34 社交界
「ニーナさん流石です」
「セリアも上手になったけど、ニーナは更に上ね」
「お嬢様の為でございますから」
今日はデビュタント当日。特別な夜会なのでへアセットとメイクはニーナさんの本気モードで仕上げてもらっている。その技術は素晴らしいもので私も勉強になる。
支度が終わって間もなくするとノックが聞こえ、返事をすると扉が開いた。ルイス様とテオが迎えに来てくれたようだ。
「迎えに来たよリア。うん、いつもは可愛い感じだけど、今日は綺麗だね。ニーナ、ありがとう」
「そうでしょお義兄様。ニーナも素晴らしい自慢の侍女なのよ」
「…………」
「ニーナさん?」
ニーナさんの反応がないので顔を伺うと、彼女の目にはうっすら涙がたまっていた。
「こんな素晴らしい日に申し訳ございません。幼き頃から見てきたお嬢様の成長が嬉しく、ご立派にこの日を迎えたことが……ぐすっ」
「ニーナ!貴女も大好きよ」
「あぁお嬢様、ありがとうございます」
ニーナさんも16歳の頃から侍女の仕事をしつつ私の教育も行うという重圧の中で頑張ってきたのだ。一緒にエミーリア様の我が儘対策を考えたり、髪型やメイクを研究したり、エミーリア様の為に尽くしてきた。
立派になった姿をみて感動する気持ちはとても分かる。
「なんだかテオを思い出したよ」
「ルイス様は黙っててください」
そうだ。2年前のルイス様の社交界デビューの時は泣きはしなかったものの、テオの顔は息子を見送る父のような顔をしていたのが懐かしい。あぁ、なんと素晴らしきことかな。
「セリア、なんでお前が一番泣くんだ」
「セリア駄目じゃない。折角の変装メイクが流れちゃうわ」
「うぅ、ぐずっ、ごめんなさい、感動しちゃいまして、うううぅ」
感動が溢れて、涙を流してしまった。大変だ。化粧が流れてしまう。
学園の生徒と会う可能性があり、正体がバレるとあとあと面倒なので今日は変装している。いつもの茶色のカツラではなく、セミロングの灰色のカツラとメガネを着用して、タレ目メイクを施していた。
頑張って涙を止めて私は荷物を持ち、皆と玄関に向かう。
玄関には男爵夫妻が待っており、アドロフ様はエミーリア様の美しさに感動して「こんな可愛いリアを誰にも見せずに独り占めしたい。今日のデビュタントは中止だ」と言い始め、シーラ様に怒られていた。
私とテオとメイド長のスザンナさんはダーミッシュ家の皆様とは別の馬車に乗り込み、ニーナさんを始め使用人総出で見送られながら出発する。
デビュタント会場の王城へ着くと、城の圧倒的な大きさと美しさに驚く。遠くから見ていても綺麗な姿だったが、近くでみると建築細工の細かさや、会場までを彩る薔薇の道のなんと綺麗なことか。
通路にいる貴族たちもきらびやかで、子供だけの学園パーティーとは全く違いピリッとした空気が混ざっていた。今日デビューする令息、令嬢たちを値踏みするような視線も多い。
「セリーナ、従者の待機室からも見えるから今は落ち着きなさい」
「申し訳ありません、テオさん」
外仕様のテオに偽名を呼ばれながら注意されてしまい、気を引き締め直す。従者の醜聞は主の醜聞になってしまうため、学園よりも行動に注意すべきところを雰囲気に飲まれて忘れるところだった。
テオはルイス様に同行して何度も夜会に来ているため、すごく落ち着いて頼り甲斐がある。すっかり彼は大人になってしまったようだ。
会場の入口付近まで歩き、ダーミッシュ家の皆様とはここでお別れだ。私も外仕様で対応する。
「エミーリア様、とてもお綺麗です。本日はお楽しみください」
「ありがとうセリーナ」
「今度こそ近くで僕がリアを守るよ。みんなは待機室でゆっくり寛いでいてね」
「「ありがとうございます」」
礼をしてダーミッシュ家の四人を見送り、待機室へ移動する。その間にスザンナさんにお手洗いやメイクルーム、貴族の休憩所など会場付近の説明を受け、今度ひとりで同行したときでも対応できるように頭に叩き込んだ。
あとは呼び出しがあるまでは、待機室で待つばかりである。
学園パーティーや噂の事があり、会場内でエミーリア様を見守れないのは不安であるがルイス様とご夫婦を信じるしかない。
それに待機室も社交場のひとつだ。従者同士で繋がりを作り、集められる情報は馬鹿に出来ないほど重要だと聞いている。
学園で恋愛活動する腑抜けた侍女候補の令嬢とは違い、ここにいる正式な侍女たちの雰囲気は洗練された人が多く緊張してしまう。
「セリーナ、大丈夫。君も立派な侍女だ。堂々としていれば良い」
「そうですよ。私が仲良くさせてもらっている他家の侍女にも紹介しますね」
「お二人ともありがとうございます」
テオとスザンナさんにフォローされ、顔をあげ深呼吸して落ち着き直す。ちょうどパーティー開始の音楽が聞こえ始め、待機室での交流会のようなものも始まり、スザンナさんやテオに色々な人たちを紹介してもらい時間は過ぎていった。
しばらくすると王城の使用人から呼び出される侍女が出てきて、貴族の休憩所へ案内されていく。
どうやら聞き耳をたてていると目眩を起こす令嬢が多いようで、「デビュタントで緊張してるのかなぁ」と思っていたら、テオが死んだ目のようになりため息をつき始める。
「テオさん、どうかなされましたか?」
「……あれは令嬢がルイス様に喧嘩を売った末路だ」
「はい?」
なぜ令嬢がルイス様にケンカを売り、目眩に繋がるのか全く分からない。テオの声が小さかったので聞き間違いかと思ったが、テオが小声で話を続ける。
「養子としていじめられてませんか?と心配したふりをしてルイス様を狙う令嬢がいるんだ」
「確かに喧嘩を売ってるね。ルイス様にとってご夫妻とリア様は至宝だからね」
「ああ。でも言葉で言い返しても効果は無いから、笑顔で黙らすらしい」
「……あ」
「気付いたか」
私たちはずっと一緒で慣れているが、ルイス様の本気の微笑みの威力は凄まじい。エミーリア様の背後にいたために微笑みを直視してしまい、学園で気を失った令嬢を見たことがある。
このような貴族だらけの会場で気を失ったり、目眩をおこして場の雰囲気を下げるなど評判に関わる。それを狙ってやってるのだが、ルイス様は微笑んだだけで他人から見たら何も悪くない。
「そして男性に対しては別パターンで、ルイス様と目が合うと体が凍ってしまったように動けなくなる仕様もあって、『氷の微笑み』と呼ばれている」
「お、恐ろしい」
学園でルイス様が熱い視線を送られつつも、友人以外に遠巻きにされている理由が判明した。ルイス様に対して美しく興味はあるが微笑みが怖くて近づけないのだ。
私の第2の天使が悪魔になってることにショックを受けた。前から魔王アドロフ様に似てきているとは感じていたが、既に魂を売り渡していたとは。
でもルイス様は変わらず私たちには優しいし、テオから聞いたことは忘れてしまおう。
恐ろしい話も聞いたが、私たちダーミッシュ家は使用人が呼ばれることもなく無事に夜会は終了した。
エミーリア様に感想を聞くと、ひたすらご夫妻とルイス様に連れられて自己紹介をして回っただけで疲れたらしい。顔と名前が覚えきれないと嘆いている。
また、クレア様も見かけたが直接絡まれることもなく楽しかったようでほっとした。




