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脇役の苦悩を主人公は知らない!?  作者: 竜宮


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第28話 頼むから逃げて下さい

 目的地の公園にたどり着くと周りを見渡す。しかし真中葵の姿は無かった。どうやら先に着いたようだ。俺は公園のベンチで腰を下ろして一息ついた。

 広くもなく狭くもなくといった公園だ。何処にでもあるという言葉が似合う。

 砂場には子供達。遠くのベンチ付近にはお母さん達が談笑していた。


「ごめんアユト。もしかして待った?」


 少し待っていると駆け足で近寄る真中葵が現れた。

 花柄のワンピースに紺のジャケットを羽織った真中葵は可愛さを強調しているようだ。大人びて見える真中葵は可愛い服装を好むとすでに知っている。


「わざわざ呼び出してごめんね」


「大丈夫だ。どうせ暇ですることも無かったから気にするな」


 顔の前で手を合わす真中葵に俺は微笑んだ。真中葵の相談を聞くのも俺にとっては重要な仕事の一部である。

 無事に合流出来たので喫茶店へ歩き出しているといきなり大学生らしき三人組みから話しかけられた。向かい側から横柄に近づいて来るのには気付いていたが話しかけられるとは思っていなかった。


「あれー。めちゃくちゃ可愛い子発見!」


 彼らの馬鹿でかい声は馬鹿さを強調していた。

 色鮮やかで何がいいのか分からない派手なシャツを着た三人は真中葵に近づく。真中葵にこんな奴らの知り合いはいなかったはずだが。俺は冷静に考えていた。


「何ですかあなた達は?」


「ねぇねぇ。俺達と遊びに行かない? きっと楽しいよー!」


 下品に笑う三人はどうやら真中葵の知り合いではないようだ。なら誰の許可をもらってヒロインに話しかけているのだろうという問題が出てくる。

 脇役を演じている彼らは俺の指示がない限りこのような事はしないはずだ。しかもこういう男達からヒロインを庇うという場面は主人公の見せ場だろう。

 現在、俺と真中葵。全くもって意味のない場面だ。時間の無駄だとも言える。


「すみません。友達が困っているのでもう止めてください。さぁ行くぞ葵……」


 公園の母親達がこちらの様子を心配そうに窺っている。

 俺はこの三人がこのような行動をなぜ取るのかおおよそ予想出来ていた。どうやら誰かの指示で動いているのは間違いないだろう。俺を邪魔するのはあいつしかいない。

 俺はとりあえずこの場を切り抜けようと真中葵の腕を引っ張った。

 だが彼らは俺の肩を掴む。俺は相当な握力で握りしめられ顔を引きつらせた。どうやら逃がしてはくれないようだ。


「ヒーロー気取りですかお兄さん? かっこいいー! じゃあヒーローみたいに強いかどうか俺達に教えてくれよっ!」


 三人とも身長は俺より高く身体も大きい。筋肉もあるようなので柔道か空手など格闘技をしているのかもしれない。そもそもなんでこんな雑に絡まれているのだろうか。三流台本のようなやりとりに苛立ちを覚える。

 絡むならもっと丁寧に絡んできてほしいものだ。しかしこのままでは。

 恐喝に脅えはしないが緊迫した空気は俺を焦らせる。まさかこの流れは。冗談だよな。冗談だと言ってくれ。


「えっ……ちょ……待って」


 彼らが拳を鳴らし俺に向けて振りかざそうとする。ちょっと待て。暴力は駄目でしょう。しかも何この急展開。強引にもほどがあるでしょうに!

 どうするべきか考える時間がなかった事で攻撃を交わすという判断すら間に合わなかった。


「うらっー!」


 容赦ない攻撃は腹をえぐった。うずくまり咳き込む俺は涙目になりながら腹を押さえる。

 なんでこうなる。しかもこの激痛。いやはや、手加減抜きですか。


「アユト! あんた達いきなり何すんのよ!」


 真中葵が叫ぶ。俺も同じ気持ちだ。俺達に絡んで何をしてくれているんだこいつらは。しかも俺はこの物語では彼らの上司のはずだ。

 腹を押さえながら俺はゆっくりと立ち上がる。どうやら逃がしてはくれないのなら話し合いをする必要がある。走って逃げても追いかけてくるだろう。なら無駄な体力を消耗するのは勘弁したい。正直痛いのは嫌だ。


「葵……逃げろ……」


 真中葵がこの場にいれば脇役としてのこちらの話が切り出せない。

 だとすれば真中葵を先に行かせるしかない。三人組みは律儀に俺達のやりとりが終るまで待ってくれていた。


「アユトだけ置いて逃げるわけには行かない! 警察に電話を!」


 素晴らしい正義感だが真中葵がここにいる限り暴力は終らない。

 頼むからさっさと行ってくれ。すると暴力男が仲間に怒鳴った。


「お前らスマホを奪い取って壊せ!」


 乱暴に奪われた真中葵のスマホは地面と靴底に挟まれ画面が粉々に割れてしまった。口に手を当てる真中葵は命の危険を感じたように目を見開かせている。

 俺は再度真中葵にお願いする。


「俺は大丈夫だ。だから逃げろ」


「そんな友達を見捨てるなんて……」


「本当に何も心配ない。だから頼むから逃げて下さい」


「そんなの出来ない!」


 くそ。友達思いなのは高評価だがこの状況で頑固になられるのは面倒くさ過ぎる。何か遠ざける手段は無いかと思考をフル回転させた。


「じゃあ警察を呼んできてくれ。たぶんそこの道を曲がればすぐだったはずだ」


「分かったわ。すぐに呼んでくる!」


 妙案により真中葵はようやくこの場から離れてくれる。警察署の場所は嘘なのでたぶん真中葵は走り回ることになるだろうなと少しだけ罪悪感が芽生えた。

 とにかくやっとこちら側の話が出来る。真中葵の姿が見えなくなった途端に彼らは下品な雰囲気を締め出していた。


「すみませんアユトさん。大丈夫ですか?」


 俺を殴った彼は心配そうに優しく問いかけてきた。どうやら役柄とは違い優しい好青年のようだ。心配されたことにより怒りが霧散してランクAとして丁寧に接しようと俺は決めた。


「いえ大丈夫です。かなりの腕力ですね。久しぶりにいいのをもらいましたよ。もしかして格闘技されてます?」


「よく分かりましたね。ボクシングと柔道を習っています。でも本気で殴ったのにさすがはアユトさんですね。気を失うんじゃあないかと心配してしまいました。アユトさんの指示で思いきり殴れと聞いた時は本当に驚きましたよ」


 彼は俺に向けて微笑んだ。場の空気が和んだ所で俺は気になる質問をする。


「今、俺の指示と言いましたけど誰から聞きました?」


「もちろん街を管理する責任者にお聞きしました。本当は暴力なんて嫌なんですけど仕事だと言われると仕方がない。結局は誰かがこういう悪い役柄を演じないと駄目ですからね」


 どうやら予想通り街の責任者であるおっさんの仕業らしい。

 俺はもちろんこのような指示は出してはいない。今回のお決まりの展開はどこかでもっと上手に使おうかとは構想していた。

 だが不必要な場面でどうやら勝手に使われてしまったらしい。本当に勿体無い。


「そうですね。ではお疲れ様でした。俺はとりあえずヒロインを追いますんで」


「頑張ってください。お疲れ様でした!」


 律儀に頭を下げる三人を置き去りに俺は歩き出した。真中葵はスマホを持ち合わせていない。俺からは連絡を取れない状況だ。

 歩きながら街の責任者であるおっさんに文句の電話をしなければならないなと考えていた。普段はあまり怒らない俺でもさすがに腹が立つ。

 勝手な行動は本当に止めてほしいものだ。これは立派な命令違反となるだろう。

 真中葵の居場所を探る為に街の管理者へ電話する。文句を言うついででもある。

 電話が繋がるとまず俺は真中葵の居場所を尋ねた。すぐに検索され商店街を走り回っていると報告を受けた。俺の電話に対して始めから面倒くさそうな声色は苛立ちを覚える。

 俺は今日の出来事を指示したのはあなたですかと聞くと覚えはないと返ってきた。

 どうやらこれ以上詮索しても時間の無駄と判断した俺は「次はないですよ」と言い放ち一方的に電話を切った。

 結局、時間をかけて疲れきった真中葵と会えたが相談をゆっくりと聞く雰囲気ではなくなったので解散となった。

 真中葵は本人に直接聞くからもういいと俺に告げて去っていった。

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