第17話 生徒会長
「今日の生徒集会は何のために開かれるのかアユトは知っているか?」
隣で体育館へ向かう佐伯裕樹が首を傾げた。脇役に徹している俺は平気で嘘をつく。
「俺に聞かれても分からん。何か連絡事項でもあるとかじゃないか?」
入学式から数日が経っていた。
今回の集会は新入生だけが集められており現場監督の俺が出した案を決行するために開かれる予定だ。俺が出した案とは主要な人物を生徒会に加入させるという事だ。生徒会の構成は主人公、ヒロイン二人、俺、マユミの計五名。
生徒会に集める目的はヒロイン達と主人公の共有する時間の拡大と、この物語の主人公達と作戦指揮を担う俺とマユミとの接点を作る為だ。そして主人公とヒロインが他の部活に入ってしまうと違った人物に好意を持ってしまう危険性を防止する目的も含まれている。
ヒロインの一人である真中葵は昔から主人公に恋心をよせているので問題ないが、出雲かなでに他の人を好きになられては困る。非常に困るのだ。
男子学生の演者達に必要以上にヒロインの二人に優しくしてはならないという指示を出しているが、恋の炎はいつ燃え出すかわからない。
思春期の恋心を考えると監視下に置きやすい同じ生徒会に主人公とヒロインを所属させるのが良い。俺はラブコメとはハーレム要素が欠かせないと考えていた。
マユミには浅はかで気持ちが悪いと馬鹿にされたが気にしない。俺は俺が求めていた物語を遂行させたい。
「裕樹はいつも朝の集会で寝てばかりいるんだから気をつけなさいよ」
真中葵は佐伯裕樹の隣で赤みを帯びた茶髪のポニーテールを揺らしながら歩いていた。湿ったような瞳を佐伯裕樹の横顔へ向けている。
いつも通り真中葵のポケットからは小動物のぬいぐるみが顔を出していた。ぬいぐるみの表情はどことなく出雲かなでっぽさがある。真中葵はぬいぐるみ作りが趣味なので自分で作ったのだろう。出雲かなでをモデルにした人形は可愛らしかった。
「そんなことはないさ。俺は真面目に聞いている。うとうとしてしまう時もあるけど寝てはいない自信はある」
真中葵はよく主人公を観察しているんだなと感心してしまった。
好意的な人間に意識を常に向けているのだろう。主人公を好きなのを知っている立場からすると真中葵を何だか愛らしく映ってしまう。健気だなと純粋に感じてしまった。
脇役の仕事でなければ応援したいぐらいだ。
そして雑談を交わしながら俺達は体育館に足を踏み入れる。体育館の中は雑談の嵐で騒がしかった。人が多いので熱気すら感じられる。
中の様子を見渡すとすでに席は半分ほど埋まっているようだった。
「席はほとんどが埋まっているようだ。どこに座ろうか?」
座席はクラスに関係なく自由に座ってよいと教師から指示が出ていた。俺としてはここでの席はどこでもいいと考えていた。どこに座っても問題はない。
「あそこにしよう」
席を探していた佐伯裕樹は足早に歩き出す。遅れをとった俺と真中葵はすぐに背中を追いかけた。
「早く来いよ。アユトはその席な」
三人横並びの席を確保した佐伯裕樹は俺の席だけ指定してきた。座席を指定された俺は何を考えているんだと疑いを込めた視線を佐伯裕樹に向ける。
すると佐伯裕樹は爽やかな笑みで小さく顎を引いた。何か意図があるのだろうかと勘繰る俺は席にちょこんと座る出雲かなでに遠慮がちに声を掛けた。
「隣に座ってもいいかな?」
礼儀として尋ねると突然に話し掛けられた出雲かなでは電流が走りぬけるように身体を震わせた。そんなに驚かなくてもいいのにと俺は内心で思う。
「はっ、はい!」
制服のスカートをぎゅっと握りながら出雲かなでは地面に視線を落とす。どうやらまだ親密度が足りていないのか緊張感を漂わせていた。彼女が人見知りなのは知っている。
これは仲良くなるまで時間が掛かりそうだ。
「出雲さん先に来ていたんだ。そっか。一緒に行こうって言えばよかったかな」
「いえいえ、お、お気遣いなくです……」
真中葵の気遣いに対して出雲かなでは嬉しそうにお礼を述べる。
予期せぬ形で隣人となった出雲かなでの周りをさっと見渡した。上下左右にはクラスメイトの姿はなく出雲かなでは一人で寂しく席に腰を下ろしている。
一人で席に座っているという事実は真中葵以外に同性の友達が出来ていないのだろう。
女子生徒全員にヒロインとは普通の女子高校生として接してあげてくれと指示を出している。どうやら出雲かなでの激しい人見知りが影響して友達をすぐに作るのは無理があるようだ。
脇役の女子生徒が無理に仲良くしようとするのも不自然だ。ヒロインに何か勘繰られてしまえば脇役として問題ではある。
「お静かに。ではそろそろ集会を始めたいと思います」
教師役の男性の太い声がスピーカーによって体育館に響き渡った。
出雲かなでの件は時間が解決してくれるだろうと考えを整理して壇上に意識を向ける。
この集会でマユミが登場する予定だ。マユミには特別な役割を与えている。
「では生徒会長のマユミさん。お願いいたします」
教師に促され壇上へと歩み寄るマユミは凛々しく座席から立ち上がった。
マユミには生徒会長の役割を頼んでいる。優美な雰囲気、知的な言葉使い、おしとやかな少女の設定で資料を送付していた。
マユミの実力からいえば才色兼備な女子生徒など余裕で演じてくれるだろう。
「やべーよ。マユミさん初めて見たよ。すげー美人」
周りの男子学生役の生徒達が騒ぎ始めた。綺麗な女の子に興奮するというよりマユミだからこそ興奮しているように映った。
おいおい。こいつら仕事を放棄してやがる。たしかに役を忘れるほどの魅力はあるのは認めるがお前らは脇役のプロなんだからしっかりしてくれ。
告白してみようかなとつぶやく男子学生に、あの人はお前なんか相手にするかよと苦笑する男子学生。好奇な視線や憧れの視線で見つめる男子学生とは反面、女子学生役の少女たちは嫉妬をマユミに向けていた。
「初めまして。私が生徒会長のマユミです。生徒会長なのに私が同じ新入生ではないかと驚かれたかもしれません。ですが、私が生徒会長に就任しました。不満があるのなら先生方にご連絡下さい」
沈黙を守っている新入生をマユミはいつも通り観察するような目線で見渡している。
一度だけ短い間を置いてマユミは続ける。
「報告があります。佐伯裕樹、出雲かなで、真中葵、アユト、以上四名を生徒会役員に任命します」
おしとやかとはかけ離れた相手を突き放すような口調だった。
主人公達を盗み見るといきなりの役員の抜擢で三人は驚きを隠せず、口をだらしなく開けたまま固まっていた。
「今日の放課後、その四名は生徒会室に来なさい、以上」
主人公達にお願いではなく命令をしたマユミは一礼もせずに堂々と壇上を後にした。簡潔に伝えるべき事を言い切った彼女は役を演じる脇役ではなく俺が昔から知るマユミそのものだった。




