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28 学園の夜会

 パーティーは入学式も行われた大ホールと、中庭を挟んだ小ホールの2ヶ所を繋げて会場にしていた。大ホールがダンスも行われるメイン会場になっていて、小ホールには料理、中庭には休憩のためのベンチが並べられていた。

 大ホールに着くと皆ドリンクを手に持ち、始まりの挨拶を待っているところだった。



「リリちゃん、間に合ったね」

「良かったわ!じゃあ私はエスコートの方に遅れたお詫びを伝えにいくから、またね」



 そう言ってリリスは人混みのなかに消えていった。私はまわりをぐるっと見渡す。

 ほぼ全校生徒が参加しているだけあって、人の多さに圧倒されるが、ちらほらクラスメイトを見つけ安心した。壁際には友人と談笑しているエミーリア様とルイス様がおり、お二人の麗しい姿を目に焼き付けて先ほどの疲れを癒す。



 数分もしないうちに会場が一瞬ざわめき、静まった。髪を後ろに撫で付け、いつもより色っぽく麗しいアランフォード殿下の登場に会場の令嬢から溜め息がもれる。

 最近は植物園のシートで寝転がりながらお菓子を頬張る、だらしない不貞腐れたアランフォード殿下しか見ていなかったので、『やっぱり遠い存在の王子様なんだ』と再認識させられた。



 彼の後ろにはエルンスト様が護衛のごとく凛とした顔立ちで控えているだけで、他の側近候補はいなかった。側近が減っても、お二人の輝かしさと威厳が損なわれている様子はない。

 誰かが言っていたように『銀色のアランフォード殿下と藍色のエルンスト様が並ぶと、まるで月と夜空のよう』だった。二人とも素敵なのに、エスコートの相手はいない。



「今宵が初めてのパーティーという者もいるだろう。このパーティーでは学年も身分も関係なく交流を持ち、人の輪を広げていって欲しい。皆、楽しんでくれ。乾杯!」

「「「乾杯!」」」



 アランフォード殿下の実に簡単な挨拶を合図にパーティーが動き出す。

 上には豪華なシャンデリア、色とりどりのドレスがその光を反射して輝き、ピアノとヴァイオリンを基調としたオーケストラの音楽が流れ出す。私の目の前には映画のような光景が広がり、気分が高揚する。


 制服で参加しているのは私だけだった。入場してすぐは視線がひどく痛かったが既になく、それぞれの思惑に集中したらしい。



 ダンスの時間まで一時間ほどあるため、私は小ホールの料理を皿に盛り、大ホールの壁際で観察を始める。

 アランフォード殿下は既に男女関係なく囲まれて、身動きが取れない状態だった。それでも笑顔を絶やさず、次々と挨拶をして人を捌いていくのは流石だ。



 エルンスト様もイケメンだから、さぞや囲まれてるだろうと予想していたが数人だけだ。殿下とは真逆で彼の顔には一切の笑顔がなく、クールで近寄りがたい雰囲気を出していた。

 いつもの彼とは全く違う人に見え、じっと様子を見ていたら一瞬目があった。彼は目を少し見開いたあと、すぐに目線を逸らし友人と談笑を続ける。少し眉間にシワがよったような気もする。



 やばい、観察をサボってると思われたかな。すぐに身を引き締め直して、観察を再開する。



 噂のクレア様の回りには男性が侍っており、例のG3も含まれていた。彼女は無邪気そうな笑顔で談笑しており、笑い声が少し響いている。


 意外だったのは、その集団のなかに令嬢数名も混ざっていたことだ。クレア様に侍る令息が目的かと思われたが、令息ではなく令嬢たちはクレア様と親しそうに話している。



 彼女は貴族にしてははしたないものの、平民よりは淑女らしい絶妙な振る舞いだ。確かに明るく笑顔に満ち溢れているので、元平民だった令嬢には親しみやすく、貴族の令息には新鮮なのかもしれない。

 注意深く見てみたが現段階ではただの可愛らしい少女にしか見えず、テンプレ通りの逆ハーレムヒロインだ。



 しかし、胸元が空いたピンク色のドレスの生地には多くの刺繍が施され、身に付けているネックレスの宝石はなんと大きいことか。髪には小さなティアラを身に付け、まるで王女様のような装いで、可愛らしい雰囲気の彼女に派手なデザインは不釣り合いだ。



 G3が彼女の装いをやたら褒めているので、それぞれが財力を見せつけ彼女の気をひこうと贈ったものだろう。センスが無さすぎる。

 またクレア様も高位貴族で見目麗しいG3をまわりに見せびらかすように、ボディタッチを繰り返してイチャついていた。前言撤回……平民よりも軽い貞淑概念かもしれない。



 目線をずらして他の方たちも観察するが、今のところトラブルは無さそうだ。するとエミーリア様が私を見付けたらしくこちらに向かって来た。ルイス様はエミーリア様のすぐ後ろをついてきている。


 エミーリア様の方を見てると同時に近くにいるクレア様も私の視界に入る。クレア様もチラッと見てエミーリア様が近くを通るのを確認したと思った時――――



「きゃ!」

「リアッ!大丈夫?」



 クレア様の出した足にエミーリア様が躓いてしまった。ルイス様が腕をつかみ転ばなかったものの、その拍子にエミーリア様には自身が持っていた飲み物が零れ、ドレスに染みが出来ていた。


「ぁ……ご、ごめんなさい!エミーリアさんが通るのに気が付かなくって!本当にごめんなさい!わざとじゃないの、怒らないで!」



 ショックでまだ何も言わないエミーリア様をいいことに、クレア様は顔を青くして、異常に怯えるように震え謝罪し始める。その声は大きく、会場の目線が集まった。



「そこの令嬢、エミーリアと言ったな。クレアが謝っているんだ許せ」

「クレアちゃんが怖がっているだろう?何で何も言わないのかなぁ」

「クレアの足は大丈夫かい?君に何もなくて良かったよ」

「あぁ、ありがとうございます。嬉しいわ」



 被害者を無視した言葉をG3が次々と放ち、庇われたクレア様はうっとりと男性陣に寄り添う。その姿を見て、我に返ったエミーリア様が返事をする。



「責める気は一切ございませんわ。事故ですもの」

「そうよねエミーリアさん!良かったぁ。でもこんな汚れたドレスでは今日は帰るしかなさそうね。パーティーには相応しくないもの!ルイス様お一人になるの可哀想……ルイス様!私ずっとルイス様が気になっていたのです、一緒にお話ししませんか?」

「……僕は」

「し、失礼しますわ」

「リア!」


 クレア様はエミーリア様を放置してルイス様に近づく。たまらず、エミーリア様は会場を出ていこうと出口へと向かってしまった。ルイス様も追いかけようとしたがクレア様に腕を捕まれ、置いてかれてしまった。


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