8話;ハナミツ
どれだけ時間が経っただろうか?
私は未だにあの広い草原に寝そべって、目の前に広がる青空を眺めていた。
―アリガトウ―
誰にも言われた事は無いけれど、何だかとてもあったかい言葉な気がする。
サラサラと風に揺られて草木の話し声が聞こえる。
それに混ざって、あの小さな歌手の歌も聞こえた。
「…カジキ…‥」
「‥ぅん?」
陽気が良いのか、カジキの眠たそうな返事が返ってきた。
「‥また…‥連れてきてね……。」
「…‥ぉうよ…。」
自然に笑みがこぼれた。
突然カジキが起き上がった。
「…誰だ‥、あんた?」
カジキは誰かに話しかけている、気になって私も体を起こし、彼の目線の先を見た。
「…『No.8732』‥。」
その先にはあの小さな女の子がいた。
私は少し身構えた。
カジキも私の様子に気づいたのか、腰の物に手をやった。
「‥カプチ体か?」
カジキは武器をしっかりと握りたずねた。
「はい‥、『簡易生産体 空間転移型カプチ体 No.8732』。
…話が‥したいだけです。」
No.8732は彼の腰に指を指した。
「それ、必要ありませんよ。
私は戦闘タイプではありませんから‥。」
彼女の言葉の後、カジキは少し考えてから腰の物から手を離した。
「‥連れ…戻しに‥…?」
「いいえ。」
私の質問に彼女は微笑んで返した。
「これからの事を話しにきました。」
彼女は私たちの元へ近づき、私とカジキの顔を見てから話し始めた。
「今から4時間後、『No.00』『No.4374』『No.7116』『No.4696』の4人があなたを連れ戻す任務に入ります。」
カジキは少し驚き、私の方へと顔を向けた。
私もいつかくるとは思っていたが、流石に目前となると…。
「…‥君は‥何でその事を教えてくれるんだ?」
カジキがたずねた。
No.8732は一度私を見て微笑む、そして言った。
「彼女からもう、自由を奪わないためです。」
風が吹いた。
「…‥では、私はこれにて…‥。」
彼女が振り返ると、緑色の小さな竜巻が彼女を包んだ。
「…『No.8732』…!」
私は女の子を呼んだ。
No.8732は振り向いて
「何ですか?」
と返した。
「…私の名前…‥『サミレナ』…!」
彼女はキョトンとした顔をし、そしてすぐにニッコリと表情を変え言う。
「了承しました。」
No.8732がその場からきえて少し沈黙が続いた。
「…あの子の…」
私が口を開くと少年は私を見た。
「‥あの子の…、‥名前は無いの?」
カジキは予想してなかった私の質問に少し慌てた、しかし彼はすぐに空を見上げて考え始めた。
ちょっとしたら彼は私にたずねてきた。
「サミレナと…同じ付け方でも…‥??」
私はコクンとうなずいて返した。
そしてカジキはまた、空を眺めながら考える。
「‥『ハナミツ(華蜜)』‥、…語呂合わせなんだけど…‥?」
自信なさげに私を見る。
「…‥うん…。」
彼女にピッタリな名前と…、私は思った。
風が吹いた。
小さな華にも蜜はある。
甘くて、柔らかくて、優しいそれは‥、私いつも安心させてくれた。
…これからも、私に優しさをくれますか‥?