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脇役の苦悩を主人公は知らない!?  作者: 竜宮


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33/51

第33話 諦めたら殺す

 脇役の仕事をしなくなって二日が経った。

 今日も俺は部屋で何もせずに天井を見上げている。食事も喉を通らない始末だ。

 後悔してもすでに遅いのは分かっている。主人公との対立は自分の責任だ。

 脇役である俺が親友ではなく本人の意思でイラついた感情をぶつけてしまった。

 ランクAではなく脇役として、さらには一人の人間としても最低だ。物語に混乱を招くなどあってはならない。

 脇役は与えられた役を与えられた命令に従って行われるべきだ。自分の感情に身を任せるべきではない。このようなルールは脇役の新人でも順守している。

 俺は責任を取って脇役を引退するべきなのかもしれない。

 物語も上手くいかず、さらには不満を主人公にぶつけるなんて愚かな行為をした。もう決めて諦めるしかない。

 しかし、このまま続けたって無意味だが決して辞めたいからといって物語が終るわけではない。定められた期間まで何もしなくても物語が終了の時まで待たなくてはならなかった。

 もう誰にも会いたくはかった。俺には脇役の仕事は向いていなかったのだ。いくら努力しても全てが無駄だ。ならば夢など持たずに何もしない方がいい。

 塞ぎ込んだ俺は部屋に閉じこもって物語の終わりを待つ。


「落ちぶれたものね。アユトが暗い部屋で泣きながら引きこもる場面なんて台本には無かったはずなのだけれど?」


 すると現時点で一番会いたくない人物が訪れた。俺はベッドの上で寝転がりながら呟く。


「出て行ってくれ。お前と喋ることなんてない」


 誰も家へ入れるなと母親役に伝えていたがマユミはランクAだ。どうやら母親役の演者もマユミには逆らえないらしい。母親役の女性を責めるのは筋違いだが俺は苛立ってしまう。

 ただ、マユミが冷やかしに訪れるのは予期していた。俺に向かって遠慮なく皮肉を投げつける為なら宇宙にだって出向きそうな奴だ。本当に最悪だ。


「アユトはこんな所で何をしているのかしら?」


「……別に何もしていない」


「脇役の仕事もせずに何をしているのかって聞いているのだけれど?」


「うるさい……もう何もしたくない。手遅れだ。この物語は破綻している。俺なんてランクAの器じゃなかった。すでに結果が出ている」


「じゃあこの先も何もせずに立ち止まるつもりなのかしら?」


「もう俺はランクAを降りる」


「自分が情けないとは思わないの?」


「黙れ。俺はお前と違って才能なんてない。無理だったんだ。初めから分かっていた」


「私は情けないとは思わないのと聞いているのだけれど?」


「……そりゃ情けないだろ……ランクAの仕事も上手くいかず、主人公と不要な対立をする脇役なんて情けないというより無能だ」


「じゃあアユトはいったいこんな所で何をしているのかしら?」


「……さっきから何が言いたいんだ? 俺を笑いに来たんじゃないのか?」


「情けないと思うのならなぜ行動しないのかしら。まだ全てが終ったわけではないのだけれど?」


「黙れ! もう手遅れだって言ってるだろ!? さっさと帰れ!」


「何が手遅れなのかしら。まだ物語は一ヶ月間あるじゃない。可能性は残っているわ」


「もう終っているだろうが! 現に俺の指示なんて誰も従わない!」


「じゃあ演者達と勝負で白黒つけるというのはどうかしら?」


「勝負?」


「そうね。ジャンルに沿って学園物らしく球技大会で勝った方が勝者に従う、ということにしましょう。物語も盛り上がりそうだし」


「勝手に決めるな。俺は参加しない。もうお前とフウキさんで勝手にやってくれ。ランクAの権限をフウキさんに譲ってもいい」


「本気で言っているのかしら……仕方がない。アユト。こちらを向きなさい」


 寝そべった俺にマユミが近寄ってくる。観察するような瞳は怒りで燃え上がっているようだ。マユミはなぜか悔しそうに奥歯を噛み締めている。


「な、何だよ……」


「アユト。歯を食いしばりなさい」


 マユミの振り上げられた右手は勢いをつけて俺の頬をとらえた。

 いきなりビンタされ、驚いた俺はジンジンする頬に手を置く。


「諦めたら殺す」


 マユミが俺の胸元を鷲づかみにする。必死な姿はひどく懐かしかった。


「約束を忘れているのかしら。あなたは私に言ったはずよ。二人で最高のランクAになろうって。私は嘘を付かれるのが大嫌いなのを知っているわよね?」


 小さい頃の記憶を蘇らせる。幼馴染のマユミをこの世界に連れ込んだのは俺だった。今となってはすでにマユミの方が先に約束を守った形となっていた。


「……たしかに言った」


 俺は劣等感からマユミと距離を置くことが多くなっていた。輝かしいマユミが光だとすれば俺は影だ。いくら追いかけても追い越すことが出来ないと感じていた。自分が惨めになるのを必死で隠していたのだ。隠している自分に対しても惨めに感じるという悪循環に陥っていた。

 目の前のマユミはしばらく動きを止める。俯いているので表情までは見えない。


「先に学校に行っているわ。来なかったら殺すから……馬鹿」


 それだけ言い残すとマユミは部屋を出て行った。

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