第41話 もう少しだけ信じてくれないか
生徒会に体操着のままで集合した俺達は昼食をとる。ちなみに女子メンバー達は太ももをかなり露出したままだったがすでに恥ずかしさに慣れているようだった。人間の慣れとは怖いものだ。
時間が経てば見慣れてしまうものだなと考えながら俺はパンを鞄から取り出す。
袋を開け口に運ぼうとすると席が隣になった出雲かなでが俺のパンをちらちらと覗いているのに気がついた。
どうしたのだろう。俺の焼きそばパンがそんなに魅力的なのだろうか。出雲かなでの好きな食べ物は焼きそばパンではなかったはずだけれど。
「良かったら一口食べる?」
「ひぇ……」
俺は焼きそばパンを出雲かなでへと差し出す。その時、出雲かなでの弁当の中身を見た。赤いお弁当箱はお腹いっぱいになるのだろうかと心配になるほど小さかった。
ご飯の隣には卵焼きやミニハンバーグがつめられている。きちんとレタスやミニトマトが入っており色鮮やかな作品となっていた。
「可愛いお弁当だね。母親に作ってもらったの?」
瞳をじたばたさせている出雲かなでに聞いてみる。
「わっ、私が作りました……かっ、可愛いだなんて……あっ、ありがとうごじゃいます」
うつむきながらはにかむ出雲かなでになぜか感謝されてしまった。そしてなぜかマユミは氷点下の冷たさで俺を睨んでいる。さらになぜか佐伯裕樹は優しく微笑んでいた。
「アユト。罰として全員分のジュースを買ってきなさい。そして償いを果たしなさい」
「いやいや。罰を受ける筋合いなどないはずですが?」
「生徒会長。俺が行きましょうか。ちょうどのどが渇いているんで」
「ほほえみ王子は口を慎みなさい」
「マユミ。それはひどいんじゃないかな?」
「喧嘩するな。わかったよ。ちょうどのども渇いてきたしついでに買ってきてやるよ」
マユミが佐伯祐樹をののしるとすかさず批判する真中葵。俺はめんどうくさくなりそうだったので退散するように生徒会室を後にした。
校舎の外にある自動販売機の前に立つ。俺がズボンのポケットから財布を出したところで誰かから肩を叩かれた。
振り返ってみると、この学校に来てははいけない生徒だった。
「アーユトさん。来ちゃった。てへっ」
自分の頭を軽くコンっと叩き、満面の笑顔で俺に話しかけたのはアイだった。
アイは中学生役のはずなのに俺と同じ高校の制服を着ている。俺はとりあえず辺りを見渡した。幸運な事に誰もいないようだ。佐伯裕樹やマユミ、さらには出雲かなでに見つかると面倒なことになりかねない。
「てへ、じゃねーよ。お前はいつもいつも……」
恐らく高校生になりすまして球技大会を見に来ているのだろうとすぐに分かった。俺は頭をかき濃度の高い吐息をついた。アイは俺を驚かせた事に満足しているようだ。
「妻として……だっ旦那の応援に駆けつけるのは当たり前ですよ!」
くねくねと身体を動かせてツインテールを揺らしており、さらにほんのり顔を赤らめる。何が当たり前なのか理解出来ない俺は「すぐに帰れ」と忠告した。
アイと俺が関わっているのを佐伯裕樹に知られたくはないのもあるが、自分の役柄をほったらかして遊んでいるというのはよろしくない。俺が言うのもなんだけれど。
放課後や学校が休みの時ならいいが今は平日で中学校は授業中のはずだ。
「分かりました」
残念そうなアイは思った以上に落ち込んでいた。
会ったときに見せた笑顔が消えるとうつむき加減で地面を見つめている。そんなアイを見てさすがに冷たかったかなと俺も少しだけ後悔してしまった。
とぼとぼと帰る姿を見て俺はとっさにアイの肩に手をかけた。
驚いたアイは俺へと向き直る。
「アイ。お前の気持ちは嬉しいけどもう大丈夫だ。だからもう少しだけ信じてくれないか? お前を幻滅させないように頑張るよ」
自由な後輩に優しく語り掛ける。アイは何度も頷いてくれていた。
素直でいい子なのだが自分の欲望にも素直なのが短所である。俺の想いを受け止めたアイはなぜか涙目になっていた。
そんなアイに俺は優しく頭をなでてあげた。
「ひゃ……」
アイのさらさらの栗色の髪の毛をなでていると、俺の目の前に出雲かなでが現れた。




