57 それから
本編最終回です。やや長めですがお付き合い下さい。
卒業式が終わり――――
洗脳されていた令息たちは跡継ぎからは外されたが、一応洗脳の被害者と言うことで廃嫡されるものはほとんどいなかった。
また洗脳中の記憶が曖昧なため、希望者は留年扱いでもう一度同じ学年からやり直すことになった。
ゲイル様とギュンター様も他者より少し遅れて復学したのだが、二人を含む洗脳の重傷者だった人達は学年ひとつ下の私のクラスメイトになった。
私のクラスには王女、次期公爵、豪商の娘と国内の有力者が揃い踏みで、監視を任せるのにちょうど良いらしい。
ゲイル様もギュンター様も憑き物が落ちたように礼儀正しく、皆に深々と謝罪した。二人には正式な婚約者はいない。しかし候補だった令嬢はいたようで彼女たちは継続を望んだが、自ら外してもらうよう頼んだそうだ。
本来の人格は本当に聡明で皆に等しく優しい、跡継ぎや側近を外されたことが勿体無いくらいの人達だった。
ルイス様はゲイル様に替わりアランフォード殿下の側近になるべく、エルンスト様の兄ローランド様の元で秘書官の勉強が始まっていた。アランフォード殿下は婿入りしたとしても、次期王弟にあたるため王族の責務からは外れないらしく、有能な秘書官が必要らしい。
ルイス様は本来は卒業後はアドロフ様の補佐をする予定だったが手がまわらず、巻き添えでテオがダーミッシュ家の補佐業務をすることになり死にそうな顔をしていた。
そして私が卒業する頃――――
マンハイム子爵家の処罰が執行された。マンハイム一族は犯罪に大いに加担し、王族を狙ったことで全員処刑。クレアは魔道具を使いすぎた後遺症で徐々に衰弱し、処刑を待つことなく亡くなった。
グレン様を含むハーバー侯爵家以外にも犯罪に加担した貴族が捕まり、処刑または北の監獄にて強制労働となった。
グランヴェール国内の貴族社会は大きく崩れたかに見えたが、有能な貴族も残っており、その者たちで国を支えた。
事件解決とフォローに助力した貴族は格上げされた。ルイス様以上にアドロフ様は裏で無双していたようで、翌月にはダーミッシュ家は男爵位から伯爵位へと大きく格上げされる予定だ。
多くが爵位のひとつ繰り上げまたは取り潰された貴族の領地を分け与えられる中、ダーミッシュ家の報奨は飛び抜けていた。魔王アドロフ様…………何をしたのか。
そして更に月日は流れ――――
「トルタ警備会社のシークレットサービスのご利用ありがとうございます。今回の道中は私が同行させて頂きます」
「待っていたわセリア、会場まで宜しく頼むわね」
「はい、奥様」
「もう、まだ早くってよ!恥ずかしいわ」
20歳をむかえ、より美しくなった親友のエミーリアが屋敷のエントランスにて笑顔で出迎えてくれる。彼女は卒業の時にルイス様からプロポーズされ正式に婚約し、挙式は来年の予定だ。
エミーリア様の隣には立派な執事になり、今は執事長の仕事を学んでいるテオが立っている。テオは私にとって変わらず兄のような存在だ。
「お嬢様、セリアはしっかり挨拶してますが、会社のアパートからではなく屋敷の寮棟からしれっと来てますからね」
「テオそれは……せっかく格好よく迎えに現れたのに」
「ここはセリアにとって実家なんですもの、想定済みよ。料理長がセリアにお菓子を作ったとニーナから聞いていたしね」
「そんなぁ」
「さぁ、出ますよ。乗ってください」
私とエミーリアは馬車に乗り込んでテオは御者席に座ると、使用人に見送られ出発する。馬車の中で料理長のお菓子をつまみながら私とエミーリア様で話をする。
「セリアのそのドレス珍しいデザインね。……もしかして」
「うん、戦闘仕様の細工ありのドレスなんだ。裏には武器が何点か仕込み済み。一応護衛の仕事中だからね」
「物騒ね、依頼せずに普通に一緒に行こうと誘えば良かったわ……」
私は卒業後すぐに侍女を辞め、リリスをはじめ集めた仲間と共に会社を立ち上げた。学校の設立は現実的には難しかったため、民間企業が良いだろうとまわりからのアドバイスを参考にした。
そして卒業時に私は王国から手が震えるほどの褒賞金を頂いたので、設立資金にしようとしたがリリスに却下された。
起業に誘ったリリスが「私が社長になってお金を動かすから、セリちゃんのお金はセリちゃんのために使いなさい」と言われてしまったのだ。
ちなみに社長はアンカー家から独立して褒賞金を超える多額の軍資金を携えたリリスが務め、私は副社長、ゲイル様は経理、ギュンター様が現場リーダー、そしてカールさんを新人指導者として招いて会社をスタートさせた。
私とリリスは、有能なゲイル様とギュンター様が領地で日陰者として過ごすのが勿体なくて、起業に誘ったら二つ返事で付いてきてくれた。
カールさんも誘拐事件当時は洗脳されており、領地にて療養していた。解術できたあとアドロフ様は王都の屋敷に戻ってこないかと誘ったが、「迷惑をかけたから……」と断られたらしい。
しかしアドロフ様は腕の立つ彼にまた本職で頑張れる機会を与えたい、と私に相談してくれて我が社にスカウトした経緯がある。
最初は5人でスタートしたが、今や社員と生徒で約60人を抱えるほどまで成長した。護衛を目指す若者をスカウトして、私とギュンター様による特別無償の半年のスパルタ教育で実力者を作り上げた。そして派遣先で評判となり事業は軌道に乗った。
元とはいえ側近候補として腕のたつギュンター様の剣術や、黒猫の体術が学べると話題になり、貴族から指南の申し込みも多い。
またカールさんも努力をしてきた人で、護衛を目指す初心者への指導が分かりやすいと学校部門も人気だ。
リリスとゲイル様の経営手腕は凄いの一言だ。あの二人に任せれば間違いもなく、私はすっかりお飾り副社長になってしまった。
そして馬車で着いたのはミュラー公爵家の屋敷。ミュラー家は事件解決の功績と王族との婚姻により格上げされたばかり。
今日はそんな次期公爵アランフォード様とアンネッタ様の結婚パーティーで、歳合いが近く親しい人たちばかりのカジュアルなもの。それに私たちは招待されていた。
屋敷に着き馬車を降りると入り口でアランフォード様とアンネッタ様自ら出迎えてくれた。その後ろには側近を務める人達が控えており、エルンスト様とルイス様もいた。
「3人ともよく来てくれた。ほらエルとルイスは他の奴等に任せてパートナーのエスコートにつきなさい」
「「ありがとうございます」」
「テオも今日は執事ということを忘れて楽しんでいってくれ」
「はい、ありがとうございます」
そうして時間になり和やかなパーティーが始まる。アランフォード様とアンネッタ様はお祝いの言葉を伝えに来た友人たちに囲まれて幸せそうだ。
「素敵なパーティーだね」
「そうだな。セリア、次は俺たちだ。ようやく結婚できる」
「エル、待っててくれてありがとう」
「まったくだ。本当はセリアが卒業したらすぐにでも結婚したかったから、この2年は長かった」
私の腰に当てているエルンストの手に力が込められる。会社が軌道に乗るまで待って欲しいとお願いした時、エルンストは了承したものの本気で悔しそうにしていた。
真面目な彼は、律儀に結婚するまでキス以上のことはせず、とても誠実さを感じるのだが……半年前から時々どこか熱が込められた視線を私に向けているのに、どこか距離を取られていることに気がついた。
そして数ヵ月前に「エルの様子がおかしい」とエルの矛盾した行動をリリス師匠に相談したら――――
「もう軌道に乗ったわ!会社の創設者としての責任を感じてるんだろうけど……この私が社長なのよ!安心して結婚しなさい。いいえ、会社のことを思うのであれば今すぐに!なんで早く言わないの!」
驚くほど怒られ、焦った様子で社長命令を下された。それを報告した時のエルンスト様はとても嬉しそうで、その日は腰を抜かすほど大人のキスをされ今でも思い出すだけで恥ずかしい。
その時テオが以前言い放った「男は全員ケダモノだ」という言葉を思い出した。私は随分とエルンストにお預けをしてたことに気が付いた。
彼は自分の気持ちよりも、私の都合を優先して待ってくれていた。今まで私は彼の優しさに甘えすぎていたのかもしれない。
「ねぇ、エル。結婚したらエルの言うこと何でも聞くよ」
「……は?」
「卒業してからずっと私のお願いばかり聞いて貰ったから、次はエルの番かなって」
「……セリア、明日入籍しよう。挙式予定の来月まで待ちたくない。早く一緒に住みたい」
「うん、いいよ!」
もちろん翌日に入籍できるわけもなく、この会話を聞いたアランフォード様には「久々にエルが暴走したか!」と爆笑されながらも、無事に数日後には入籍した。
今私の隣ではエルンストがぐっすり眠ってる。その寝顔は少し幼く見え、スラムで出会った頃を思い出す。
私の今世はエルンストとの出会いから始まったけれど、この人を助け、幸せにするために転生したのかもしれない。私は彼の頭を少し撫でて、一緒に眠りについた。
私はその夜、夢を見た。
前世で助けられなかった子供が私に言うのだ。
「一緒に幸せになろう」
大好きな彼と同じ笑顔で。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました!




