平等な人生
一人の老人が、家族に見守られながら静かに息を引き取った。
幸せな人生が終わったのだ。
老人の魂は、死者の魂の館に自然と導かれた。
死後の魂は、この館に必ずいかなければならないのだ。
入り口の前には、多くの魂たちが並んでいた。
老人の魂の番がやってきた。
テーブルの向こうには、青い色の魂が座っている。
老人の魂も座った。
青色魂が話し出す。
「貴方は、生前幸せカードを沢山使いましたね」
「はい、とても幸せな一生でした」
老人の魂が答える。
「そうですか。
しかし悲しみカードや苦しみカードが沢山残っているので、次の一生は大変ですよ。
がんばって下さい」
老人の魂は頷いて、立ち上がった。
そして老人の魂の後ろにいた、子供の魂が席に着いた。
青色魂がその子供の魂の顔をじっと見た。
「ほー、貴方は悲しみカードと、苦しみカードをほとんど使いましたね。
だけど幸せカードが沢山残っているので、次の人生は幸せですよ。
なにせ、神様の前ではすべて平等ですから。
楽あれば苦あり、苦あれば楽あり・・・です」
それを聞いて子供の魂は嬉しそうにうなずき、次の魂の為に席を空けた。
老人の魂は音もなく、生まれ変わりの道を歩き始めた。
小さな穴があり、その中へ飛び降りる。
落ちていきながら老人の魂は青い魂に言われた事が頭に残っている。
次の人生は苦しみの人生だ。怖い。
生まれ変われるのは嫌だ。
そんな思いが魂を支配する。
しかし、落ちていく暗闇の中で魂は浄化され胎児に宿った。
病院の産室で一人の赤ちゃんが誕生した。
「まーかわいい赤ちゃんですよ。
こんなに泣いて、元気いっぱいだこと。きっと幸せな人生を送りますよ。
よかったですね。おかあさん」
お母さんは、やっと生まれてきたわが子を抱きしめる。
仕事を終えた助産婦はナースステーションに戻り、回りのスタッフとお茶を飲みながら話す。
「今日の赤ちゃんは、よく泣いていたわね。元気な証拠だわ。
だけど、昨日ニコニコ笑った赤ちゃんが生まれたの。
きっと神様の世界で何かいい事を言われたのかもね」
そういって、お茶を飲み干した。