第7話 謎の写真
自宅に戻ると玄関で見知らぬ女性が待ち構えていた。顔には皺がうっすら見える中年の女性だ。エプロン姿の女性は俺の帰宅を確認するなり「お帰りなさいませ」と丁寧にお辞儀をした。礼儀の正しい人だなという印象を受ける。
「はじめまして。短い間ですがよろしくお願いします」
俺は女性に向ってただいまとは言わずに形式的に挨拶をする。ランクAとして堂々とするべきだと感じていた。
「こちらこそよろしくお願いします」
俺の母親役である女性は目を伏せ軽くお辞儀をする。
目の前の女性は物語の上ではあまり存在価値はない。しかし俺にとっては重要な役割を担ってくれている。簡単に言うと家事全般を頼めるのだ。洗濯や食事を任せられるのは本当に心強い。脇役として演技に集中出来る。
だからこそ物語が終わるまでは良き関係を保たなくてはならない。
靴を脱ぐと女性から料理が出来ていると報告を受けたが、後で食べますと答えた。キッチンからはおいしそうな香辛料の香りが漂ってくるが俺はひとまず自分の部屋を探すことにした。
一階はリビングと女性の部屋だけの造りだったので二階へと続く階段を上る。上り終えた正面に俺の部屋が存在していた。すぐに分かったのは扉にアユトルームとご丁寧に書かれていたからだ。
ドアノブを捻り中に入る。
部屋の隅には学習机。知らないタイトルの漫画が並べられた本棚、壁にはアイドルらしき水着姿の少女のポスター。青いシーツのベッド。感想としては男子学生らしい部屋だなと感じた。
面白みのない部屋の構成を目線だけで確認すると学習机に歩み寄った。机の上には例の重量級の分厚い仕事のファイルが並べられていた。大事な仕事の資料である。
とりあえずは時間をかけてこのファイルのすべてに目を通さなくてはならない。俺は椅子に腰を下ろして一つ目のファイルを持ち上げた。
するとファイルの中から紙がひらひらと床に落ちる。なんだろう。手の大きさほどの白い紙に視線を落とす。
白い紙には中央に小さい文字で恥ずかしいですと丸い文字で書かれていた。
もちろん恥ずかしいという内容は理解できない。全く見覚えのない紙の裏面を確認する。
裏面には輝く太陽の下で大人びた赤い水着のアイが笑顔でこちらを見ていた。メモ用紙だと勘違いしていたがどうやら写真だったようだ。ビキニ姿のアイは可愛い水着に身を包んでいる。背景が海なので旅行先で撮影したものなのかも知れない。未発達の身体だが色気は少しあるように見えた。
あいつ。いつのまに仕込みやがった。そうか。俺より遅くこの世界に来たのはこの写真を仕込む為か。どういう反応をすればいいのか分からない。
写真をすぐに握りつぶしてゴミ箱に投げ入れてやろうと考えたが、知人の顔をくしゃくしゃにするのは可哀想だと良心に促されてしまう。
俺は仕込まれていた写真を壁のアイドルのポスターの横になんとなく並べて貼り付けてみた。笑顔の二人を見比べながらベッドに腰を下ろす。
後輩のアイとアイドルらしき少女はお互い大差がないほど美少女だった。
守ってあげたくなるような愛らしさはアイの方が勝っている。いや、それは身内びいきなのかもしれないな。
次に会った時にアイに写真を返せばいいかと安易に考えて、気を取り直すように「よしっ」と声を出すと手に取っていたファイルに視線を落とした。




