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脇役の苦悩を主人公は知らない!?  作者: 竜宮


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第4話 還元対象ですから!

 玄関の扉を開けると物語の世界が広がる。

 仕事の依頼が自宅に届きファイルを確認した瞬間から脇役の仕事は始まる。つまり玄関の扉を開くと外の世界が物語の世界へと繋るのだ。

 扉の先は別世界となる奇妙な感覚にはもう慣れているが新人だった頃はとにかく驚きの連続だった。だってそうだろう。扉の先がいきなり違う世界になるのだ。普通の人間なら唖然として放心状態になるのは仕方がない。

 新人の頃を思い出すと懐かしい。元の世界に帰って来られるのだろうかと不安が募ったものだ。初々しかった俺も今やランクAに辿り着いた。

 これからランクAとしての初めての仕事。失敗は許されない。俺の栄光はここから始まるのだ。

 俺は扉を開ける手にいつも異常に力を込めた。


 そして物語の世界へ。


 外へ出てみると見慣れた景色はなかった。高層マンションが立ち並び、日陰の中にあったアパートからの景色は家々が立ち並ぶ住宅街へ。遠くを眺めると緑を描く山々がつらなっている。

 聞きたくもないのに耳に入る都会の騒音は無くなり辺りは静けさに包まれていた。街路樹が均等に植えられた道、綺麗に舗装された道路、辿り着いたのは自然と調和した住宅街だった。

 少し前へ進んだ俺はさっと後ろを振り返る。

 目の前には見慣れた安いアパートの扉ではなく綺麗な一軒家の扉となっていた。扉から離れるよう歩を進めてから家の外観を確認する。

 二階建ての駐車場がある一軒家だった。何の特徴もない平均的な家。広くもなく狭くもなく一般的な一軒家に見えた。

 腕を組みながらしばらくは自宅になる家を眺めていると、玄関が勢いよく開かれた。

 あまりの勢いに扉が壊れてしまうのではないかと扉を心配してしまったほど暴力的に開かれたのだ。


「待ってくださいよーアユトさーん!」


 扉から飛び出したアイがこちらに慌てて駆け寄ってくる。隣に到着したアイは首をきょろきょろと左右へ動かして今回の仕事先である物語の世界を見渡した。


「なんか普段と変わらない世界ですねー。私はファンタジーとかの方が刺激的で面白いと感じるのですが。本当に平和そうな世界です」


「物語のジャンルによっては扉を開けると森の中、海の中とかありえるからな」


「私なんていきなり首が無い大きな魔物が襲ってきたこともありましたよ。あれはファンタジーの仕事でしたね。いやー、まさか仕事が始まる前に食われるとは思いませんでした。まぁ刺激的でしたけどね」


 アイは自分の血生臭い過去の出来事を満面の笑顔で語る。

 いやいや笑い事ではない。本当にアイは根性があるのか好奇心が強いのか分かりかねる。ちなみに俺はアイが求める刺激など一切必要とはしていない。

 正直魔物なんて出会いたくはない。脇役の人間は味方だが魔物や動物はランクAの指示など聞かないのだ。


「あっ。そういえば今日の私の服どうですかっ! 実は自信がありますよー」


 アイはバレリーナのように足のつま先を立て、両手を広げたままくるくると身体を回す。まるで初めて遊園地に連れて行ってもらえた喜びを身体で表す少女のようだった。

 俺は無邪気な少女の要求通りアイの頭の先から靴底まで流し見た。


「似合っているよ。実にお前らしい。今日は赤一色なんだな」


 アイは同色を好む。今日は赤いジャケットに赤いインナー、スカートも赤のチェック、ブーツも赤だ。それぞれ若干色合いが違い、色の名称も違うだろうが俺にとっては全部赤だった。ちなみに下着も赤なのも確認済みではある。


「えへへっ。ありがとうございますっ! 褒められると伸びるタイプですのでもっと褒めて下さいー!」


 軽く皮肉を込めた意見だったのだが、アイは朱色に染めた頬を両手で隠して嬉しそうにニヤニヤしていた。もっと正確に表現するなら頬を揺らしながらニマニマしていた。

 まぁ本人が喜ぶのなら褒めて事にして置こう。捉え方は人それぞれだ。

 照れているアイの隣で俺は空を見上げると夕日が朱色を濃くしていた。

 どうやらこの世界の時刻は夕方のようだ。腕時計を見ると時間もしっかりこの世界の時刻に変わっていた。

 そろそろ行くぞとアイに一声かけ、二人で肩を並べて歩き出す。

 俺がまず視察しておきたい場所は物語の主要な場所、つまりは学校だ。学校という舞台はラブコメに相応しいと俺は考えていた。

 だが、資料を熟読せずに出発したので肝心の学校の場所は分からない。まぁ通りすがりの演者達に尋ねれば問題はないだろう。

 普段は行き先を必ず確認するのだが気持ちが高揚して先走った。俺らしくない。どうやら浮かれている状態なのだろう。

 二人並んで歩き出すと早々に制服を着た女子生徒を発見する。すでにこの世界に移り住んでいる女子生徒役の彼女に道を教えてもらい、道順を確認しながら数分で学校にたどり着いた。

 自宅とはそれほど離れていないようだ。校門前に立ち学校の外観を確認しているアイが口元を俺の耳に寄せてきた。息遣いが聞こえる程に近い。


「なんか私たちすれ違う人達に注目されていましたね。お似合いのカップルと思われたかも知れませんよ。うふふっ。だったらいいのにな」


 不必要に近いアイの頬を手で押した俺は冷静に答える。


「カップルよりもまだ兄妹の方が有力だと思うけど? アイは背が低い。見た目は子供。俺と手を繋いでいたとしても妹想いの兄に間違われるだろう」


 あと、注目されていたのはアイの服装が派手だからという可能性もあるだろう。本人には言わないが赤一色の人間はどこかのアーティストかアイぐらいだと思う。

 俺も学校までの長くない道のりで確かに注目されているのにはもちろん気づいていたが本当の理由は検討するまでもなく大体は分かる。

 答えはアイが有名人だからだ。

 アイの祖父は脇役界の重鎮でこの業界では知らないものはいない。実際に同業者として働いている孫も有名になってもおかしくはない。さらにアイの容姿は同学年と比べて秀でている。雑誌のモデル依頼が来るほどに世間から可愛いと思われていた。


「そんな恥ずかしがらなくてもいいですよ! 私はカップルだと思われても全く嫌ではないですよ! むしろ他の方々には勘違いして欲しいくらいです! むしろカップルの定義に反しておりませんよア、ユ、ト、しゃん!」

「俺の名前を溜めて呼ぶな」


 感情的になって反応すればアイの思うツボだ。ここはぐっと堪えて歩き出す。俺は愚策をとらない。自分の名前が不必要に間を置かれたとしても反応しては駄目だ。


「待ってくださいよー。照れ隠しもほどほどにしてくださいよー! でもそういうシャイなところもポイント高いですから! 還元対象ですから!」


 妙に嬉しそうな全身赤の少女を気にせずさらに歩を速める。

 決して照れてはいない! そして還元対象って何だよ!

 心ではツッコミの連鎖が巻き起こっているのを必死で我慢していた。 

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