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第3話 異界の地 1


優也が目を閉じてしばらくすると光が弱まった。

眩しさを感じなくなると優也はゆっくりと目を開けた。

先ほどまで光っていた床に描かれた円は何事もなかったように輝きを失っている。


優也は動けるようになったのを確認するとしゃがみ込みおそるおそる床へと触れた。チョークで描かれたかのような白い円を指でゆっくりとなぞる。

床の木の冷たい感触が指先から伝わった。


「いったい何だったんだ?」


優也は眉を寄せて呟いた。

しかし、この場所には優也以外誰も居ないのでその疑問は声に出しただけで終わる。


「そうだ!!ストラッ…………あれ?」


優也は亮のストラップを拾うことを思い出し、視線をストラップがあった方に向けるがそこには何もなかった。

優也は眉を寄せてストラップがあった場所へと向かう。

目的の場所につくも、青いストラップは見当たらない。


「なんで、ねぇんだ?」


考え込む優也だが、ないものは仕方がない。

とりあえず、優也は部屋からでることにした。

ストラップは見かけたが亮自身が居ないためこの部屋にはもう用はない。


優也は部屋から出ると目を見開いた。

明らかに可笑しい。

あの廃墟にしては小綺麗なのだ。

先ほどまで埃だらけだった廊下には埃が見当たらない。


窓はガラスの中が割れてほとんどヒビだらけだったはずなのに普通にヒビのない窓ガラスがはめられている。


「これは……いったい」


優也はゆっくりと廊下を歩いてていく。もう、懐中電灯なんて必要ないくらい明るい日差しが差し込み小綺麗な廊下を照らした。


優也はとりあえず一階へと向かう。この屋敷から出てみるためだ。


もしかしたら、廃墟のイメージが強くて埃だらけで汚いと感じていただけで実際はこんなに綺麗だったのかもしれないからだ。


いや、そうに違いない。……っというかそうであってほしい!!


優也は小さな希望を胸に屋敷の玄関口に出るとゆっくりとドアを開けて……すぐに閉めた。


ここは山の中の廃墟。そう、玄関の戸を開けたら鬱蒼と茂る木々が見えなければならない。

しかし、先ほど見えたのは……


優也は深呼吸をするともう一番ゆっくりとドアを開けた。

ドアが開くと前方に風景が見える。


そこには木々が鬱蒼と茂る山ではなく、見晴らしのいい崖だった。

優也のススキ色の髪が優しく吹いている風で揺れる。


遠くを見ると木々に囲まれた村が見える。

優也はキョロキョロと辺りを見渡した。

もしかしたら玄関は二つあって反対側に出たという有り得ない希望を抱いたのだ。


優也は玄関から外に出て屋敷の裏に回ろうとするも、愕然とした。

ドアのあるこの場所以外は崖だったのだ。

少し身を乗り出し下を覗き込むと、真っ暗な空間が広がっていた。優也が思っている以上に深そうだ。


「……ここ、どこだよ」


優也はとうとうここは学校の裏山ではないと認めるとポツリと呟いた。






「よっと……」


優也はとりあえず鞄から必要な物を取り出し、背負った。

優也が取り出したものはコンパスと色のついたチョークにメモ。そして、懐中電灯だ。


もとから優也は、亮を探すための準備をしてやってきていた。廃墟で見つからなかったら山の中を捜索する気だったのだ。

本当は裏山の地図も用意していたのだが、ここは裏山ではないので鞄から出してない。


「とりあえず、今の方角は…………」


優也はまずコンパスで方角を確認した。しかし、方角は確認出来ない。

コンパスの針は何故かグルングルンと回っている。


「この場所は磁気が強いのか」


コンパスを見ながら呟くと、今から歩くであろう道を見つめる。

前方には狭くはないが広くもないおよそ5メートルくらいの幅の一本道がひたすら続いている。


「一応、一本道みたいだし大丈夫か」


優也はコンパスを納めると目の前の一本道を見据え、歩きだした。


どれくらい歩いただろうか。

もう後ろにはあの屋敷は見えない。


「ん?」


優也は何かに気付くと眉を寄せた。そして、足早に向かう。


しばらくして優也は足を止めた。前方にあった一本は険しい崖で途切れている。

すぐ目の前に木々の生い茂った向こう岸が見えるのだが、とてもジャンプなので飛び越えれる距離ではない。


(さて、どうするか)


優也は困ったように辺りを見渡した。すると、右側に橋がかかっているのを見つける。

優也はとりあえず橋に近付いた。

見つけた橋はお世辞にも頑丈とは言い難く、此方側と向こう岸に張られた太い縄が崖の下から吹いてくる風の影響を受けギシギシと音をたてている。


優也は太い縄に触れてみた。一応渡れそうだ。しかし、あまり渡りたくない。


(ここ以外に道ないのかよ)


優也はそう思い他の道を探そうとまた辺りを見渡した。


その時である。後ろからバッサバッサと力強く何かが羽ばたく音が聞こえた。

優也は何の音だろうかとゆっくり振り向く。

目の前にいたのはおよそ全長5メートルはある生き物。まるで恐竜のような頭、身体はがっしりとしており、背中から大きな翼が左右対称に生えている。尻尾は長く心なしかゆらゆらと揺れているように見えた。


「は、い?」


優也は驚き、ただただその見たことない生き物をマジマジと見つめた。

身体が危険だと判断してるのかジワリと背中に嫌な汗が流れる。


目の前の生き物はバッサバッサと両翼を羽ばたかせるとジロッと優也を見る。

黄金色のギラギラ光る目が優也の姿を鏡のように映し出したかと思うと、威嚇するように一声上げた。

その声は地を揺らすかのように鳴り響き、優也の恐怖心を煽る。


「ひっ」


優也は情けない声を小さくあげるとガタガタ震えた。逃げなきゃいけない。そう、逃げなきゃいけないのはわかってる。


しかし、足がガクガクと震え動くことができない。


優也は生き物から目を離さず自分の足を叩いた。


(動け、動けよ!!俺の足ッ!!)


動けと命じれば命じるだけ足はガクガクと震える。


そんな優也に、生き物は鋭い爪のついた手を上げた。優也はもう、俺は死ぬんだと思いギュッと目を閉じた。


「諦めんなッ!!」



誰かの声が聞こえ、思い切り腕を引っ張られた。

優也がいた場所に鋭い爪がつき刺さる。

まさに間一髪である。

優也が状況を把握する前にまた腕を掴んだ相手が声を発する。


「逃げるよ!!」


そう宣言すると、声の人物は優也の腕を握ったままあの頑丈とは言い難い橋を走って渡り、木々の生い茂る山の中へと入り込んだ。




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