頭を上げることなく彼の背中を見送った。
私は自覚した思いを早くテオに伝えたくて仕方がない。今まではいつも側にいて、すぐに話せる距離だったのにここは学園で、すぐに話せなくて、私はテオとの離れたこの距離が急に寂しくなった。
**********
そして学園の休日、ルイス様とエミーリア様と一緒にダーミッシュ家に帰って来た。テオと顔を会わせるのはあの告白以来だけど、私たちを出迎えたテオは何事もなかったように、いつも通りに接してくれる。
仕事中に話しかけるわけにもいかず、休憩時間も誰かがいてテオと話せなかった。テオは相変わらず普通で、私だけが意識してしまっているようで、なんだか悔しい。そっちから告白してくれたのに……いいもん、私も普通にするもん!
と意気込んだものの、やっぱり早くテオと話したくて夜の部屋に突撃することにした。いつも通りノックしようと扉の前に立つが、なんだか緊張してしまって手は宙に浮いたまま。何分も立ち尽くしていると声がかけられる。
「セリア、開けてくれ。鍵は開けっ放しだから」
「え?あ……う、うん」
後ろを振り向くとお湯と菓子をトレーに乗せたテオが立っていた。どうやらお茶の用意のために部屋を空けていたらしい。驚いて言葉が詰まってしまうが、すぐさま扉を開けるとテオは部屋へと入っていくのを私はただ見ていた。
行くとは言っていないに、テオの手には二人分のお菓子が乗っていて、私の事を迎えてくれようとしていたことが分かる。
「どうした?どうせお茶飲みに来たんだろ?菓子も料理長にもらってきたんだけど」
「食べる!飲む!」
「ははは、だろ?入ってこいよ」
初めて入る訳でもないのに、部屋を見渡してしまう。久々に見たが相変わらず乱れのない整理整頓された綺麗な部屋で、でも色味の少ない配色はやっぱり男の子らしさが出ていて、紅茶の香りで満たされている。
小さなテーブルにテオがお茶を出してくれたので、一口飲むとずっと飲んでいたくなるような安定の美味しさが口に広がって、緊張が少しだけ軽くなった。
「テオ……話があるんだけど」
「セリア……聞かせてくれるのか?」
静かに頷くとテオはすぐ横のベッドに腰掛け、少し不安げに瞳を揺らしながら見つめてくれる。私はテオにこんな顔をさせたいわけじゃない。
「私ねテオの事ずっとお兄ちゃんだと思っていた。年上だし、優しいし、誰よりも頼りになるし、頼ってたし、尊敬していたの」
「うん」
「そしてね……私、私ね」
続きの言葉がなかなか出てこない。告白ってこんなにも勇気が必要だったのか。紅茶で落ち着いたはずの緊張は先程の比ではないくらい高まり、心臓の音がうるさい。
でもテオは急かすことなく静かに待ってくれている。でも不安なままのテオを長引かせたくない私は、めいいっぱい息を吸って、想いを吐き出した。
「私もテオが好き!お兄ちゃんじゃなくて、きちんと男性として!」
「セリア……」
「今日までの私があるのはテオが色々教えたくれたからだよ! 文字も、生活も、仕事も……恋も……もうテオ無しじゃ私は」
「セリア!」
緊張で苦しさを感じどんどん小声になってしまっていたら、テオが横からぎゅっと抱き締めてくれて、頭をテオの胸に預ける形になった。テオの心臓の音がうるさく聞こえ、私に負けないくらい速くて、体温の高さが伝わって、私の心も熱くなる。
「やっと……やっと届いた」
「ごめんねテオ。私わかってなくて、鈍くてごめんね」
「良いんだ。それも含めて好きになったんだ」
「うん、待っててくれてありがとう……でも、ちょっと苦しい」
「悪いっ!」
抱き締める力が強過ぎて、緩めて欲しい程度でお願いしたつもりが、テオは焦ったように体を離してしまう。もう少し抱き締めてて欲しかったのに……とテオを見るといつも年上ぶってる彼の顔は真っ赤で、心の底からきゅんとしてしまう。
それから私の体は自然と動いていた。椅子から立ち上がり、高い位置にある顔に近づくように、背伸びをするが少し届かない。その僅かに届かない距離がもどかしくて、差を無くすためにテオの襟を掴んで引き寄せた。
「セリ───っ!?」
私は戸惑うテオの声を遮るように唇を重ねた。テオは先にお菓子を試食していたのか、バターのいい香りがする。美味しそうで食べ…………と思った瞬間に自分のとんでもない行動に気付き顔を離す。
「あ……私……私……」
「セリア……お前って奴は……」
「ごめん!思わず出来心で!」
テオの目は見開かれ、呆れた顔をしている。両思いだと分かっていても、同意も無しにキスなんてセクハラだったと自覚して例の体勢に入ろうとするが、テオに肩を掴まれて止められる。
「セリアはやっぱり自覚が足りない」
「自覚したから謝ろうと。ごめんって」
「馬鹿か。二人しかいない密室で、夜で、薄着のパジャマで来て、告白して、尚且つ煽るようなことするなんて、危機感が足りない。もっと考えてくれ。俺はもう兄じゃないんだぞ」
「…………?」
「俺は18歳の健全な男だ。良いのか?」
「────あ!」
テオに苦しげに指摘され、私は本当に馬鹿だと重い知らされる。こんなことを自分から仕掛けておいて何だけど、今はキス以上の覚悟なんてない。いやキスも本当はもっと先の事だと思っていたくらいなのに、私はとんだ馬鹿だ!
体は棒のように固まって動かないのに、私の頭の中は今までにないくらいぐらぐらと動揺していた。
「本当に仕方ない奴だなセリアは……ほら、菓子を持ってもう帰れ。俺が我慢できる間に」
「あ……ごめん、ありがとう!また明日!」
動揺を見透かしたように苦笑いを浮かべながら体を離し、テオは私に逃げ道を作ってくれる。私はその優しさに甘えるように、お菓子を手にテオの部屋を飛び出した。
17時にはテオ視点を予約投稿しております。




