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24 学園(夏)

 夕焼けの少年に私は感謝していた。

 彼と出会ったことで前世を思い出し、子供を助け続けようとした。そしてエミーリア様との出会いに繋がり、今の私がいる。



 その少年が今は立派な青年になって私の目の前にいる。ほんのり胸の奥が熱くなり、どこか誇らしげな気持ちになる。昔に可愛がっていた甥と久々に会う叔母の気持ちはこんな感じだろうか?



「セリア?」

「殿下……すみません。エミーリア様も同じ頃に誘拐されたので、思い出していました」

「セリア殿は当時から男爵家にいたのか。であれば、何か当時の黒猫と呼ばれる少年の情報を持っていないか?」



 エルンスト様は黒猫を少年と思い込み、5年も探してくれているのか。ここは正体を明かしてあげた方が良いのだろうか。

でもリリスは「うち以外にも、どの家も黒猫を探してるそうよ。だけど必ず恩返しとか良い理由でもないみたい。正体を明かすときは慎重にね!」と言っていたことを思い出す。



「何故、黒猫を探しているのですか?」

「エルは黒猫にビンタされたことが忘れられないんだ」

「アラン、誤解されるような言い方を」



そういえば、可愛かった彼の顔に2発ほど打ち込んでしまった!背筋に冷や汗が浮かぶ。



「でも黒猫は凄いよな。貴族にしか見えない子供相手にビンタをするとは。俺が平民なら怖くてできることじゃない」

「そうだな、彼は容赦なかった」

「……!!」


 たしかに不敬だ。監獄行き事案だ。アランフォード殿下とエルンスト様の話を聞いて、私は自分のしでかした事が非常に恐ろしくなった。声が震えないように確認する。



「エルンスト様は黒猫を見つけたら、いかがなさりたいのでしょうか?」

「そうだな……」

「エル、それよりも見つけたところで捕まるのか?奴隷商人だって数年かけても逃げられてたんだろ?」

「あぁ、でも俺は逃がさない。必ず捕まえる」

「───!」


 エルンスト様の目が座っている。

 これは正体を明かしてはダメなパターンだ。バレる=投獄=エミーリア様と永遠の別れを想像し、背中からの冷や汗が止まらない。手も震えてくるが、決して悟らせてはいけない。

 猛獣に狙われた猫ならぬネズミの気分だ。カツラを被っていて良かった。この下の黒髪は死守しなければ。



「そうだな、捕まえよう。黒猫には是非お礼をしたい。私の身代わりになったエルを助けてくれたんだから」

「あぁ、お礼の後は俺の屋敷で雇って、良い環境で過ごしてほしいところだ」


「………………」


「セリア?」

「セリア殿?」

「……ぁ、はい!当時を思い出したらご報告します」


やばい、全く聞いてなかった。ニッコリと微笑んで誤魔化す。

 エルンスト様は私の黒目だけでは黒猫とは全く気づいていないようで、リリスのような追求はない。しかし話を続けていたらボロが出てしまう。話題を変えよう。



「殿下はエルンスト様の前では口調が違うのですね」

「そうだな、本来はこんな感じなんだ。一応王族だからみんなの前では偉大なふりしてるけど、堅苦しくて疲れるんだよ」

「大変なのですね」


「そうなんだよ!もう見られてしまったし、セリアの前でも素でいくよ。植物園ではリラックスしたいし、これからはセリアも友達と思って気軽に話してよ。エルに対してもいいだろ?」

「俺はかまわないが」



本来は遠慮するべきなんだろうが、断りかたを私は持ち合わせていない。それに『友達』という貴重なワードの誘惑には抗えない。



「分かりました。ではエルンスト様、私は学園内では他家の侍女としてではなく、ただの平民としてセリアと呼び捨ててください」

「わかった」


「そして、殿下……私の分のお菓子まで食べないで下さい」

「最初の友達らしい話がそれ?食いしん坊だなぁ」

「殿下にそのままお返しします」

「アランもセリアも子供か」


 黒猫の話をしている間もお菓子を食べ進め、全て食べきったアランフォード殿下にすぐさまツッコミをいれる。なぜかエルンスト様は私まで子供扱いし、納得がいかないが反論を我慢する。我慢できる私は大人だ!

 ちょうど午後の予鈴がなり、解散することになった。




 **********




 今回の休みもエミーリア様、ルイス様、私の三人は一緒にダーミッシュ家に帰っていた。今は馬車で帰路の途中だ。



「最近また乙女小説の新刊が出たわね!セリアは知ってる?」

「はい!リリスが読み終わったら借りる予定です」

「私も読みたいわ。リリスさんにお願いできないかしら?」

「聞いてみますね!」



 エミーリア様と私は乙女小説の感想や、今後の展開の予想で盛り上がる。男性にはあまり興味のない話題にも、ルイス様はそれを微笑みながら私たちの会話を聞いている。



「すっかり二人は乙女小説に夢中だね」

「勿論ですわお義兄様。身分の低い女性と王子様が色々な困難を乗り越えて、愛を紡ぐ……なんて素敵なんでしょう。私も憧れるわ」

「リア様は王子に憧れているんですか?」


「きっと他の皆様はそうでしょうね。アランフォード殿下や側近候補に夢中だわ。でも私が憧れてるのは『どんなことがあっても変わらない愛』の部分よ!できれば困難はいらないわ」

「なるほど!」



 エミーリア様は興奮ぎみに語ると、直ぐに顔色を伺うと曇らせる。



「でも他の下級貴族とその庶子の方は、物語の主人公に自分を重ねすぎているようで心配だわ」

「みんなそうなのかい?」


「全員ではないわお義兄様。ただクラスメイトにおひとり、特に夢見勝ちな方がいて……彼女のお立場が悪くならないと良いのだけれど」

「リア様はお優しいですね」


 そう誉めながら髪を撫でると、エミーリア様は照れて私の腕に抱きついてくる。なんと可愛らしい。エミーリア様は「入学してからセリアが足りない!」と言うが、私も日頃からエミーリア様が足りてないので癒される。


 その様子を微笑むルイス様に見守られながら、私たちはダーミッシュ男爵家の屋敷に帰って来た。

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