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第一話 指名手配の黒竜

 ファンタジー世界。男子中高生なら一度は憧れる、夢とロマンに満ちた世界。

 俺……朝野輝明あさのてるあきはその世界にいた。

 召喚されたのか、転移したのか。

 原因は分からないが、俺は間違いなく異世界へと飛ばされていた。

 巨大な城壁に覆われた城郭都市、中世ヨーロッパを彷彿させる石畳の道に、レンガ造りの家。

 そして何より、あちらこちらでみられる魔術陣。

 見るだけで鳥肌が立つ景色に、勇者となるべく剣を握る――


 ――はずだった。



 

「逃がすな! 絶え間なく攻撃を続けろ!」

「惜しみなく力を使え! 首を取ったら一生暮らせる金が手に入るぞ!」


 紋章が描かれたマントを羽織り鎧で身を固めた男たちが、後方から迫り来る。彼らは杖を片手に、不思議な模様が描かれた円を展開している。そして絶えることなく魔術を発動していた。

 憎悪のこもった叫び声と、殺意を纏った砲弾が背後で飛び交う。

 全身で、逃げ出したくなるような緊張を感じる。ゲームとは違い、リセットは効かない。

 それはこれまた夢にまで見たリアルな魔術戦だった。


「……なんでこんなことに」


 なのに俺は今、心から喜ぶことが出来なかった。


「なんで俺は龍に……指名手配されている龍になってるんだ!」


 襲いかかる魔術を躱しながら、半ば自棄になりながら叫んだ。どれだけ速度を上げ距離を開けても、背後から追いかけてくる数千人の兵は一向に諦める気配を見せない。


 この世界へ転移した俺は、人間とはかけ離れた龍になっていた。全長十メートルを超える巨大な体躯に、闇そのものと錯覚するほどの漆黒の鱗が覆っていた。背中には巨大な翼があり、俗にいう“龍”や“ドラゴン”と呼ばれる有翼の化物となっていた。

 ゲームならばラスボスになれるんじゃないかと思うほど、それはもう禍々しい容姿だった。

 それだけならまだよかった。

 人間を超えた存在となった俺は、さぞかし刺激的な日々を過ごすことができたかもしれない。


 この世界の全ての国に指名手配されている龍になっていなければ、だ。


 そもそもこの世界において黒い龍は人間に疎まれている存在らしいのだが、その中でも残忍である“ザンテデスキア”という個体に似ているらしい。

 聞くところによるとザンテデスキアは大国を三つ立て続けに滅ぼした挙句、人間全てを鏖殺したらしい。その理由は腹の飢えを満たすためではない。ただ自分に刃向かったからというなんとも横柄極まりない動悸だった。

 そのせいで、全ての黒い龍に莫大な懸賞金が賭けられているらしい。ザンテデスキアに至っては、三代に渡って裕福な暮らしができるほどの賞金になっているとか。


 ここまで来ると、笑い事にしかならない。

 おかげさまでどの国に行こうが知らぬ者はおらず追われる始末だ。

 確かにある意味刺激的な生活だ。だが、こんな刺激を俺は求めてはいない。


 ――冗談じゃない!


 前の世界では、現実逃避の術としてアニメや漫画などのサブカルチャーに浸っていたこともあり、異世界転移に対してある種の期待を持っていた。つまるところ、転移した俺は常軌を逸する力を持ち、魔王を倒さんとするほどの勇者になるのではないかと。

 確かに常軌を逸する力は持っていた。これだけの魔術に晒されながらも傷一つつかない肌に、強力な魔術も使える。

 だが勇者とは真逆の、討伐される側だ。負の感情を一斉に身に浴びる、邪悪な存在だ。

 何度か会話で解決しようと試みたが、どれも殺意の篭った魔術になって返ってきた。


 当然だ。

 気に食わないという理由で国を滅ぼした龍に、誰が手を差し出すだろう?

 だから俺はひたすら逃げた。

 逃げるしか無かった。


「誰か助けてくれ!」


 悠久に続く空に向かって俺は吠えたが、空はただ無表情に佇むだけだった。

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