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脇役の苦悩を主人公は知らない!?  作者: 竜宮


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第18話 こいつ本当に大丈夫なのだろうか

 佐伯裕樹は俺へと疑問を投げかけた。当然と言えば当然ではある。マユミの命令に処理が追い付いていないのだろう。

 ちなみに俺も同感である。


「アユトは何か聞いていたのか?」


「何も知らされていない。正直驚いている所だ」


 この作戦の原案者である俺は他人の机に体重を預けながら平気で知らぬ顔をする。

 昼休みになると佐伯裕樹が生徒会の事について話をしようと生徒会役員に任命された俺、真中葵、出雲かなでのメンバーを誘っていた。昼食はすでに終えている。


「あの生徒会長ってなんで私たちを選んだのかしら。私は話したこともないしそもそもあの人に会ったこともないわよ」


 真中葵が天井を見上げながら首を傾げる。マユミの説明不足すぎる演説なら怪しまれても仕方がない。一般的な人間なら疑問に感じるはずだ。


「とにかく。俺はサッカー部に入る予定だから生徒会には入らない」


 佐伯裕樹がサッカー部に入りたがっているのは想定済みだった。小学校から続けているサッカー少年ならサッカー部以外は選択肢にないだろう。中学でも厳しい練習も休まずに出ていたらしくサッカーを愛している。

 主人公の親友である俺は簡単な説得を試みる。期待はあまりしていない。説得して納得するぐらいならサッカーなど辞めてしまえと思う。


「俺はサッカー部より生徒会の方がいいと思うぞ。裕樹は進学希望だったよな? なら、進学の為にも生徒会の方が何かと有利になると思うんだが? 生徒会に入った生徒は特別な推薦を貰えると聞いたけど」


「推薦は受けたい所だけど……アユトの意見は一理あるがやっぱり俺はサッカー部に入ろうと思う。これを見てくれ」


 鞄の中をいきなりあさり出した佐伯裕樹の手には一枚の紙が現れた。


「にゅ、入部希望用紙ですね」


 話しかけるタイミングをずっと窺っていた出雲かなでが始めて会話に参加する。

 入学式の日から下校を共にするようになったので俺と佐伯裕樹に緊張したままだが少しずつ話しかけてくれるようにはなっていた。


「今からこれをサッカー部の顧問に届ける。だから俺は生徒会には入ることは出来ない」


 佐伯裕樹は説得の余地なしだ。まぁ分かっていたので落胆はない。俺は話の腰を折るのもいとわずに「トイレに行って来る」と教室を出た。

 主人公達の輪から離れると教室から十分に距離を取る。そして自分のポケットから携帯電話を取り出した。


「お疲れ様です。すみませんが仕事を一つ頼みます。サッカー部を今すぐ廃部にして下さい。理由はサッカー部の問題行動でお願いします」


 電話の相手は学校の管理を任せているフウキさんだった。

 電話での依頼を受けたフウキさんは電話の向こうで滑舌よく「分かりました」と即答してくれた。

「頼みました」と声をかけると電話を切り一仕事終えて教室に戻る。

 すると教室に主人公の姿はなかった。真中葵に主人公の所在を確認してみると、部活の入部届けを持って職員室に向かったと教えてもらった。

 無駄足になるだろうなと俺は少しだけ佐伯裕樹に同情した。

 しばらくすると肩を落とした佐伯裕樹が帰ってくる。「どうしたんだ?」とその落胆の意味を知っている俺は親友として心配そうにそう尋ねた。


「聞いてくれよ。この学校のサッカー部が急に廃部になったらしい……しかも廃部の理由も教えてくれない。本当に訳が分からない」


「たしか一個上の先輩が何か問題を起こしたらしいけど……詳しい事は知らないけど」


「そうなのか……残念だ」


 混乱している佐伯裕樹は悔しがっているようだった。

 悪いけど諦めてくれ。お前の気持ちは分かるが生徒会に入ってもらわないと脇役の俺たちが困るんだ。


「とりあえず、生徒会長が言ったように一度放課後に生徒会室に行ってみないか? 話だけでも聞いてみよう」


 俺は実のある話が続かない中で生徒会に加入させるメンバーに向かって提案を出した。

 放課後になると俺は一足先に生徒会室に足を踏み入れる。

 部屋の中央には長机が置かれており座席数は五つある。とにかく簡単な作りの生徒会室に入室した時の第一印象だった。生徒会室の用意はマユミに任せていたのでマユミは必要以上に部屋や様式に拘らないようだ。


「あら。アユトだけ来られても仕方ないのだけれど?」


 部屋の扉から一番奥の上座に腰を下ろしていたマユミはこちらを一瞥すると不満を吐き捨てた。むっとした表情もどこか気品がある。


「お前に話があったからだ。他のメンバーは後で来る」


「あらそう。アユトの話というのは部屋に隠されていた本の話かしら。それはもう解決済みの話でしょ。あなたが目頭を熱くさせながら観賞して、ある行為をしているということが真実であり紛れもない事実。だから私はアユトを犯罪者予備軍に認定してあげるわ」


「だからあれは俺が買ったものじゃないって言っているだろうが……」


 さらに呆れた表情を覗かせたマユミに俺は断固として本当の真実を述べた。

 例の本は男子学生の役割を担う俺の部屋に勝手に用意されていたものだった。俺は見たこともないし触ったこともない。

 いやいやそれより、ある行為って何だよ。変な想像を働かせるな思春期女子。

 あの事件の後、仕事の話をしようとマユミに連絡を入れる度にその話題となる。あれはあなたの購入した物だと勝手に決め付けられて聞く耳を持ってくれない。

 否定し続けているのだが信用はゼロのようだった。マユミは自分の意見を曲げる人物ではない。正しくなくともだ。頑固者なのは昔から変わらない。

 本当に正義って何だろう。

 いや待て、今はそんなどうでもいい事を考えている場合ではない。


「その話はとりあえずもういい。話があると言ったのはお前の配役に関することだ」


「配役?」


 強気な態度を装ってマユミを攻め立てた。仕事の話は真面目にしなければならない。俺達は脇役のプロ、さらには権限を持ち合わせているのだ。


「なぜ俺が送った資料通りの生徒会長を演じないんだ。何か不満でもあったのか?」


「別に構わないでしょう。私は私なのだから……ちなみに私に対して挑発的な態度を取っているようだけれども、ランクAの私は独自に決定権を持っているのを忘れたのかしら?」


 自分の豊かな胸に手を置きマユミは権利を主張する。正論なので文句を言い出せなくなる俺は口を閉ざしてしまう。

 私は私なのだからという言葉は実にマユミらしい切り返しだった。

 結果的に短くない時間をかけて考えた生徒会長の設定は消え去ってしまう。清楚な生徒会長の設定は心残りではあるが諦めるしかない。

 これ以上にマユミと揉めている時間は勿体ない。状況が変われば俺自身の考えや行動も変化する必要がある。


「でもさ。主人公とヒロインをどう説得するんだよ? 集会であんな命令口調で言うからお前の印象はすでに悪い。主人公達に不信感を与えても得はないと思うけど……」


 俺の予定では集会で生徒会長のマユミが主人公達に任命の理由を述べるのが理想だった。

 生徒会任命の理由とは、成績があまり芳しくない生徒を強制的に加入させる制度を作りあげ、その不名誉な生徒を中学時代の成績が中の下クラスの佐伯裕樹に抜擢する。

 逆に成績が優秀な生徒は生徒会へ加入するのが風習としてその生徒は入試試験トップの成績だった真中葵とする。

 最後の一人、出雲かなでは強制参加させる。

 出雲かなでに至ってはうまく理由付けが思いつかなかったので実力行使だ。出雲かなでの性格なら頼み込めば勧誘できると俺は判断していた。


「アユトの指示は回りくどい。あなたの行動原理そのものだと言っても過言ではない。浅はかなりと苦言を呈して差し上げる。良かったわね」


 考え抜いた案を回りくどいよばわりをしたマユミを睨んだ。

 どうやら俺の案よりいい案があるような雰囲気を出している。


「じゃあお前の案を出してみろよ」


 思い通り動いてくれないばかりか俺を小馬鹿にする旧友に挑戦を申し込む。

 少し苛立ちを込めた挑発を聞き入れたマユミは不敵な笑みを浮かべた。

 すると生徒会室の扉がノックされる。おそらく主人公達が到着したのだろう。


「来たようね。アユトはそこで指をくわえて見ていなさい。あっ、そう言えばあなたはあれをしゃぶる方が好みだったわね」


 威勢よく腰を上げたマユミは思い出したかのように下ネタのような言葉を付け加えた。わざわざそんな事を口に出すな。ほんとになんでこんなむっつり女が高嶺の花なんだろうか。顔は美人なのは認めるのだが性格が歪んでいる。


「失礼します」


 俺がマユミの横顔を観察している間に、主人公達が生徒会室に入ってきた。

 三人はそれぞれ違った表情を作っていた。佐伯裕樹は普段通り。真中葵はめんどくさそうだ。出雲かなでの顔には不安が貼りついている。


「ようこそ生徒会へ。あなたたちを歓迎するわ」


 両手を広げて笑顔で生徒会への歓迎を表すこともせず、明るい声を発することもせず、マユミはいつも通り観察するような目で主人公達をさっと見渡してから企みを込めた笑みで主人公達を迎える。

 俺は瞬時に思う。

 こいつ、本当に大丈夫なのだろうかと。

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