10 屋敷(1年目)
「今日は気分が優れないわ。勉強は無しよ」
「リア様どこか悪いんですか?どうしよう……今お医者様を呼んでもらえるように先輩に頼んできますね!あぁ私のリア様が大変!私はリア様がいなくなったらと思うと……早く元気になってもらえるように、お医者様を呼ば」
「セリア!落ち着いて!私はもう大丈夫だわ、行って参ります」
作戦その一、過保護作戦。
**********
「足が痛いの、ダンスの練習は中止よ!」
「そうなんですね…リア様の踊っている姿は美しくて、私の憧れなのに。今日は見れないのが残念です(しゅん)」
「た、短時間なら大丈夫そうよ!是非、ダンスの練習を見ていって」
「ありがとうございます。嬉しい」
作戦そのニ、同情作戦
**********
「こんな髪型は嫌よ!」
「申し訳ございません。しかしながら、時間がございません」
「あ、リア様!お出掛けですか?いつもと違う髪型なんですね。さすがリア様、一段と可愛いです!」
(まぁ、リア様はどんな髪型でも可愛いんだけど)
「そ、そう?これで良いわ」
作戦その3、よいしょ作戦
**********
今夜も早番のメイド達で寮の談話室に集まる。
「ここまで上手くいくとは思わなかったわ」
「お嬢様は本気でセリアを気に入っているようですね。それにセリアの演技も素晴らしいです」
「あ、ありがとうございます」
あれから何度か機会があったのだが、驚くほどお嬢様が素直になるのだ。まぁ心配したり、誉めたりしている内容は私の本心なので、演技しているつもりはない。
お嬢様と一緒にいられる時間も増え、私はお嬢様成分で潤ってきている。良きことかな。
しかし1ヶ月後事件は起きた。遅番メイド達が休憩室で次はどんな作戦にするのかを話題にしていたところを、エミーリア様に聞かれてしまったらしい。
エミーリア様の耳に入らないよう早番メイド達は寮でしか話さなかったのに、それも水の泡だ。
そのせいか、翌日エミーリア様は朝食後すぐに逃走してしまい、ダーミッシュ家の敷地内でかくれんぼ状態になった。
「お嬢様ぁ、どこですかぁー?」
「申し訳ございません!謝罪させてください、姿をお見せくださいませ」
「お嬢様ー!」
メイド長のスザンナさんに説教された遅番メイド達が、朝から探している。しかし、1時間経っても見つからず、追い詰められてきているようで焦りが見える。
「どうしましょう、本当にお嬢様は敷地内にいるのでしょうか?」
「まさか、また誘拐…」
「早く見つけ出さなければ、お嬢様ぁー!」
実は私は気配を探り、エミーリア様の居場所を知っていた。
遅番メイドたちにも口の軽さを反省して欲しかったし、すぐに居場所を報告してはエミーリア様の憤りは治まらないだろうと思い黙っていた。
でも、元々は私の行動のせいだ。きちんとエミーリア様と話して謝罪しなければいけない。
先ほど旦那様に「リア様を更なる天使にするために、リア様に意見することを許可下さい」的な事を伝え、了承してもらった。これで、色々本音で言い合えるはず。
私は屋敷の裏へまわり、木を登り生け垣を飛び越える。生け垣に沿って少し歩くと、蜂蜜色の髪が見えた。脅かさないように、そっと話しかける。
「お嬢様、セリアです」
「……セリア。あなたは先輩たちに言われて、逆らえなかっただけよね?」
良かった。逃げることなく、話してくれるらしい。
「すみません、これは私が先輩たちにお願いしてアドバイスをもらっていたことです」
「そんな…」
「私はリア様が大切で仕方ありません。言っていたことは大袈裟に表現はしましたが、本当に思っていることです。リア様は私の天使です」
「じゃあ、なんで私の味方をしてくれないの?」
「リア様も本当は駄目だと分かってますよね?素直になれるように後押しするためです」
「……っ」
「リア様が使用人に理不尽に厳しくする姿を見て、悲しくなりました。勉強を放棄している姿を見て、怒りたくなりました。私には無いものを捨てようとしていたからです」
「セリア、私は貴族の令嬢よ。我が儘は普通よ!使用人の分際でなにを――――っ、あ」
「リア様、本当は私は特別と言いつつ見下していたのですね、残念です」
「違うの!」
私は厳しい態度に変えると、エミーリア様は青ざめる。
「義務を果たしてこそ、我が儘が通じるのです。そして、その軽はずみな言動は社交界では命取りになります。きちんと態度を改めて勉強すれば、青ざめることもないのでは?」
「………」
エミーリア様の大きな瞳から涙がポロポロ流れ始める。きっとこの子は分かってくれる。今すぐには無理でも、少しずつ変わってくれるだろう。
「リア様はひとりではありません。何故駄目なのか、何故これを勉強するのか、分からなければ私も考えます。私も更に勉強して、仕事もできるようになります。リア様を傷付けるようなことをしてすみません。お詫びに息が詰まったら、また一緒にここに隠れましょう!」
「え?」
「駄目ですかね?」
「……そうね、ふふ。共犯者ね」
手を差し出すとエミーリア様は握り返し、そのまま手を繋いで一緒に屋敷へ戻った。
途中で遅番メイド達が廊下で謝罪を始めようとしたが、旦那様と奥様との約束があるので待っててもらい、執務室へ入る。部屋で待っていたアドロフ様とシーラ様にあとはお任せして、私は執務室を出た。
説教もできて、仲直りもできた。早番メイドのお嬢様改造計画も今日で終わりかと思うと、少し寂しい。またお嬢様とは話す機会も減るだろうし、寮の談話室でお菓子を食べながら作戦を練るのは楽しかった。
この時まではそう思っていた。




