54.5 お茶会(エミーリア)
今日はアンネッタ様の発案でミュラー侯爵家にてお茶会に参加させていただいたのだけれど、素敵な時間を過ごせたわ。
なんていったってセリアの男装!漆黒の短髪、雑な口調に態度、闇と同化しそうな黒い服装。出会った当時を思い出してトキメキが止まらない。格好良すぎで絵姿に残しておきたいくらい。
それが皆様にも伝わったようで良かったわ!
途中からエルンスト様がいらっしゃって、男装セリアと並んだ姿は、どこか薔薇を背景に禁断の香りがしましたわ。他の方も同じ事を考えていたのでしょう……何人かは完全に扉を開いてしまった様子ね。
エルンスト様も随分と男装セリアを気に入って頂けていたようで、見たこともない甘い顔で照れていましたわ。そのお顔はファンの方には刺激が強かったようで、のぼせて目眩を起こす令嬢も。
さすがエルンスト様、テオを押し退けてセリアの心を射止めただけあるわね。見た目は無口なクールっぽいのに、鈍感なセリアにも伝わるストレートな愛情表現……すごいわ。
「アンネッタ様、作戦通りでございますね!ファンの方たちにもセリアの魅力が伝わり嬉しいですわ!」
「仏頂面のエルのあのような顔を引き出せるのはセリアさんしかいないと、彼女たちも分かったでしょう。もう邪魔しようなんて考えないはずよ」
そう今日はアンネッタ様の発案でエルンスト様とセリアのお似合いぶりを見せつけ、令嬢たちに諦めさせるためのお茶会だったの。
アンネッタ様も大切な幼馴染みのエルンスト様と、お気に入りのセリアの仲を応援してくださっている。そして私にはもうひとつ目的があるの。
「エルンスト様、セリアの服に見覚えはございませんか?」
「エミーリア嬢、もしかして俺の服か?」
「はい、アンネッタ様の協力で数年前の服でサイズが合うものを拝借しましたの。セリアにとっても似合っていたので、あの服を私に譲っていただけませんか?」
「なんで君に譲らなきゃいけないんだ」
エルンスト様はセリアにあげるのではなく、ファンでもない私が服をねだることを不審に思い警戒する。そう簡単には頂けませんのね。仕方ありません、切り札を使いますわ。
「屋敷でセリアに着させて私の目の保養にするためですわ。セリアに渡したら恥ずかしがって隠されてしまいますから。もちろん見返りは用意してます」
「ほう、聞かせてもらおうか」
「セリアのある情報を……お義兄様よりお噂は聞いておりますのよ」
「なるほどルイスからか。…………1着で良いのか?」
エルンスト様が取引に飛び付きましたわ。
洗脳アイテム事件を共に調査していることで、お義兄様とエルンスト様は随分と仲が良くなり、よく話を聞いていたの。そこからの情報の読みは正しかったようね。
「色味の違うのをもう1着あると嬉しいですわ」
「分かった。後日渡そう」
「ありがとうございます。こちらがセリアの情報にございます。ご活用くださいませ」
「こちらこそ、良い取引ができた」
私とエルンスト様の取引は成功したわ。これで、いつでもセリアの男装が楽しめるわ。お義兄様のお下がりも着れるけど、やはりセリアには戦闘向けの服が似合うんだもの。
それに2着も貰えるのもラッキーだったわ。情報通のリリスさんによると、男性は恋人が自分の服を着ている姿が好きだと聞いたの。『彼シャツ』と言うそうよ。エルンスト様ももれなく該当したということのようね。
「あらエミーリア様、カツラもぜひ持って帰ってくださいませ」
「アンネッタ様、ありがとうございます。今度お礼の品をお送りいたしますわ」
艶のある黒髪のカツラってなかなか探しても見つからないのよね。カツラを作るためにセリアの綺麗な髪を切って作るのは本末転倒だし可哀想でできないから、ラッキーだわ。
すると先程から思案顔だったエルンスト様からある提案をされる。
「エミーリア嬢、昔のルイスの服は残っているのか?もしあるなら借りてみてはどうだろう。セリアと二人で男装するのも面白いんじゃないか?」
「まぁ、確かに魅力的ですわ」
盲点でしたわ。二人でするならセリアも抵抗なく男装してくれそうですし、一緒に楽しめるわ!エルンスト様は本当に素敵なアドバイスを下さったわ。
私は次の休日すぐにお義兄様に服を貸してもらえるようにお願いをしてみたの。セリアに野望がバレないように不在の時を狙ってね。
するとお義兄様は珍しく目を見開いて固まってしまったわ。淑女らしくないお願いだから、引いてしまったのかしら……
「リアが僕の服を着るの?」
「えぇ、セリアと男装遊びをするのです。先日エルンスト様から私の分はルイスお義兄様のを借りてみてはどうかと言われて」
「エルンストが……ねぇテオ、リアが着れそうなの残ってる?」
「新品同様が数着、気にしなければ10着以上はございますね」
「うん、全部持ってきて」
「そんな全部だなんて多いわ!2着もあれば十分よ」
日々の忙しさでダルそうにしていたお義兄様が急に元気になり、テオに指示を出す。お父様とお母様が成長記録の思い出として使い込んだ服以外は全て残しているらしく、テオがワゴンに乗せて運んでくる。
「こんなにたくさんの中から2着を選ぶのなら、しっかり試着しないとね」とお義兄様の言葉で、強制的にファッションショーをさせられる。
恥ずかしいから止めて欲しいのにニーナはお義兄様についてしまい、どんどん着替えさせられてしまう。もちろんテオはお義兄様派で、私に味方がいない!
「何を着てもリアは可愛いから、どれをあげるか悩んでしまうね」
「もうっ!お義兄様ったらそればかり……ふふふ」
お義兄様の楽しそうな顔を見ていたら、なんだか私も楽しくなってきたわ。お義兄様が喜ぶならどんな服を着ても良いかも。
セリアもあの服がエルンスト様のお下がりと聞いたら嫌がらずに着てくれそうね。だって大好きな人の服を着るなんて、まるでその人に包まれているような安心感とトキメキが絶妙なバランスで……って、あら?
セリアとエルンスト様は恋人で、私とお義兄様は兄妹だから同じに考えちゃ駄目だったかしら。じゃあなんで私はこんな気持ちに?
「リア、急にぼーっとしてどうかしたの?顔も少し赤いね、疲れさせちゃったかな?」
「そ、そうかもしれませんわ!服はお義兄様のおすすめにするから、決めておいてください。ニーナ、部屋に帰るわ」
そう言って赤い顔を隠すように、素早くお義兄様の部屋を出る。
私がこの気持ちの正体を知るのは、もう少し後のこと。




