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31 休日

 ダンスタイムが終わり、本格的なパーティーの時間も終わりを告げた。会場はまた2時間ほど開放されているが、あとは自由解散となっている。


 燃え尽きた私は逃げるように大ホールから小ホールへ移動し皿に料理を盛り、中庭のベンチに座って回復に努めた。もちろん人間観察を忘れず再開したことについては誰か褒めて欲しい。今日の私はすごい頑張っていたのだ!


 その想いが伝わったのか、クラスメイト数名も中庭のベンチに集まり、今日の事を労ってくれた。春のブランケットをくれた令嬢であるツンデレ姫は、スイーツを綺麗に乗せた皿を差し出して


「やっぱり食べるのは止めたわ!あなたの好きなように処分しなさい!」


 相変わらずのツンデレ具合に癒され、楽しい時間を過ごすことができた。令嬢同士、令息同士によるライバルの小競り合いなど気になる点もあるが、終盤になっても特に大きなトラブルも起き無かったので、私はスイーツを美味しく頂いて寮の部屋に帰った。



 **********



 パーティーの翌日から1週間ほど学園はお休みになった。約1か月後の前期テストに向けての、教員達の打合せや準備があるため、生徒の校舎への出入りを制限しているのだ。

 前期テストが終われば2ヶ月の長期休みに入り、本格的な社交シーズンが始まる。今年、エミーリア様もデビュタントを控えており、今日は打ち合わせに屋敷へ帰ってきていた。



 アドロフ様とシーラ様も加わり、勉強部屋でドレスとアクセサリーを並べながら打合せを行う。しかし、デビュタントの話はほどほどに先日の学園パーティーについての話題に変わる。


 何故エミーリア様があんな目にあったのか心当たりがないか聞いたところ、婚約者や高位貴族が警告に動き出したためクレア様に一声かけたらしい。



『お気を付けて、このままではマンハイム様が傷付くことになるかもしれないわ』



 エミーリア様が伝えた内容は心優しく、相手を心配する言葉。それを余計なお世話だと逆恨みしたのではと、エミーリア様は考えているようだ。



「優しいリアの親切心を無下にして……マンハイム子爵家の令嬢クレアか。やってくれるね」

「ねぇ、お父様。クレア様は婚約者がいる複数の殿方とも深い関係になりつつあるわ。婚約者の家から正式な抗議は行っていないのでしょうか?」


「1度はいっているとは思うが、話を聞く令息の爵位の方が格上だ。クレア嬢が令息に泣きついたら……残念だが今の彼らは普通じゃない。逆に爵位が下の婚約者の立場が危うくなる。それを分かっていてクレア嬢は大胆に動けるのだろう」

「そんな。でも確かにあの方たちの言動はクレア様の事しか考えていない発言でしたわ」



 エミーリア様は不安げに視線を落とした。それを支えるようにルイス様がエミーリア様の肩を引き寄せた。



「何でこんな急に彼らは変わってしまったのかな。クレア嬢の取り巻きの中心であるゲイル様、ギュンター様、グレン様も去年まで学園内では公平な方達だったのに……」

「ルイスもそう思うか。うーむ」



 エミーリア様を狙う害虫をサクッと裏から遠ざけるほどの手腕を持つ魔王アドロフ様でさえも難しい案件のようで、腕を組んで考え込んでいる。


 クレア様は確かに守りたくなるような見た目の可愛さはあるが、性格は悪そうだ。マナーや言葉遣いは付け焼き刃で貴族の中では気品を感じ取れないし……もしかして取り巻き達はダメ女が好みなのだろうか。

 しかし高位で見た目麗しい令息の人が必ず、性格が変わるほどダメ女が好きなはずはない。



 クレア様が無条件で愛されるヒロインで、令息達が攻略対象だとしたら……うーん、一連の流れはまるでシナリオ強制力が働いているせい?エミーリア様の方がずっとヒロインに相応しいというのに、おかしい。



「シナリオ強制力?」

「へ?」

「何ひとりぶつぶつと」



 いつの間にか言葉に出していたらしく、隣に立っていたテオに聞かれてしまう。

 考え込むと魔界植物に語りかける悪い癖が出ていたようだ。アドロフ様、シーラ様にも興味を持たれてしまった。



「考え事かい?シナリオ強制力ってどういう事か教えてくれるかな?」

「シナリオと言えば流行りの乙女小説で出てくる言葉ね」


「はい、旦那様、奥様。もし、この世界が仮に乙女小説の世界だったら……と考えてみたんです。クレア様が主人公で、例えばゲイル様が恋のお相手だとしたら……シナリオ通りに話が進むように、何かしらの力によってゲイル様は強制的にクレア様の味方になるように仕向けられているのではと」

「彼はシナリオの力に支配され、性格まで変わってしまったと?」


「簡単に言えば、そうです。主人公クレア様の理想とする結末になるように。でも現実ではあり得ないことです。私の妄想ですので気になさらないで下さい」

「いや、面白い発想だったよ」


 そういってアドロフ様は笑って流してくれる。そのあともご家族で学園パーティーの出来事を話し始める。


 リリスと良き友達になったこと。ドレスが素敵だったこと。皆の憧れエルンスト様と踊れたこと。黒猫の事でまたお話に誘われたこと。ルイス様と私のダンスが良かったことなど、トラブルがあったのにもかかわらずエミーリア様は楽しめたようだ。



 しかし、黒猫の事でまたエルンスト様と話す約束とは心臓に悪い。エルンスト様はどれだけ黒猫に執着しているのかと思うと恐ろしい。なぜ、当時の私はあれほど強く叩いてしまったのかと悔やまれる。



 休み明けに今回の報告書を殿下に渡す予定だが、おそらくエルンスト様も一緒に来るだろう。

 黒猫への執着さえなければ、彼は真面目で、強くて、優しく素敵なお方で、何でも話せる友達になれるはずなのに……本当に悔やまれる!筋肉の話がしたいのに!



 あぁ、もっと癒しが欲しい。リリスやクラスメイトには労ってもらった、エミーリア様にはぎゅっとハグしてもらった、ルイス様には頭を撫でてもらった、私に足りないのはそう――――



「テオ、お茶ちょーだい!」



 彼の淹れる紅茶だ。早く飲みたくて休憩室でテオを捕まえて催促する。



「じゃあ私にもヨロシクー、よっ!未来の執事長様」

「儂にもくれ」

「私にも一杯頼むわね~」

「……俺に休み時間はないんですかね」



 休憩室にいた他の使用人からも催促され、テオは文句を言うが、何だかんだ私の好きなブレンドで淹れてくれる。

 こうやって皆でお茶を飲んでいると、まるで家族と過ごしているような気分になり、とても安らぐのだ。

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