1 冒険の前日
「ジョシュア話がある」
明日、14才になる俺に、ロイおじさんが話しかけてきた。
「お前は、明日14才になる。つまり、男として成人になるわけだ。」
そんなロイおじさんは、いつもと違う雰囲気・・・神妙な顔をしたまま話しを続ける。
「お前が、冒険者になりたがっていることは、うすうす感じていた。この短刀は、お前の父親であり、冒険者であったリーハイから預かったていたものだ。まずは、形見として受け取れ。」
俺は、ロイおじさんが差し出した黒鉄でできた、短刀を受け取りつつ、遂にこの日がきたかと思った。
「ジョシュア、一度しか言わないから良く聞いてくれ、お前は明日から、父親と同じように冒険者になるも良し、俺と一緒に農家の一人息子として働くも良し、自分の道は、自分で好きに選んで良い。・・・どっちにする」
俺には、今まで誰にも言っていない秘密がある。それは、日本人としての前世の記憶があるのだ。8才頃から、徐々にその記憶が蘇り、10才になる頃には、前世のとき、東京大学を卒業してから、外務省のキャリアとして諸外国を飛び回って外交の仕事をし、辺境の外国で運悪く死んだ30才までの記憶が、ほぼ知識として頭のなかにあった。
俺はロイおじさんに、少し考えている振りをして見せてはいるが、日本人としての記憶が蘇ってからは、この剣と魔法の世界で冒険者になり、成り上がって行くことを心に決めていた。
「ロイおじさん、僕、冒険者になりたい。」
ロイおじさんは、あきらめたという顔して、俺の選択を受け入れ、餞別をくれた。もらった餞別は銀貨10枚、明日、このお金で早速、冒険者になろう。
この国の主な硬貨は、銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、白金貨があり、その価値は、銅貨が日本円にして100円位、同じく大銅貨は1000円位、銀貨は1万円位、金貨は10万円位、白金貨は100万円位だ。 ただ白金貨は今まで一度も見たことがないし、それどころか金貨もほとんど見たことがない。だらかロイおじさんにとって、銀貨10枚は大金だ、大切に使わなければ。
そして、ここは、ユーリア大陸の東に位置する辺境の町でゲッセネという。町の外れにはダンジョンがあり、各地からそのダンジョンに挑むため冒険者が集まり、治安はかなり悪い。文明のレベルは中世といったところだ。そして、魔物と魔法が存在する異世界である。あとは地球と大して変わらない。身体的にチートなものは俺にはないと思われるが、前世の記憶が蘇ってからは、この日のために体を鍛えてきたし、前世の知識は、この世界にとって最強のはず、自分の境遇を神に感謝せずにはいられない。あとは、死亡率がかなり高いという冒険者になって、死なないようにして成り上がっていくのみ。 俺は明日のことを色々と考えつつ、眠ることにした。
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