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脇役の苦悩を主人公は知らない!?  作者: 竜宮


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第40話 似合っていると思う

 熱気に包まれた体育館ではついに第一試合が始まろうとしている。

 試合は体育館を半分に区切った二面のコートで行われる。観客のほぼ全てが観戦に力を入れるのはもちろん生徒会チームの試合だった。生徒達は歓声を上げている者も多く大いに盛り上がっていた。

 普段の球技大会ならば授業の一環なので盛り上がりに欠ける。

 だが、マユミのご褒美の提示が結果的に異様な盛り上がりだった。まぁ他の球技ではなくドッチボールに限ってではある。

 生徒会チームが負けるのを楽しみにしている者もいればマユミのキスのご褒美を阻止するために生徒会チームを全力で応援する男子生徒達もいた。他の男子がご褒美をもらう事への嫉妬が見え隠れしているようだ。人間らしくていい。


「とにかく絶対勝つわよ。いい。分かってる?」


 真中葵は気合十分のようだが恥ずかしいのか顔を少し赤らめている。出雲かなでに至っては耳まで真っ赤となっていた。恥ずかしいなら断ればいいのにと素直に思う。

 俺達は試合直前に固まって作戦を立てていた。

 ちなみに生徒会の女子メンバーは凄まじいほどに注目を集めている。

 俺はマユミに向かって顔をしかめる。球技大会に出場する選手はもちろん学校指定の体操服だ。男女変わらず通気性の良い白の半袖で下は動きやすい黒の半ズボンを着用する。

 しかしマユミ達は違った服装をしている。違ったといっても全てではない。

 上は俺と同じように白の半袖ではあるが下はブルマーを着用していた。

 時代錯誤過ぎて違和感しかない。

 綺麗な太ももを大胆に露出しているのは確かに動きやすいと思うけどわざわざ服装を変える必要はない。俺はマユミの引き締まった太ももを眺める。


「舌で舐めたそうな目であまり見つめないでちょうだい」


 俺の視線を敏感に感じ取ったマユミは俺をまた変態扱いする。そしてマユミの言葉に瞬時に反応したのは出雲かなでだ。

 彼女にいたっては太ももの露出が恥ずかしいのか両手で見えないように必死で隠していた。隠れ切れてはいないのがまた愛らしい。

 彼女たち三人が体育館に入ったとき男子生徒の興奮の急上昇はすごかった。

 雄叫びを上げていたといっても過言ではない。敵軍に攻め込む兵士達のようだった。


「舐めるはずがないでしょう……生徒会長は緊張感というモノを知っていますか?」


 全力で否定するとマユミはまたまたそんな強がっちゃってみたいな雰囲気を出す。真中葵に至っては俺に向かって顔をひきつらせていた。どうやら誤解が走り抜けているようだ。

 俺は咄嗟に弁明する。


「葵。違うからな。だからそんな目で俺を見ないでくれ……それよりも生徒会長。なんでその格好なんですか?」


「この姿のほうがむしろ気合が入るのよ。戦場には戦場での死に衣装が必要でしょう?」


「だとしても出雲さんを巻き込むのは止めてください。可哀想です」


 明らかに嫌がっているだろう出雲かなでの味方につく。おそらくマユミが二人を強引に丸め込んだのだろう。マユミにそそのかされた真中葵はおいておくとしても、明らかに被害者なのは出雲かなでだ。


「アユトは出雲さんにはこの姿が似合っていないとでも言いたいのかしら?」


「そういう意味じゃないですから!」


 出雲かなではマユミの反撃にびくっと身体を震わせた。マユミは口元を曲げて「じゃあ似合っているのかしら?」と問い詰めてくる。隣では出雲かなでは俺を上目遣いで見つめていた。進むも地獄、戻るも地獄状態だ。

 俺の横にたたずむ佐伯裕樹は巻き込まれたくないのか決して口を挟まない。

 懸命な判断である。


「似合っていると……思う」


 もじもじと動く出雲かなではマユミとは違い恥じらいが残っている。さらに露出した太ももは白くもちもちととても柔らかそうな曲線だった。幼さの残る出雲かなでがこの三人の中でも似合っているんじゃないかと俺は思う。

 それほどまでに初々しく愛らしかった。


「気持ち悪い顔をしないで。まあアユトがブルマー好きなのは周知の事実なのだからしょうがないわ。とにかく変質者もどきは無視してそろそろ行きましょうか」


「こらこらこらこら」


 結局何の作戦も立てずに試合に向かう事となった。ただ単に俺の社会的な評価を落とす結果になっていた。真中葵はマユミの性格を分かっているので違うと信じてくれるはずだが純粋な出雲かなでは例外だ。

 俺の方を見て明らかにおどおどしている。佐伯裕樹は半信半疑な表情を保っていた。

 俺は思う。お二人様、マユミの言葉を信じないでください。

 なんの作戦も決まらぬままコートに集合する俺たちは相手チームと礼を交わした。そして試合開始のホイッスルが鳴る。

 まずボールを持っているのは敵チームだった。

 攻撃に備えてマユミと出雲かなでは構える。俺も二人と同じように構えてはいるが守備に集中するより先に俺は相手チームの一人、つまり敵に合図を送った。

 合図に気づいた敵チームの一人は小さく頷いた。

 コート内にいるのは俺とマユミと出雲かなでの三人だ。コートの外、つまり外野には佐伯裕樹と真中葵が配置されている。

 五対五の試合でコート内は三人、外は二人と事前にルールで決めていた。

 中の三人がボールを当てられてしまうとアウトとなりリタイア。もし外の攻撃が成功したとしたとしても復活はしない。つまりコート内の三人が全員リタイアすれば試合終了というルールに決まっていた。

 誰が中で誰が外に配置されるかはくじ引きで決めることになった。不正は一切なく本当のくじ引きで決まる。


「ご褒美は俺たちのものだ!」


 相手チームは叫びながら勢いよくボールを投げつける。恥ずかしくはないのだろうかという考えが一瞬だけ頭によぎった。

 最初の攻撃を俺はなんなく避ける。続いて外野からの攻撃が襲ってくるが何とか避けた。

 明らかに俺とマユミを狙っているらしい。コートの中で突っ立っている出雲かなでの処理は後でもいいと考えているのだろう。確かに目の前の攻防をおどおどと立ち尽くしている。

 避ける気がないのではなくどうしていいのか分からないのだろう。

 マユミと俺への見え見えの集中砲火を何とか避け続けていると、敵が投げ損ねたボールを俺がキャッチした。投げ損ねたといっても故意に投げ損ねている。

 俺は事前に敵チームの一人に歩み寄り、交渉を持ちかけていた。それは俺たちに有利になるようにしてくれだった。相手には生徒会チームに勝たなくても演者としての評価を上げてやると約束していた。

 卑怯だと言われるかも知れないがこれも戦略の一つだ。いかに負けないように立ち回るか、つまり自分の思い通りに進めるかは演者の実力に繋がっている。

 自らミスをした彼は仲間からの罵倒にさらされている。その雰囲気からばれてはいないようだと俺は感じた。

 ようやく攻撃の番が回ってきた俺は助走をつけて相手を狙う。すると一人をリタイアさせる事が出来た。ボールは外野へと転がったのでまだ俺たちの攻撃だ。その後あっけなく二人目、三人目をリタイアさせなんなく勝利を収めた。

 スパイの彼はいい感じに味方の足を引っ張ってくれた。

 その後、二回戦と三回戦も危なげなく勝利した。

 一回戦と同じように俺が交渉していたスパイ達がいい働きをしてくれた。さすがは脇役の演者といったところか。なんの違和感もなくミスを連発してくれた。

 そして次はいよいよ決勝戦だ。

 実は決勝戦のフウキチームにはスパイを作るのに失敗している。フウキさんが事前に根回しをしていた結果だろう。

 フウキチームも順調に決勝戦に勝ちあがってきたようだ。俺たちも偵察とばかりに、観戦してみたが相手を寄せ付けない強さだった。

 決勝戦は午後からの開始なのでお昼休憩となった。

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