第21話 迷子の女の子
生徒会の仕事を終えた俺達はいつも通りに三人で帰路についていた。
俺の隣には佐伯裕樹と出雲かなでが肩を並べる。すでに三人で一緒に帰るのが当たり前になりつつあった。人間の習慣とは便利な代物だ。今となっては俺が誘わなくても佐伯裕樹が帰ろうと誘ってくれる。出雲かなでに至っては俺と佐伯裕樹を校門で待っている程だった。
「裕樹の家に行くのは久しぶりだ。楽しみだな」
「久しぶりなのはアユトのせいだろ? アユトが春休み忙しいからって全然来なかったじゃないか。何度も誘ったけど断ったのはアユトだ」
「悪かったよ。俺は俺で用事があったから仕方ない。根に持つ男は嫌われるぞ」
春休みは俺がこの物語世界に来た時期だ。
親友の二人は過去に遊ぶ機会がもちろん多かった。親友設定としては全く遊ばないというのもおかしな話だが俺は会議や物語の方針を決定する時間が必要だったのだ。
誘いに乗らなかった言い訳をいくつか考えていたが佐伯裕樹は何も追及はしなかった。
「今日の勉強会は出雲さんも来るよね。さっき電話していたけどご両親は大丈夫だった?」
「はっ、はい。許可を得たので大丈夫です。私なんかがお邪魔してよろしければお願いします! お掃除なら得意です!」
俺が問いかけると出雲かなでは慌てたように佐伯裕樹に頭を下げる。
入学して間もないが学校の行事として実力テストが控えている。その為に俺の提案で勉強会を開こうと提案していた。
そもそも実力テストの実施は急遽俺が決めた。言うなれば出雲かなでが佐伯裕樹と接近する為の口実でもある。親密な関係になってもらえればこちら側としてもやりやすい。
「一緒に頑張ろう出雲さん。何時くらいまで大丈夫なの?」
「ママ……はっ、母親には八時までには帰ってきなさいって言われました!」
すでに俺は出雲かなでの両親に連絡を入れているので勉強会を断られるはずはなかった。出雲かなでの両親も脇役の一員なのだ。
ちなみに出雲かなでが両親をママとパパと呼んでいるのも知っている。寝る前に牛乳を必ず飲んでいる事さえ知っている。
三人で肩を並べて歩いていると住宅街の電柱の下で小さな女の子がしゃがみ込んで泣いているのを見つけた。近くまで歩み寄ると佐伯裕樹はもちろん女の子に声をかけた。
なんの躊躇もない。さすが優しい主人公と言った所だ。
「どうしたんだい? 何かあったの?」
「お母さんとはぐれちゃった……どこにもいないの……」
女の子の悲しみを含んだ声は聞き手の心に響く。なんて素晴らしい演技だと俺は自分の演技を忘れて脇役として称賛してしまいそうになった。
「そうか……じゃあお兄さんが一緒に探してあげるよ。アユト。出雲さん。悪いが先に俺の家に行って待っていてくれ」
申し訳なさそうに俺と出雲かなでに両手を合わせる佐伯裕樹。
あぁ。なんていい奴なんだろうと考えてしまう。俺達を巻き込まずに自分一人で解決しようとする姿勢は本当にいい奴の所作だ。この物語上ではなく本当の友達になりたい。
主人公の誠意や優しさは必ず出雲かなでに届くと確信してしまった。
「非力ながら私も手伝わせて頂きます」
「俺も手伝うよ。人数が多いほうが探すのが楽だろう。裕樹の家の前で待っているのは暇になる」
協力することになり演技力が凄まじい女の子に母親の特徴などを聞き出す。
この展開は全て俺の指示だった。迷子を助ける主人公を見て出雲かなでに好感を持ってもらう為だ。
単純だが単純ゆえに効果は絶大だろう。主人公の最大の魅力は分け隔てなく振りまく優しさだ。ちなみに女の子の母親は待機してもらっているので簡単には現れない。すぐに見つかってしまえば面白くない。
そして探す出す前に俺は先手をうつ。
「赤い服を着たお母さんを一緒に探すのは効率が悪いから二手に分かれよう。俺とこの女の子。裕樹は出雲さんと頼む。あっそうだ。連絡先も交換して置こう。見つかった時にすぐに連絡入れやすいからな」
「そうだな。出雲さんの番号は俺も知らないから交換して置いた方がいい」
「よし決まりだ。出雲さんもそれでいいかな?」
俺はすでに出雲かなでの番号を知っていたが佐伯裕樹は知らないままだった。自然な流れでお互いの連絡先を交換させる必要があった。
「わっ、わたしのでよければお願いします!」
なんて謙虚な言い方だ。俺はなぜか慌てた様子に内心で微笑んでしまった。
出雲かなでのスマホには家族と引っ越してくる前の友達数人の登録しかないのは知っている。よほど嬉しいのか出雲かなでは自分のスマホを佐伯裕樹にかざした。




