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17 屋敷(2年目)

「お嬢様、あちらに……」


 もうすぐ夕方だ。そろそろ作業も終わりかと思っていた頃、メイドの誰かに声をかけられる。

 手を止め出入り口を見ると、そこには涙を流すルイス様とそれを支えるテオが立っていた。すぐさまエミーリア様が駆け寄る。



「お義兄様!これ、全てお義兄様のスイーツなのよ。味はバッチリよ。セリアがたくさん味見したくなるほどにね」

「な!リア様もたくさん食べたじゃないですか!それより見てください、愛の結晶を!」


「セリアの半分くらいしか食べてないわ!ねぇ、お義兄様?セリアのより私のケーキの方が愛の素晴らしさが伝わるでしょう?」

「あ、リア様!上目遣いは反則です!可愛すぎるのは違反です!」

「なんでよ!」


 私とエミーリア様でまた言い争いになる。上目遣いされたら、私はもう勝てない!


「──ふっ」


 誰が吹き出したんだ!?リア様と真剣に勝負をしていると言うのに!と声の主へと目を向ける。


「え?」

「…お義兄様」

「ごめんね、二人があまりにも可笑しくて…可笑しくて…」


 いつもの困った微笑みのような、笑い出すのを我慢するようなルイス様の幸せそうな顔があった。私たちがルイス様を悲しませた悪い奴らに勝利を収めた瞬間だった。




 そのあとはアドロフ様やシーラ様も呼んで、使用人も混ざり、そのまま厨房でスイーツを食べながらのお祝いが始まった。今更だけれど、ルイス様の歓迎会だ。



 大人に囲まれて怖いのではないかと心配したけれど、「ここの人たちは別みたい、大丈夫」と答えてくれた。まだ困り顔の微笑みを浮かべているが、ご夫婦とエミーリア様に囲まれて、ルイス様は楽しそうだ。



 ふと厨房を見渡すと、テオの姿が見当たらなかった。食べたいスイーツを皿に盛って確保し、テオを探すと窓から厨房が見える裏庭のベンチで見つける。



「テオは食べないの?」

「セリアか……うん。大量にあるから残るだろうし、それで良い」



 テオは遠くを見つめながら、無言になってしまった。目線の先にはスイーツを口にしている立ち直ったルイス様たちの姿があった。



「ルイス様に伝わって良かったね」

「……そうだな」


「ルイス様、楽しそうだね」

「セリアのお陰だ。俺は……何もできなかった。劇場にいた時も側にいたのに、手紙に気付けなかった。部屋に籠ったときも、ルイス様に何も言えなかった……だから、助かった」



 テオは責任を感じていたようだ。初めての専属のお世話なのに焦ることなくしっかり務め、誰よりも側でルイス様を見てきた。だから彼自身で解決したかったのだろう。

 それでも彼はまだ見習いで、13歳で、彼こそ誰かに頼りたいはずなのに。心に傷を負った人の世話など心配でプレッシャーもあっただろうに頑張っていた。



「テオがこの数ヶ月、ルイス様のことを真剣に思って尽くしてたのは、ルイス様にも伝わってるよ」

「……そう見えるか?」


「うん。テオが一番側で頑張ってたもん。また元気になって良かったね」

「……ああ。良かった。本当に……」



 テオは涙を堪えるような顔で皆を眺めている。彼の頑張りに、思わず頭を撫でたくなった。手を伸ばし、思い切り髪をわしゃわしゃ乱すように撫でる。


「よしよし!」

「うわっ!俺はお前ほど子供じゃないぞ!年上をからかうな」



 テオの顔が真っ赤に染まり、怒られてしまう。「通算人生では私の方が上なんですよー」っと思いながら頭から手を離した。



「むー。誉めてるつもりだったのに」

「……ったく、普通に誉めてくれ」



 テオは額を手で押さえて項垂れてしまった。どうやら、お気に召さなかったらしい。仕方ない、頑張っている彼のために私の大切な物をあげよう。



「はい!ご褒美!」

「……む!!?おい……むっ!!!」



 テオが顔をあげた瞬間に一口サイズのシュークリームを口に押し入れる。私の大切なスイーツをあげたのに反論か?と察知して、言われる前にもう1個押し入れる。


「じゃあ!私はスイーツを補充してくるから、バイバイ!」



 そう言い残し、『シュークリームが残ってますように』と願いながら厨房へと急いで戻った。



「俺ってちょろいのか……?」



 顔が赤くなったテオの呟きは、私には聞こえなかった。



 **********



 それからルイス様はとても変わられた。ルイス様からエミーリア様のお部屋を訪ねてくるようになり、自然な笑顔も増えてきた。1ヶ月もすると『微笑みのルイス様』とメイドの中で盛り上がるほどで、美形の本領を発揮していた。


 エミーリア様とルイス様のお二人が並んでお茶をする姿など素敵で、神々しくて私は直視できない。私とテオは壁際でお二人を見守っている。



「もう来週からお義兄様にも家庭教師がくるのね。お互いに頑張りましょうね」

「勉強なんて数年ぶりだから少し不安だよ」

「本当に辛くなったら教えてくださいませ。私がお供できなくても、セリアが一緒に逃走に付き合ってくれますわ」

「セリアが?」

「ふぇ!?」


 昨年の約束ごとをここで持ち出されるとは思っておらず、変な声が出てしまう。ルイス様にも適用とは聞いてませんよ!そもそもルイス様が逃走などするはずが……


「セリアと一緒なら楽しそうだね」

「お義兄様を頼むわね」

「カシコマリマシタ」


 拒否権などなかった。



「じゃあ、ついでに勉強頑張れるように、僕にもあ~んしてもらえるかな?」

「お義兄様!?僕にもって……セリア!誰にしたのです!私もされたことないのに!」



 あ~んだと!?私はいつそんな事をした?覚えておらず、考え込んでしまう。



「スイーツパーティーの時にそう見えたんだけど……ね?テオ」



 ルイス様に尋ねられて、静かに立っていたテオの体がピクッと動く。私は先月テオの口にシュークリームテロを起こしたことを思い出す。すっかり忘れていた。



 言われてみれば、あ~んとも言える行為だった。あ~んって好きな人にやって貰ってこそご褒美なのに、私にされるとか申し訳無さすぎる。

 なでなででも嫌がるレベルなのに……そう心配になり隣のテオを見上げると、顔を逸らされてしまった。



「――――っ!」



 耳がほんのり赤い。時効にしてくださいとはお願いできる空気ではない。これは頭に血がのぼるほど、相当お怒りのようだ。そのまま土下座のポーズに入り、先程思い付いた反省点をあげ、テオに謝罪する。



「誠に申し訳なく……何卒お許しくださいませ……」

「うん、もういいから」


 すぐに許してくれるとは、さすがお兄ちゃん。そう思い顔をあげると、何かを諦めたような目のテオ。可哀想なものを見るような目のルイス様。何故か勝ち誇った顔のエミーリア様がいた。



 この後エミーリア様にあ~んでクッキーを食べさせて、ティータイムは終了したのでした。


まず一区切りです。次話は数年後のシーンからスタート予定です。

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