19 受験
「セリアは既に座学を修めているし、きっと合格できるわ。一緒に通えるなんて楽しみね。受験勉強も頑張れるわ」
既にエミーリア様の中で私は受験決定になっていた。しかしご夫婦から『まだ諦めないで!説得して!』と目線で訴えてくるので、粘ってみる。
「リア様、高い学費など私は用意できません」
「なら、私の古いドレスを売りましょう。新しいドレスやアクセサリーの購入も最低限にするわ!浮いたお小遣いで私が払うわ」
「使用人を連れてるなど、リア様が白い目で見られてしまいます」
「使用人ってことは秘密にして、普通の平民として入学するのよ。私の世話は焼かなくて良いから!一緒の空間にいれるだけで良いの」
「勉強していたのは数年前のことです。私には自信がありません」
「大丈夫よ。だってあの時も一年で修了したでしょ?本番まで一年はないけど半年以上あるわ。セリアはできる子よね?頑張りましょうね?」
私に有無を言わせないエミーリア様の本気が怖い。アドロフ様、シーラ様、お力になれず申し訳ありません。私の抵抗はここまでです。
「ハイ、ワタシ、ガンバリマス」
「わぁーい♪大好きよセリア」
そうして、私の受験勉強は突然始まった。
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今年の学園の倍率は過去にないほど異常に高い。グランヴェール王国の王族は交流を兼ねて、同盟国である隣国の大学へと通うのが慣例となっている。しかし昨年、第三王子が突然王立学園へと入学したのだ。
翌日アドロフ様と打ち合わせをした際、不安で聞いてみた。
「私が本当に入学できるのでしょうか?今年の倍率は非常に高いと聞いてますが」
「何がなんでも合格して欲しい。学園内でも護衛がつくと思えば悪くない。セリア分かるね?リアは可愛い」
「はい、勿論です」
「絶対にモテる。しかし我がダーミッシュ家は爵位が低い、地位を笠にリアに近づく悪い虫がいたら報告してくれ」
「は、はい」
アドロフ様の様子がおかしい。
「見つけたら、全力で消す。可愛いリアを変な男に渡すものか。ついでに大切なルイスに近寄る毒花があっても報告を…………消す」
「あ、はい」
あの優しさの塊のアドロフ様からどす黒いオーラが出ている。
昨日のことが相当ショックだったらしい。当主の権限でリア様の我が儘など断れるのに相変わらず娘に甘いらしく、あのダニエルさんが後ろでため息をついている。
私の勉強は週明けからとなり、またエミーリア様と一緒に勉強することとなった。ニーナさんとも話し合い、仕事の分担の調整を行う。侍女教育に、護衛の鍛練に、更に受験勉強が足され、これから私が無駄にできる時間はない。そして始まった受験勉強だったが――――
「わ、わかります!」
「す、すごいわセリア。何で覚えてるの?」
簡単な実力テストを行ったのだが、数年前に勉強した内容にも関わらず、何故だか大体分かるのだ。今世の私は身体能力だけでなく、脳までハイスペックなのか?それともチートを授かったのか!?期待を胸に家庭教師の表情をうかがうと、先生は満足そうにうなずいた。
「素晴らしいです。これは良い実験資料になりそうです」
「実験ですの?いつのまに……」
期待とは違う回答が先生の口から聞こえ、疑問に思う私の気持ちを代弁するようにエミーリア様が問う。
「そうですエミーリア様。セリアさんはエミーリア様の勉強の時ですら離れず、仕事をしながら側におります。ですから授業の方法を書き取りよりも、音読や口頭説明を中心に変え、あえてセリアさんにも聞こえるようにしました。この方法で果たして人の学力は上がるのかと調べたく……」
「「………」」
「あとはひたすら反復作業です。そうしたら何と効果があるではありませんか。これは次の家庭教師先で使えそうです、ふふふ」
脳がチートでもハイスペックでも何でもなかった。私は意識せずに勉強をしていたらしく、知らない間に洗脳された気分だ。
しかし、異国語の書き取りだけは効果がなかった。洗脳効果で話すことも聞くこともできるのに、単語のスペルをすっかり忘れてしまっていたのだ。単語の暗記が受験までの課題になった。
「あぁ~疲れたよ……テオのお茶が飲みたいよ。部屋に入れてーお茶も淹れてー」
「部屋が散らかってるから駄目だ」
忙しいと時間の流れは早く、受験本番まで残り1ヶ月を切り、私のメンタルはボロボロだ。
こういう時は美味しい紅茶を飲みたくなるし、お兄ちゃん的存在に甘えたくなってしまう。それでテオの部屋に突撃したが、扉の前で断られてしまう……何故!
テオはきれい好きだ。散らかってるのは嘘だと思う。では何故嘘を……
「………!」
「なんだその目は」
彼は17歳でお年頃なのを忘れていた。健全な男子であれば、あははんな、うふふんな本を持っているはず。きっと、それを私に発見されてしまうのを恐れているのだ!
それに気づいた私は大人!ここは場所を変えてあげよう!
「じゃあ私の部屋なら良いでしょ?」
「セリアの部屋……?」
「うん、実は初めてだよね?狭いからベッドに座ることになるけど」
「ベッドの上……?」
「大丈夫!ティーセットが置ける机はあるから」
「………そ、そんなに飲みたいなら仕方ない。行ってやるよ」
「わーい♪」
そうして部屋に案内したのだが、テオの様子が変なのだ。はじめはソワソワもじもじしてたのに、今は遠い目をして部屋中を眺めている。
「セリア……天井からぶら下がってる棒はなんだ?」
「懸垂するための棒だよ」
「なぜレンガが?」
「腹筋運動の時に腕に抱いて負荷をかけるの」
「じゃあベッドに結ばれてるこれは……」
「蹴りの威力をあげるためのゴムバンドです」
「……良い部屋だな」
テオは最後にボソッと言ったら、静かにお茶を淹れはじめた。
出来上がり、紅茶を口にすると良い香りが広がる。彼が私に淹れてくれる紅茶は、銘柄は忘れたけど前世で好きだった味に似ていて……
「好きだなぁ」
「は?」
「テオの紅茶 好きだけど、入学したらしばらく飲めないのかぁ」
「そうか……淹れてやるから帰ってこいよ」
「うん」
「じゃあ勉強頑張れよ。俺も仕事頑張るから」
「うん、ありがとう」
紅茶を入れたらテオはすぐに、自室へ帰ってしまった。彼も仕事を頑張るみたいだし、私も紅茶を飲み終えたら勉強を再開した。
こうして受験本番を迎えたのであった。




