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20 学園(春)

 多くの人々の視線が一ヶ所へ集まる。男女関係なく皆の顔は希望に満ち溢れ、視線を集める青年の言葉に聞き入っている。


「では最後に、新入生の素晴らしい学園生活を祈っている!」


 青年がステージから去ると共に、多くの歓声と拍手に包まれる。

 青年は今年2年生になるこの国の第三王子であるアランフォード・グランヴェール殿下。さらさらの銀髪に澄みきった空のような水色の瞳の正統派イケメン。女子生徒からのピンクの視線と熱すぎる眼差しがすごい……雰囲気に胸焼けしそうだ。



 今、私はグランヴェール王立学園の入学式に出席している。先ほどの殿下のお言葉は閉会の締めとして、多いに盛り上がった。私もエミーリア様も無事に合格したのだ。

 エミーリア様は男爵家のお友達と会場の真ん中当たりで座られ、私は寮のパートナーと一緒に最後列に座っている。



 既に住まいも寮へと移しており、エミーリア様は貴族寮で個室が当たり、私は平民寮で二人部屋が当たっている。



「式も終わったし、寮に戻ろうかな」

「購買でサンドイッチ買って帰らない?私がおごるから」

「いいの?やったぁ♪」


 私がさっさと戻ろうとしていると、寮のパートナーのリリスが購買に誘ってくれる。彼女は赤茶髪のショートボブでピンクの瞳の、小柄でさっぱりとした性格の女の子だ。学園の初めての友達で、すでに大の仲良しだと思う。



 **********



 同室のリリス・アンカーとの出会いは運命的でラッキーだった。

 私は学園で過ごす際、黒髪黒目が目立つのではと危惧していた。もしかしたらスラム時代に助けた子供の中に私を覚えている子がいて、変に絡まれたり罵られる恐れがあった。『スラム出身が学園に来るなど気持ち悪い』と言われるのは想像に容易い。

 エミーリア様とルイス様にも迷惑はかけたくなくて、目は隠せなくてもせめてもと思いカツラを被ることにした。


 カツラはエミーリア様が選んだ、チョコレートブラウンのロングヘアータイプで、肩あたりからゆるく三つ編みで二つに分けている。


 しかし、寮の部屋で寝るときまで被るわけにはいかない。同室のパートナーには打ち明ける必要があり、吹聴しない良い人であることを願いながら入学式の1週間前の入寮初日にリリスにカツラであることを打ち明けた。



 すると彼女は固まってしまい、信じられないようなものを見る目で「黒猫……」と呟いたのだ。

 私は失敗したと思った。彼女の特徴を持つ子供を助けた記憶は無かったのだが……なにも答えず彼女の出方を窺う。



「ねぇ、セリアさんって兄か弟いる?」

「い、いませんが(心のテオ(お兄ちゃん)はいるけど)」



 あれ?バレてない?

 そう、変な余裕がいけなかったのだ。あれこれ質問攻めにあい、嘘の矛盾を突かれ、あっという間にバレた。すぐに観念して秘密にして欲しいと土下座でお願いする前に、リリスが土下座していた。



「私の大切な弟が以前、スラムへ誘拐された時に貴女に救われました。今でも感謝しきれません!本当にありがとうございました!」

「ほ、本当に私なの?というより頭あげて!」



 彼女に頭をあげるようお願いして、詳細を聞くと私は彼女の弟を助けていたらしく、髪色や特徴を聞くと確かに覚えていた。



 彼女の実家はグランヴェール王国の五大商会のひとつアンカー商会を経営しており、身代金目的で跡取りの弟が誘拐されたのだった。

 そして弟が助けてくれた黒猫をヒーローと崇めており、お礼も出来なかった事を恥じて探していたそうだ。


「そうなんだ。でもヒーローかぁ……女で申し訳ない」

「いいえ!色々と弟を驚かせちゃいましょう!会ってくれますよね?」


「まわりに秘密ならもちろん!やっぱり黒髪だって分かっただけで、黒猫とバレるものなんだね」

「あまりにも深い黒で、この組み合わせはこの国でも数人いるかどうかだと思います。奴隷が違法ではない国では生きた黒曜石として宝石より高く売れますから……スラムでよく無事でしたね」

「ソウナンダ」


 スラムの奴隷商人が執拗に狙うと思っていたが、自分にそんな価値があるとは思わなかった。他国でも黒髪か黒目の一方だけでも『染まることのない高貴な色』として人気だそうだ。

 前世では回りは黒髪黒目の人ばかりだったので、いまいちピンとこない。



 いつか弟に会いに行くという約束と交換で、私の秘密を守り、困ったときには協力してくれることになった。

 リリスは信用できると判断して、ダーミッシュ家のお嬢様に拾ってもらった経緯も簡単に話した。彼女によると後見が貴族というだけで手出ししにくくなるようで、本当にダーミッシュ家に拾われた私はラッキーだ。



 入寮二日目には「リリちゃん」「セリちゃん」と呼ぶ間柄になった。しかも彼女はとても情報通で私の知らないことをたくさん知っていて、話すのがとても楽しい。



 嬉しかったのは、この世界にも乙女小説なるものが存在していたことだ!昨年から流行っているらしいのだが、受験しか頭になくて気付かなかった。リリスが持っている本を貸してくれることになって、寝る前の趣味になっている。



 ついでに、彼女の商会のモニターとして、感想を提出条件に新商品を無料で提供してくれることになった。最初は断ったが「お礼の一環だから」と言われて、今ではありがたく使わせてもらっていて本当に恩恵がすごい。




 **********



「はいセリちゃん、デラックスサンドだよ」

「ありがとう、リリちゃん!もぐもぐ」


「入学式で気になる人いた?もぐもぐ」

「んー、私は男性より購買の豊富な軽食メニューが気になってるよ、もぐもぐ」


「わかるー、もぐもぐ」

「だよねー、もぐもぐ」



 こうやって私は同室のパートナーに恵まれて、グランヴェール王立学園の生活をスタートさせたのだ。

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