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脇役の苦悩を主人公は知らない!?  作者: 竜宮


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第36話 まだ説明を受けていません!

 体育館の高い天井で声が反響する。この季節独特の体育館の蒸し暑さを体感する。湿気が多くて腕や首筋がべとついて気持ちが悪い。

 普段なら放課後の体育館ではバスケ部やバレー部などの活気ある練習を行っている。しかし今日の放課後は生徒会が貸しきっていた。


「ひゃっ!」


 出雲かなでは相も変わらずに悲鳴を上げている。悲鳴は話し声より大きいようだ。


「出雲さん。ボールを怖がっていたらダメよ」


 学校指定の運動着に着替えた真中葵が呆れ半分に腰に手を当てた。

 生徒会メンバーが全員集合したので球技大会に向けて練習しているのだが、なかなか身のある練習が出来ずにいた。理由は運動が苦手な出雲かなでが足を引っ張っていたからだ。

 まずはキャッチボールで身体を温めようとしたのだが、出雲かなでは小学生でも取れる球を投げても怖がってしまいその場でしゃがみこんでしまう。

 何度も同じ光景を見ている俺はボールに何かトラウマでもあるのかなと考えてしまうほどだった。怖いのは分かるけれど早く慣れて貰わないと話にならない。


「ひとまず休憩しようか?」


 俺は全員に聞こえるように声を出した後で真中葵に近づく。


「なぁ。聞きたいんだけどなんで生徒会長がいないんだ?」


「知らない。なんか運動着に着替えてくるって言い残してから姿を見せないのよね。どこに行ったのかは知らない。まぁマユミの勝手な行動はいつもの事すぎて慣れちゃったわね。本当にあの女は自由だわ」


 タオルで汗を拭いながら真中葵は答える。すると隣で座り込んだ佐伯裕樹が笑った。

 手にはスポーツドリンクが握られている。


「大丈夫だ。生徒会長なら練習なんていらないだろ。アユトも葵もあの生徒会長の運動神経の良さは知っているよな? 頭も良くて運動も出来るなんて本当に凄いよ」


 俺は佐伯裕樹に向かって「確かにそうだな」と笑った。

 マユミの運動神経がずば抜けているのは重々承知だ。最近では脇役の仕事で身体を鍛えなければ勤まらない役柄を演じる事も多いらしい。

 マユミは問題ない。俺は現時点での問題である少女に近寄った。


「お疲れ様。いきなりドッジボールの練習に連れ出して悪いね。大丈夫?」


「ひゃっ……だっ、大丈夫……です」


 出雲かなではうつむき加減で少し離れて体育座りをしていた。自分の不甲斐無さが恥ずかしいので少し離れていたのだろうか。


「出雲さんはスポーツが嫌い? というより球技が苦手とか?」


 何も答えない。俺は隣にしゃがみこむと出雲かなでは少しだけ俺との距離を開けた。


「俺は楽しいから好きだ。身体を動かせば暗い考えもましになる」


「……それはスポーツが出来る人の意見です。私には無理だと思います」


「いや、そういう訳じゃないんだけど……」


 いつもと違い言葉に冷気を含ませている気がする。いや、確実に冷気を放っている。まさか無理やり呼び出されたので怒っているのだろうか。

 異変に気づかないわけのない俺は出雲かなでの横顔を無言で見つめた。


「そっ、それより……まっ、まだ説明を受けていません!」


 出雲かなでは俺の視線を受けて表情を隠すようにさらに身体を丸くした。

 説明とは何だろう。まさか出雲かなではドッチボールのルールを知らないのだろうか。だとすれば完全に見落としていた。小学生時代に教わってなかったのだろうか。

 誰でも知っていると思っていたのだが知らない人もいるんだと俺は知った。


「そろそろ始めるか!」


 佐伯裕樹が活気ある声を出す。少しだけ驚いていた俺は出雲かなでに「とりあえず頑張ろうか」と声をかけると同時に腰を上げた。


「裕樹! ちょっと来てくれないか?」


 再び練習を始める前に俺は佐伯裕樹を女性陣から少し離れた所に呼び出す。


「裕樹。出雲さんなんだけどドッチボールのルールを知らないらしい。だから説明してやってくれないか。あと練習メニューだがとにかく出雲さんに投げる、捕る、避けるを練習させてやってくれ。あと一週間しかないんだ。手取り足取り頼む」


 少し汗ばんだ佐伯裕樹に耳打ちする。


「別にいいけど……お前は葵と組んで練習するのか?」


「俺は生徒会長を捜しに行ってくる。だから葵のことも頼んだ」


「いや、俺一人で二人も面倒みれないぞ」


 佐伯裕樹は眉根を寄せる。面倒くさい事は言われなくても分かっている。


「お前なら出来るよ。んじゃ頼んだ!」


 そう言い残すと俺は体育館の出入り口に向かって歩き出した。


「分かったよ。とにかく早く帰って来て手伝ってくれよな」


 俺の背中に向かって投げかけた言葉に振り返らずに片手だけ挙げた。

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