01 スラム
初めての投稿となります。
拙い文章ではありますが、暖かく見守っていて頂けたら幸いです。
「待てコラァくそ餓鬼がー!」
「てめぇ何したのか分かってるのか!」
「おまえら!黒猫は真っ黒な珍しいガキだ。殺さず捕まえろ!高く売れるぞ」
なんで……こんな時じゃなくても!
オレの後ろからはガラの悪い男が3人が追いかけてきている。別に必死で逃げている時じゃなくても良いじゃないか!命がかかっていると言うのに、今『前世のようなもの』を思い出すなんてタイミングが悪すぎる。ただでさえ体の栄養は足りておらず、フラフラなのに!
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オレは物心ついたときから、ここグランヴェール王国の王都のスラムにいた。街並みは中世ヨーロッパ風。本当の親の顔も知らないし、自分の名前もない。オレの黒髪も黒目もそれぞれもつことはこの世界では珍しい色ではないが、両方持っているのは稀だ。高く売れるからと今も奴隷商人の手下に狙われている。
逃げ足が早くスルリと逃げることからオレは「スラムの黒猫」と呼ばれ、奴隷商の中では少し有名だ。
だからいつもはフードを深くかぶり、奴隷商人には接触しないように隠れるように生きていたのだが、今日は思わず奴らの前に出てしまった。
今から一時間ほど前、 奴隷商人達はオレじゃない子供を狙って追いかけていた。大抵スラムの子供は痩せこけて力もなく、言葉もあまり分からないため使い物にならない。利用価値が低く、奴隷商人に狙われることはほぼない。
狙われるのはオレのような珍しい色を持つ者、他には可愛らしい容姿の女の子や稀に男の子だ。しかし、そんな容姿の優れた子供はとっくに売られてスラムにはいないはずだ。
だからどんな子供が狙われてるのか、気になって抜け穴から覗いたら……
サラサラの藍色の髪に、少しつり目だけど夕焼けのようなきれいなオレンジ色の大きな瞳をした、同い年くらいの少年がポロポロ涙を溢しながら逃げていた。
いつもなら傍観を決めるのだか、少年と目が合ってしまった瞬間、体が動いてしまった。なぜだか分からないが「助けるんだ!」と心が叫び、気付いたら少年の手を取り、スラムの迷路道へ逃げ込んでいた。そして冒頭に戻る。
少年は怯えきっていて、まともに走れなかった。スラムの出口までに捕まりそうだったから、一時避難に使っている廃墟で身を隠すことにした。少年を改めてみると息を飲むほど整った顔の少年だった。
あぁ眼福……え、眼福?
いやいや、なんだこのオバハン的な思考は!
邪念を振り払いつつ、少年の容姿よりも高価な服装が気になった。貴族か裕福な商人の家の子供なのだろう……可哀想に。今まで平和な世界でしか生きてこなかったこの少年にとって、今の状況はよほど絶望的なのか、オレが汗とホコリまみれで汚いのにも関わらず、抱きついて泣き止まない。あぁ、必要とされてるのか。
「名前は?」
「……」
「どこから来た?」
「……友達の屋敷」
わぁお、おうちではなく屋敷か。身代金目当ての誘拐なら、スラムから抜け出してしまえば金持ちが呼んだ警備隊がきっとワラワラ探してるから助けてくれそうだな。
何とか逃がしてあげたいが、少年の上等すぎる服装はスラムでは目立ちすぎて、チラッと見えただけで奴隷商人たちにバレてしまうだろう。
「汚いけど、オレのマントを着て!ここから出よう」
「やだ……もう走りたくない」
「ここも長くはいられない」
「いやだ!もう怖い思いしたくない!」
色々と説得するが、少年はより強くオレにしがみつくだけで言うことを聞かない。うん、可愛いけど面倒だ。その時奴隷商人のリーダーらしき男の声が聞こえた。
「ゴミ箱の中まで探せ!もう金はもらってるんだ」
「あっちはいませんでした」
「じゃあ残りはここだけだな」
奴隷商人たちの気配が近付いてくる。タイムリミットだ。
でも少年は恐怖で更に強く抱きついてきて言うことを聞かないし……しがみつかれた状態ではオレも捕まってしまう。もう優しくできなかった。
――バシッ!
「え?」
――パァン!
頭を思い切り叩く。少年は驚き、距離を取ったらすぐさま次は頬をひっぱたいた。
「逃げるぞ!お前が言うことを聞くまで、お前を叩く!それでも嫌なら、置いていく!今すぐ選べ!」
「……!」
「返事がないなら、置いていく。じゃあな」
「逃げる!一人はいやだ!」
「よし!良い子だ、大丈夫」
見捨てることができないなんて、今日のオレはやっぱり変だ。ぎゅっと抱き締めてあげてからマントをかけ、少年の姿を隠すと手を引いて逃げた。少年の足の震えもなくなり、オレの指示に素直に従うようになったお陰でどんどん出口に進むことができる。もう少しで表通りだ。
「藍色の髪の10歳くらいの男の子は見ませんでしたか?オレンジの瞳なんです」
「緑色のジャケットを着てるんです」
「怪しい人たちと一緒にいる子供はいませんでしたか?」
表通りからは少年を探す声が聞こえる。奴隷商人たちとは違う、本当に心配して探す人の声だ。少年と顔を合わせ、思わずお互いに笑顔になった。
────あぁ、今度は間に合った
あれ?今度って?これは何の記憶だ?
頭が沸騰するように熱く感じたと思ったら、色々な情報が流れ込んできた。
「スラムの黒猫がいるぞ!」
ヤバい!!油断していた!こんなに近くで見つかるなんて……表通りより誘拐犯の方が距離が近い。直線だから子供の足では追い付かれる!
「出口まで走るんだ!」
「!」
少年の背中を押すと、少年はまっすぐ出口へと走っていった。その姿を見て安心し、オレは誘拐犯の方に向かって走りだした。相手はまだ1人!勢いのまま壁を蹴って飛び上がり、誘拐犯の顔に膝蹴りをお見舞し、逃げ出した。
そして仲間が合流し、冒頭に戻るってわけだ。
しかーし!スラムはオレの庭!簡単には捕まらない。あらゆる逃亡ルートに仕掛けていた罠を駆使し、砂利を投げつけ、棒で頭を叩き、のびてる間に逃げるのが定番。
逃げきった頃には、頭痛も収まっていた。
今日は運がないと思ったけど、あんな笑顔が見れるなら助けて良かった。今世で初めて頼られ、必要とされた。可愛かったし。何だかんだ逃げ延びて、いつも通りだし、運が良い方かも!と思ってたが――――
あ、マント返してもらってない!
やはり、オレは運がない。