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脇役の苦悩を主人公は知らない!?  作者: 竜宮


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第22話 不意打ち過ぎて心臓が飛び出る

 連絡先の番号を交換すると女の子のお母さんを探す為に二手に分かれて探し始めた。

 俺と女の子はは北側方面。佐伯裕樹と出雲かなでは南側方面へと歩き出す。

 そして俺は女の子と二人きりになると街の管理人であるおっさんに連絡を入れた。女の子の母親の所在の確認と主人公達に対する指示の為だ。


「すみませんアユトです。作戦通りに遂行していますので事前の指示通りお願いします。それと先に母親の所在だけ教えといてくれませんか? 今から向いますので」


「母親の所在なんてその女の子に聞いたら早いだろう。面倒くさいからいちいちこっちに連絡してくるな」


 電話の向こうでため息を吐かれる。

 面倒くさいだと。俺は連絡の義務を果たしているだけだろうが。


「……分かりました。では主人公の方は頼みます。住民の演者に指示をきっちりとお願いしますね」


「はいはい。分かってるよ」


 すると電話はぶちっと一方的に切られてしまった。俺の額の血管もぶちっと切れそうだったが何とか堪えた。本当にあのおっさんは失礼な奴だ。任せて大丈夫だろうか。

 俺が内心で心配していると女の子が話しかけてきた。


「初めましてアユトさん。私はランクCのルウと申します。早速ですが私の演技はいかがでしたか?」


「……あぁよろしく。君はランクCだったんだね。演技は素晴らしかったよ。その歳であの演技力はすごいと思う」


 大人のような話し方に一瞬だけ動揺してしまった。

 ショートカットの幼い女の子は満足気に微笑んだ。子供らしくない笑い方だなと見た目とのギャップに少しだけ驚いた。


「私の演技力にかかれば当然です。あの……よろしければ私の才能をアユトさんの権限で協会に報告してはいただけませんか?」


「別にいいけど……まさか自分から評価をくれと言うのは大胆だね」


「私は最年少ランクAを目指しております。マユミとか言うクソビッチに負けるわけにはいかないので」


 クソビッチ。俺の聞き間違いだろうか。いやさすがに聞き間違いだろう。

 こんな小さくて可愛い女の子が汚い言葉遣いなんて使う訳がない。そうか。俺は疲れているらしい。最近夜更かしが続いているからな。

 これが幻聴というやつだろう。一度ゆっくり休んだ方がいいかも知れない。


「そういえばアユトさんはクソビッチの幼馴染ですよね? じゃあクソビッチに一言伝えて置いてください。くたばれ、と……」


 くたばれと吐き捨てるルウは瞳を最大に広げている。

 どうやら幻聴なんてなかったらしい。ここには憎しみしかない。


「あの……ルウちゃん。何があったのか知らないけどあまり汚い言葉は下品だと思うけど……」


「ちゃん付けは止めてください。同じ脇役で働く者同士、ランクAだとしても馴れ馴れしいのは嫌いです。権限の範囲内でちゃん付けするのならば何も反論致しませんがアユトさんは私が子供だからと言う理由ですよね? 不快です。見下されていると感じます。不快です。殺意すら感じます。セクハラで訴えますよ?」


 何この子。怖いんですけど。どういう家庭環境ならこうなるの。それとも悪い友達に影響されているの。分からないけど凄いトゲトゲしいのは止めて欲しいのだけれど。


「申し訳ない。じゃあルウさんと呼ぶよ」


「分かって頂けたのなら嬉しい限りです。とりあえずこれからどうしましょう? アユトさんの案ですと私達は時間が余ってしまいますが?」


 ルウはポケットから高そうな腕時計を握り締めて時間を確認する。もしかしてお金持ちの女の子なのだろうか。


「そうだな。じゃ近くの公園で待機ってのはどうかな?」


「アユトさんの提案もよろしいですけど私の個人的な意見ですと喫茶店でよろしいかと。今日は蒸し暑いですしちょうど喉が渇いているので」


「そうだね……」


「最終的な判断はランクAであるアユトさんに任せますが?」


「……じゃあ喫茶店にしよう」


 半強制的に喫茶店になってしまった。

 でもたしかにこれから数時間は待ち時間となるのだから丁度いいのかもしれないと俺は自分に言い聞かせて二人で喫茶店に入った。

 俺は甘いミルクティーを注文したのだがルウはブラックコーヒーを注文していた。小学生らしくはない。

 そして俺との会話を拒むかのようにルウは文庫本に視線を落としていた。

 無言のまま気まずい雰囲気で過ごしていると佐伯裕樹から着信があった。


「アユト。今どこにいる? 助けてくれないか!?」


「どうした。何かあったのか?」


「警察官に追われているんだ! なんでこうなったのか俺にも分からん。とにかく早く来てくれ!」


「分かった。じゃあ今から向うから場所を教えてくれ!」


 場所を聞いた俺は連絡が途絶えると余裕を持ってミルクティーに口をつけた。どうやら作戦通りどたばたしているらしい。

 誘拐犯と間違われて警察に追われているのだろう。二人には申し訳ないが物語の為には必要な事だから許して欲しい。困難を二人で乗り越える。素晴らしい事ではないか。

 慌てていた佐伯裕樹とは違い俺はゆっくりとルウに質問する。


「そういえばルウさんの母親役の女性はどこで待機しているんだい?」


「そこに居ます」


 ルウは視線だけを俺の背後へと向ける。振り返るとたしかに赤い服の女性が一人座っていた。小さく会釈する女性に釣られて俺も会釈を返した。どうやら待機場所はこの喫茶店だったようだ。

 それならそうと早く言ってほしいものだ。

 その後、俺は黙って待機していると文庫本を急に閉じたルウがおもむろに俺に話しかけてきた。


「一つ質問をよろしいでしょうか?」


 二杯目のミルクティーを飲み終えた俺は急な質問にびくっと身体を揺らしてしまった。


「……どうぞ」


「ランクAにはどうやってなるのでしょうか?」


「うーん。実績を積み上げて経験を詰めれば慣れるんじゃないかな。演技力と個性、状況に応じた対応力が必要だと俺は思ってるよ」


「個性ですか」


「与えられた役をそのまま演じるのではなく役柄の範囲内で個性を出していく。まぁマユミは個性を出しすぎて役柄を変えてしまう奴だから参考にしないほうがいい」


「大丈夫です。あのクソビッチを参考にするなんてあり得ませんから。分かりました。私も個性と言う代物を考えてみます。質問に答えて頂きありがとうございます」


 ルウとマユミの間にいったい何があったのだろうか。興味はあるが恐くて聞けない。

 基本的にマユミは敵を作りやすい奴だった。本当は素直でいい奴なんだけどなと考えていると次は出雲かなでから連絡があった。


「アユトしゃんですか? あのっ! 佐伯君が大変な事になっています! はっ、早く来てもらえないですかっ!」


「分かった。すぐに行くから待っていて! 出雲さんは大丈夫?」


「私は大丈夫ですけど……あっ! 佐伯君。そっちは危ないです!」


 電話は途中で切れてしまった。

 どうやら相当に追い詰められているようだ。そろそろ向かった方がいいのかもしれない。

 母親役と打ち合わせして三人で喫茶店を出た。主人公の位置をまず街の管理人であるおっさんに問い合わせてからその場所へと向かう。

 向っている途中ではルウが個性とは何かとの質問攻めを受けた。さすがにしつこいので曖昧に答えていると佐伯裕樹達と合流する。

 路地裏の日陰で身を隠している。二人は疲弊した様子は表情に表れていた。


「大丈夫か二人とも! 何があったんだ?」


「やっと来たかアユト。大丈夫だが何がなにやら俺にも分からない。母親を探しているだけなのになんでこうなったのか……」


 するとタイミングよく警察官が俺達を見つけた。逃げようとする出雲かなでの腕を掴んで俺は首を横に振る。

 俺は警察官の元へゆっくりルウと二人で歩み寄る。すると警察官の傍には母親がいた。

 ルウは母親の元へ駆け寄り二人は抱きしめあった。ルウは「お母さん!」と叫びながら泣いている。感動的な場面なのかも知れないがルウの素性を知っているので複雑な場面だ。

 だが脇役としての演技を忘れるわけにはいかない。俺は柔らかい笑みを見せながら佐伯裕樹に「お疲れ様」と労いの言葉をかけた。

 警察官が勘違いだったと佐伯裕樹達に謝っているのを横目に俺はルウに目配せした。


「お兄ちゃん達ありがとう」


 歳相応の可愛らしい声だった。


「いやいやとにかく色々あったけど見つかってよかった。出雲さんも大丈夫だった?」


「はっ、はい。スリリングな一日になりましたっ。佐伯君がいなかったら私はどうなっていたか……」


 出雲かなでが胸を撫で下ろす。俺は二人に向けてもう一度「お疲れ様」と声をかける。母親からもお礼をもらうと出雲かなでは「こちらこそすみませんでした」となぜか同じくらいお辞儀をしていた。

 どうやら作戦は成功のようだ。二人の親密さが上がったのなら収穫だ。

 するとルウが警察官の方へ歩み寄る。


「お巡りさん。お母さんを見つけてくれてありがとう。あとね。そこのお兄さんなんだけど……」


 ルウが俺を指差した。警察官や母親、主人公達も一斉に俺を見る。


「私の身体にべたべた触ってきたからくすぐったかった。お母さんを見つけるんだから身体を触らしてもらうのが当たり前って言われたの。だからお巡りさんも私の身体を触っていいよ!」


 余りにも不意打ち過ぎて心臓が飛びだしそうになってしまった。

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