ミルクティー
書いてる私も不思議な話です。
なんということはない、日常の中のたった一コマの不思議です。
――ちゃぽんっ
手の中のミルクティーが、道のでこぼこに合わせて揺れた。
シートベルトを着けて助手席に座った私の手には、ホット用の小さめのペットボトル。
冬のさなか、いつものように、少しでも暖まるために、私はミルクティーで寒さをしのぐ。
だが、そのペットボトルの中身は、すぐに飲むにはちょっと熱い。
不思議な色をした水面は、だから、ゆっくり、ゆっくりと下がっていく。
――ちゃぽんっ
また、ミルクティーが跳ねた。
その滴は、どうしたものか、形を失わずに玉の形を保って転がった。
不思議な色の板の上を、同じ色の玉が滑る。
たまに私が見かける、不思議な現象だ。
大きさは、直径が、小指の爪の半分くらい。
それを、車に揺られながら、弾けてしまわないように守る。じっと見つめる。
ちょっとでも油断しようものなら、すぐにまた次の揺れで、弾けて溶けてしまうのだから。
そして、時たま新しい玉ができて、私をささやかに喜ばせる。
――いくつものカーブ、いくつもの凹凸、そして上り坂――
玉が生まれる要因と、そして消えゆく要因は、そこにあるのだろうか。
ペットボトルの水面をじっと見つめていた私は、一応の納得を得て、視線を逸らした。
疑問が氷解したわけではないが、面白い謎は解いてしまうのはもったいない。そんな気もするのだ。
景色のなかに緑を見て、道の先を見て、また私は別の考えの沼に、身を沈めた。
目的地まで、道のりも時間も、まだたっぷりとあるのだから。
そうして私は。
キャップをそっと開けて。
車の揺れでこぼさぬように。
熱さに気を付けながら。
こくりとまた少しだけ、ミルクティーの水面を低くしていく……。
いかがでしたか?
読み終わった後のあなたは、今どんな気持ちですか?
捉えどころのない、不思議な気持ち……そんな風に感じていただければいいな、と。私はそれだけ思います。