第38話 もうお前は喋るな!
風紀委員室で意見表明を終えた俺はマユミと共に風紀委員室を後にした。
右手にはトーナメント表のコピーを掴み、ひとまず体育館の様子を見に行く為に歩き出す。生徒会メンバーの上達ぶりを見に行く必要があった。
俺はふと隣で肩を並べるマユミに声を掛ける。
「そういえば俺とフウキさんのやりとりにあまり口を挟まなかったな」
マユミにしてはおとなしく人の話を聞いていた。いつもの調子なら冗談や傲慢な発言をぶつけてくる。何か考え事でもしていたのだろうか。
問いかけに対してマユミは目線を前に向けたまま親指を加えた。
「アユトは私の存在をおしゃべりな女だと勘違いしているのかしら。もしくはおしゃぶりな女かしら?」
「いやいや。何の話だよ……」
「明らかに下品な話だけれど文句はあるのかしら?」
「……返答に困るから止めて貰えませんか? マユミさんはセクハラという言葉をご存じですか? 俺じゃなかったら訴えられるぞ?」
「セクハラ? アユトの存在こそ壮大なセクハラだと思うのだけれど?」
「意味が分からん! なんで俺がセクハラなんだよっ!」
俺はマユミらしさに吐息をつく。普通にしていれば高嶺の花と称されるように美少女なのにこの性格がなければ完璧に近いはずだろう。本当にもったいないといつも通り感じたが決して口には出さない。
「そういえばあなたと幼女のいかがわしい行為を記録した録画を観るのを忘れたわ」
マユミから横目で睨まれたので咄嗟に視線を外す。なぜそこまで執拗に俺を責めてくるのか分からない。俺は清廉潔白だ。あれは事故なのだ。
以前に説明した通り俺はアイに何もしてはいない。
「まだその話を引っ張るのかよ。そろそろ勘弁して下さい」
するとマユミが目を大袈裟に見開かせる。実にわざとらしい演技だ。
「引っ張るというのはあれの事かしら……突起物を見ると引っ張りたくなるのがアユトの性癖なのね。私は――」
「もうお前は喋るな!」
明らかにいやらしい言葉の流れだと感じた俺は下品な会話を未然に防いだ。
するといやらしい言葉を披露できなかったマユミは本当に黙った。唇を噛んでいる所から察するに拗ねているのだろうと思うが放っておく。
そして沈黙のまま校舎を出て体育館に向かうとなぜか歓声にも似た声を響かせていた。
「そんなに大声を上げてどうしたんだ?」
俺は満面の笑顔でガッツポーズをとる佐伯裕樹に何事かを問いかける。
「アユト見てくれっ。ついに出雲さんがボールをキャッチする事が出来たんだ! すごいだろ!?」
佐伯裕樹が指差す方向には赤面を隠す出雲かなでがボールを大事そうに抱きしめていた。どうしていいのか分からずにあたふたしている様子だ。
「すごい上達じゃない出雲さん。この調子ならいけるわ」
真中葵も佐伯裕樹と同じようにテンション高めに片手でガッツポーズをとった。それを盗み見る出雲かなでは恥ずかしさの度合いが上昇したのか身体を小刻みに動かしている。
たしかに出雲かなでにしては頑張ったとは思うけれど周りのメンバーがテンション上げ過ぎではないのだろうか。
俺は温度差を感じながら生徒会メンバー全員に聞こえるように声を掛けた。
「もう下校時間も過ぎているからとりあえず今日の練習はこの辺にしておこう。明日もみんな放課後は練習の為に予定を空けておいてくれ」
生徒会メンバーも賛同してくれたので今日の練習はここまでとなった。練習が終わったからか出雲かなでは電池の切れた人形のように座り込む。日頃運動していないせいで疲れたのだろう。出雲かなでは精神的に臆病なので気疲れもあるのかも知れない。
本当によく頑張ったと素直に思える。
俺は赤面しながらしゃがみこんでいる少女に近寄ると手を差し伸べた。
「出雲さんお疲れ様。この調子で一緒に頑張ろう!」
俺は笑顔で出雲かなでの頑張りを称えた。
見上げる出雲かなでは俺の手と顔に視線を上下させる。続いて唇を振るわせながら「あっありがとうごじゃいます」と俺の差し伸べた手を握らずに出入り口へと走って去ってしまった。
あれれ。何か悪い事でも言ったのかな。
「おーいアユトー。早く帰ろうぜ」
床に向けて寂しく手を差し伸べ笑顔のままで固まっていると佐伯裕樹が声をかけてくれた。




