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第十四話 災厄の黒竜

 カティナはその様子を、ロートロムから少し離れたところで見ていた。

 村の外れに並んでいた兵たちが、鮮やかな紫の炎に包まれている。だが、表情は見るに堪えない悍ましいものだった。ただ焼けるだけでは、あのような表情にはならない。


「お久しぶり、カティナ=チェインワース」

「ライネッケ団長……」


 ライネッケは金色の髪を手で整えながら、彼女の隣に立つ。


「アレを追いかけて数年となるが……これを見るのは半月ぶりくらいだろうか。慣れたのではないかと自負していたが……いやはや恐ろしい。思わず失禁してしまいかねない恐ろしさだ。あの数多くの国と人を滅ぼした紫の炎は、やはりこの世の何よりも恐ろしい」


 ライネッケは葉巻を取り出し、火をつけた。そしてめいいっぱい吸い込み、空に飛んでいる黒い龍に向かって煙を吐いた。


「どうかね? 久方に見るザンテデスキアの炎は」


 カティナの耳に、彼の言葉は入っていない。

 彼女の思考は混乱していた。

 黒い龍の隣にいるのは、水色の翼竜……マリー。

 とすれば、黒い龍はテルアキということになる。だが、


「この紫の炎……“狂乱の循環律”……そんな……」


 彼はザンテデスキアにしか使えない特殊な術を使っていた。

 ザンテデスキアの紫の炎は、決して焼くための炎ではない。火に炙られた者は、強制的に心的外傷や恐怖心を駆り立てられる。短時間浴びただけでもかなりのショックになり、長時間浴びてしまえば狂乱し、廃人になってしまう。炎を浴びなくとも、付近にいる人間すらも体調不良を引き起こす。

 いずれにせよ、精神に依存して発動する陰術は使用不能になる。

 つまるところ、対人間に特化した陽術だった。


 炎を浴びた兵たちは、ある者はうめき声を上げながら地を転がり、ある者は泣き叫びながら自傷している。まるで地獄絵図である。

 それを見ながら、ライネッケは楽しそうに微笑む。


「自然現象操作(陽術)と想像投影術(陰術)の融合……“循環律”。確か横にいる翼竜は、姿を人の形に変えられる循環律術を使うのだったか」


 カティナは事態を推測するだけの余裕がなかった。ただただ現実を受け入れられなかった。あのテルアキが……ザンテデスキアだったことに。


「私はどうすれば……お師匠様……」




 これは何だ。

 この地獄絵図は一体何なんだ。

 俺はただ、いつものように炎を吐いたつもりだった。ただ少し熱してびびらせようとしただけだった。その挙句がこれだ。びびらせる度合いを遥かに超えている。


「俺がやったのか?」


 声が震える。頭に鈍い痛みが走り、目の前の景色が霞む。


「俺は一体何なんだ! 答えろ、マリー!」


 俺の隣で飛んでいたマリーはきょとんと首を傾げた。


「何って……お分かりになりませんか? 問答無用で死よりも恐ろしい恐怖で人の心を壊す炎……“狂乱の循環律”。その力を使えるのはあのお方だけではないてすか」


 彼女が何を言っているか理解できない。

 マリーは俺に向かって恭しく頭を垂れた。


「御方の名は……ザンテデスキア=パレルモ。人間の世界を恐怖に沈めた誰もが知る龍ですよ」


 俺はしばらく言葉を喪った。ザンテデスキアの循環律を、俺が使った?

 冗談にしては趣味が悪すぎる。


「そもそも、探波針があなたに向いている時点で、自明の理だったのですけど……今更なので置いておきましょう」 


 マリーは顔を上げて俺を見つめる。


「意味が分からない! なぜ俺がザンテデスキアの力を使えるんだ! 魔力の波形が全く同じことだって意味が分からない!」

「私だって分かりません。私の方こそ、いきなりザンテデスキア様の性格がいきなり変わってびっくりしたのですから」


 もしマリーの言葉が真実とすれば、俺はザンテデスキアの体に精神だけが乗り移ったということになる。

 ということは、俺の体やザンテデスキアの精神は別の箇所にあるということだろうか。そうなら、まだ元に戻れる可能性はある。


「ザンテデスキア!」


 下で一人の兵が俺を呼ぶ。

 周りにいる数多の兵より身なりが豪華で、堂々とした振る舞い……この部隊の長だろう。

 そして彼の隣には俯くカティナの姿があった。


「カティナ……!」

「我々は下で待つ。もしも根こそぎ殺したいというなら……降りてこい」


 彼の広報にある小さな穴に、その男は飛び込んだ。

 俺が村にいた時は、あんな穴は無かった。即席で作れるものなのだろうかと考えたが、魔術のあるこの世界では不可能ではなかった。


「待て、カティナ!」


 カティナは俺を一瞥することもなく、彼の後についていった。他にも炎の被害を受けなかった兵たちが次々と穴へと入っていく。

 カティナはきっと、再び俺をザンテデスキアだと思っている。

 大切な人を殺すだけでなく、自分を欺き翻弄した下劣な龍だと。

 もはや関係の修復は絶望的だ。

 だが、少しでも可能性があるなら……。


「マリー、俺を人の姿に戻してくれ。カティナを信じさせ、村のために兵を追い返す」

「あの穴に入る気ですが! それも、たった一人と小さな村のために!」


 信じられないとでもいうように、マリーは頭を振った。


「いけません! 人間たちは、あなたを人間形態にして殺す罠ですよ! あなたは……また死にに行くと言うのですか!」


 人間の姿になってしまえば、強大な体に堅牢な鱗、空を飛ぶ翼など全てを失ってしまう。

 ザンテデスキアの狂乱の循環律を使う気だってない。

 その状態で、万全を期した兵を倒し切る可能性は遥かに低い。


「それでも俺は……断るなら、俺はこのままの状態で行く」


 マリーは一瞬悲哀の表情を見せ、大きなため息をついた。


「……頑固なところは、ザンテデスキア様と似てますね。分かりました。ただし、私も一緒について行きます」

「構わないが、敵の懐に飛び込むんだぞ」

「それはテルアキ様も同じでしょう? ここまで来たのなら一蓮托生です」

「すまない」

「ここはありがとうですよ、テルアキ様」


 ふふっと笑ったマリーの周囲に水色の光が集う。


「それでは〝虚像の循環律〟を使います。後悔しても遅いですからね?」

読んで頂きありがとうございましたm(_ _)m


次回は明日更新です。


ご感想・ご指摘・ご意見等々頂けるととても助かります。忌憚なく書いて頂ければ幸いです。

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