倉庫にて
「なあ兄弟、お前本当にこのままでいいのかよ」
「何がだ?」
「だから!本当にこのまま缶コーヒーなんかになって良いのかって聞いてるんだよ?!」
夜の港、ジャマイカからの物資を運んできた巨大な貨物船、その貨物室の一室に積まれた
大量の麻袋、その内の一袋に梱包された豆の中の一粒が隣の豆に話しかけていた。
「そんな事言ったってどうしようもないだろう・・・俺たちは豆で、自分で動く
事なんてできないんだから」
話しかけられた豆Bは淡々と言い聞かせるようにつぶやいた
「そんな事俺だってわかってるよ!・・でもな、ここで簡単にあきらめたら
あたる日差しを葉っぱで調整してくれた母さんや、俺たちを守るために小鳥に食べられた
兄さんたち、俺たちが完熟するまでの時間を稼ぐために未成熟なまま収穫されていった
姉さんたちに顔向けできねーじゃねえか」
話しかけたほうの豆Aが己の激情をぶつける様にはげしく言い返した
「・・・・じゃあ如何しようって言うんだよ、俺だってそれぐらいわっかってる
わっかってるが、それでも俺たちは豆で動けねえ・・・どうやったって動けねぇんだよ」
言い返された豆Bは心の奥から搾り出すようにそうつぶやいた
「・・・・・くそ、全部あいつのせいだ」
相手の中に押し隠されていた感情をそのこわねから聞き取り、何も言えなくなった豆Aは
自分たちをこんな目にあわせた相手のことを思い出しそうはき捨てた
「やめろよ」
豆Bは豆Aを止めようと口を開くが、豆Aは聞く耳をもたない
「だってそうだろう、仕分けのピーターの奴が居眠りしなきゃ俺、たちブルーマウンテン
の二人が缶コーヒーに入れられる袋に混じることなんてなかったんだ」
豆Aがピーターの憎らしい顔を思い出しながら言い募る
「ピーターだって人間だ、ミスもするだろう・・・それに、今更そんなこと言ったって
仕方ないだろう・・・・」
豆Bは自分にもいい聞かせるようにそうつぶやいた。
「・・畜生、畜生、畜生・・・・・・ああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
豆Aは深く慟哭して怒りをぶつけるように声を張り上げた。
「・・さい・・・・」
「・・ん?・・」
豆Bは何所からか聞こえてきた声にいぶかしげな様子で声をもらし
「うるさい!」
ハッキリと聞こえた声に豆Aは叫ぶのをやめ、周りを見回した
「だ、だれだ、何所にいる!出て来い!」
姿の見えない相手に対し、豆Aは問いかけ豆Bも辺りを注意深く見回した。
「・・・はぁ、普段は簡単に姿は見せないのだけど・・・良いでしょう今回だけ
特別に見せてあげるわ」
そう言った声の主は小さな光とともに豆たちの前に姿を現し、その光景に豆たちは
驚き言葉を失った。
「・・・・・・アナタは誰で何で出てきたんだ?」
豆Bの方が先に立ち直り、光の薄れとともによく見えるようになった手のひらサイズ
の人影に問いかけた。
「ん、言葉遣いが気に入らないけど答えてあげるわ・・私は神よ!といっても位は
あまり高く無いのだけど、何故出てきたかだけど、そっちの豆の強い気持ちのこもった
声を聞いてあんまり五月蝿いから出てきたのよ、で、何で叫んでいたの?」
小さな人影は小首をかしげてそうたずねた
「神だと・・・人間たちが信奉していた神は一人だった気がするが・・」
豆Bは思案顔で小さくつぶやいた
「何でもいい、あんたが神だというのなら俺たちの願いを叶えてくれ!」
豆Aは先ほどの衝撃から立ち直り目の前の人影に頼み込み。
「日本は八百万の神がいるのよ・・・願いねぇ、一応聞いてあげても良いけど叶えるかどうかは 願いによるわね」
「・・・・俺たちを・・・俺たちをブルーマウンテンの袋に入れてくれないだろうか?」
豆Bは少し迷いながらも神と名乗る少女の姿をした人影にそう問いかけた
「うーん、その程度の願いなら叶えるのはたやすいのだけど・・・」
神は思案顔でつぶやき
「頼む・・いや、お願いしますどうか俺たちの願いを叶えてください、そのためなら
何でもしますから・・・どうか・・」
断られると思ったのか、豆Aは必死になって頼み込み
「何でもするか・・・・いいわ叶えてあげる」
少女の姿をした神は豆Aの言葉に何かを考えた後そう答えた
「「ありがとうございます」」
豆たちは声をそろえ本当に感激した様子で神にお礼を言った
「ただし、あなた達にはひとつ試練をうけてもらうわ」
喜ぶ豆たちに神はにこやかにそう告げた