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脇役の苦悩を主人公は知らない!?  作者: 竜宮


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第16話 なんの宣言?

 自宅に戻ると報告書を送付するためにノートパソコンを開いた。

 物語が開始されると毎日の活動記録、つまり業務内容を脇役協会へ報告をしなければならない。

 どういうラブコメにするかは協会にすでに提出している。

 物語は最初から方向性が決まっているのだ。その方向性に従って物語を進めなければならない。途中で変更するのも許可が必要だった。

 報告書を作成するのは慣れているが文字を打ち込もうとすると何も書けない。つまり全く気が進まなかった。初日から作戦がすでに失敗に終わっているからだ。

 失敗の報告をしなければならないと考えるとキーボードに置かれた指先も固まる。正直に言えば自分の失態を報告はしたくない。無責任だとは分かっている。

 協会からの評価が下がるのが恐い。俺は臆病風に吹かれ過ぎて弱音が心から漏れ出ていた。情けないのは分かっている。だが、恐れを抱くのが人間の本質なのだ。


「早く打ち込みなさいよ。パソコンのキーボードに手を当てているだけじゃ何も始まらないわよ?」


 頭を悩ませている俺に対して催促が容赦なく背中に刺さる。

 俺と同じランクAの人間のくせに仕事を押し付けている人間に急かされたくはない。そもそも報告書を書く役割を勝手に押し付けてきたのはお前だろう。

 俺は振り返ることもせずに自分に刺さった言葉の棘を投げ返した。


「じゃあお前が報告書を書け。報告書の提出はお前の仕事でもある」


 会議に参加もせずに物語の企画書も提出しないランクAなんて他にはいない。

 ランクAの権限を有しているので同じ立場の俺でも命令権がなく強制的に仕事をさせるわけにはいかないのが決まりなのは熟知している。山ほどの文句をぶつけたい所だが規則に従うしかない。マユミを放置している俺としては無駄にストレスが高まっていた。

 会議の議事録や俺が考えた物語の構成はマユミに送っている。しかし確認しているかどうかは不明だ。マユミ自身やる気が無いわけじゃないだろうから脇役の仕事はしっかりとやってくれるだろう。たぶん。少し不安だが大丈夫だと思う。


「これだからアユトは……甘えないでマザコン」


「ちょっと待て! 俺は決して甘えている訳ではない。仕事に誠実に取り組んでいるだけだろうが! そして俺はマザコンじゃない!」


「じゃあ何コンなのかしら?」


「え、は? えっと……パソコン?」


「吐きそうなぐらい下らない答えね」


「いやいやいやいや! 今はそういう話をしているのではない! そもそも甘える甘えない以前に仕事をサボっているお前に言われたくはない」


「心外ね。私は私なりに誠実に職務を遂行しているのだけれど?」


「嘘を付くな」


「嘘は嫌いよ?」


 俺が自宅に帰り部屋の扉を開けるとマユミがいた。連絡はない。

 なぜここにいるのかと尋ねると物語の相談をする為に俺の部屋まで来たと返されていた。

 構成に関わる重要な話をするのは構わないが会いに来るなら先に連絡を入れろ。こちらにも都合がある。メールでも電話でも色々手段がある。


「何で自信満々なんだよ……とりあえずもう一回言っておくけど今度からは勝手に部屋に入るなよ。子供の頃なら気にならなかったけど俺達はもう子供じゃない」


 俺の脳内会議でマザコン疑惑については無視しようと決定された。

 いちいち反応していたら話が進まないし俺が疲れるのだ。


「ふー。仕方ないわね。今回だけよ。全く。これだから最近の子供は我慢が足りない」


「だから子供じゃないって話をしているのですが? 聞いてます?」


 おもちゃ屋さんで子供におねだりされて、とうとうおもちゃを買ってあげることとなったお母さんの様に呆れた声を出すマユミ。

 なんで俺がお前の息子みたいになってんだよ。しかも勝手に不法侵入する人間に呆れているのは俺の方だ。本当に反省しろ。いや少しでもいい反省して下さいお願いします。

 変なスイッチが入ったマユミの話が続く中で俺は吐息をつく。マユミと話していたら報告書が掛けない。


「もう分かった。とりあえず報告書に集中したいから大人しくしていろ。仕事の話は終わってからだ。悪いけれど少し待っていてくれ」


 憂鬱な報告書が完成するまで他の物事をすべて無視すると決めた。だらだらと仕事を進める気はない。気合いを入れてパソコンと向かい合う俺は思考を全力で回転させる。


「母乳は寝て待てと言うことかしら?」


 何で果報は寝て待てをマザコン風にアレンジしてんだよ。

 邪魔なマユミに対して俺は危うく振り向いてツッコミを入れそうになるが何とか堪えた。危なかった。とにかく早く終わらせる為にも集中しなければ。

 俺はマユミに背中を向けてパソコンと向き合う。


「反応が無いのも面白くないのだけれど……じゃあ終わるまで何かをして暇でも潰しておこうかしら」


 とりあえず今日の出来事からまとめる必要がある。

 報告書を作成するのは初めてではない。同じように他者が理解しやすい報告書にすればいい。


「あらっ。こんな所に雑誌があるじゃない。本棚ではなくなぜこんなベッドに隠すように置かれているのかしら?」


 まずは主人公とヒロインの出会い、入学式、下校と順番に報告するべきか。


「アユト……あなたのマザコン疑惑を撤回せざる終えない事実が発覚したわ。あのアユトがこんな代物を隠していたなんて……」


 よし。まずは出会いだ。予定と違ったけれども失敗をそのまま報告はしない。次に繋げる意思を含ませれば問題はないだろう。

 打ち込みながら俺は前向きな意見を主張するように心がけた。


「アユトさーん。陣中見舞いに来ましたー。ってえー、なんでまたむっつり嘘つき師匠がいるんですかー!? これはどういう関係なのですか!?」


 元気の良いアイに意識を戻されてしまう。どうやら余計な奴が一人増えたようだ。

 俺はパソコンに指と視線を残したまま「すまない。先に報告書を書かせてくれ」と片手を挙げた。アイが気を使ってなのか小さく返事すると俺はすぐに仕事に戻った。


「ツインテール。とにかくこれを見なさい」


「なんでそんなに真剣な顔つきなのですか……もしや、また私を騙そうとしてるんじゃないですか……ぐぬぬ。信用しませんよ。私は警戒心強い系女子になるって心に決めたのですよ」


「無理ね」


 出会いに関しましての反省点は私のシミュレーションの甘さがもっとも大きな要因です。責任は全て私にあります。

 うーん。端的に主張するだけじゃ物足りないかな。よし。今後の事も書いておくか。


「ほぇ。なんなのですかこれはっ!?」


「これがアユトの嗜好よ。あとうるさいから少し声を落としてくれないかしら」


 今後の予定されている段取りも予期せぬ事が起こる可能性は十分にあります。同じ過ちを繰り返さないように精進したいと考えております。

 失敗を次に活かしますと前向きな意見を書き込む。こんなもんでいいかな。ちょっと堅いような気もするが大丈夫だろう。もし指摘があれば協会から連絡が入る。


「そっ、そんな所まで……嘘でしょ……はぅぁ……そんな格好でっ……」


「なんであなたが興奮しているのかしら? 顔が真っ赤よ。あら耳まで真っ赤」


「せっ、先輩は恥ずかしくないのですかっ。こっ、こんな凄いもの見てっ! みだらですよ!」


「あなたに先輩と言われたのは久しぶりね。私は……平気よ。慣れているから」


「慣れている、ですと!?」


 主人公とヒロイン二人とはすでに接触しております。お送りした資料通り出雲かなでと主人公の共有する時間を出来る限り作ってゆきたいと考えております。

 もう一人のヒロインである真中葵の事も書いておくか。


「幼女のあなたには少し刺激が強すぎたかしら……」


「そっ、そんなことないですー! このぐらいの刺激じゃ物足りないですねー!?」


「じゃあ例えばこのページの格好でこのような行為がこの場で出来るかしら」


「ほぇ……」


 もう一人の主人公の真中葵に関しては、すでに主人公に好意をよせているのでしばらくの間は放っておく方針で考えております。

 こんなもんでいいだろう。少し具体性にかける表現が多い気もするがこれはこれでよしとした。

 俺は確認の為に一度さっと文章を読み直すと送信ボタンをクリックする。


「とりあえず報告書を送信は完了だ。そういえば二人でずっと騒いでいたけど何の話をしていたんだ? 楽しそうだったけど?」


 問いかけながらゆっくり振り返ると頬を赤く染めているアイと視線が重なった。

 全力で目が泳いでいるアイは珍しく何も反応しない。アイの隣に寄り添うマユミを見るとじーっと俺の姿を見ていた。なぜ二人が俺に熱い視線を向けているのかは分からない。

 沈黙が部屋を支配する。

 何だろう。自分の部屋なのに居心地の悪さが増していく。戸惑う俺に対してアイの大きな瞳は俺の顔から上半身、そして下半身へとゆっくり下りてゆくようだった。


「なんで二人とも黙っているんだ? どうした? 何かあったのか?」


「アユトさん……きょ、今日は出直しますっ!」


 アイは飛ぶように部屋を出ていった。ずいぶん慌てていたけども急用でも入ったのだろうか。そもそもあいつは何の用でこの部屋に来たんだろうか。


「私も今日は出直すわ」


 首をかしげているとマユミもアイと同じ内容を告げた。これは気のせいだと信じたいがずっとマユミは俺の下半身を見ているような気がする。

 ベッドから腰を上げて歩き出した背中に「仕事の相談はもういいのか?」と聞いてみると「また電話する」と答えが返ってきた。

 訳が分からん。侵入してまでこの部屋に来た用事はもういいのかよ。マユミの行動は本当に理解できない。何だろう。自分勝手な猫を飼っている気分だ。


「アユトにこれだけは言っておくわ。私の身体だってあの子たちには負けていないはずよ。むしろ勝っていると宣言するわ」


「なんの宣言? それに何で少し顔が赤いの?」


 悪びれもなく俺の下半身に視線を固定しているマユミは頬を少し朱色に染めながら去っていった。

 もしかして体調が優れないのだろうか。風邪なら薬を届けてやるべきなのだろうか。少しだけ心配したがマユミにも家族役の大人がいるから大丈夫だろうと判断した。

 そして来客が全員いなくなり、静けさを取り戻した一室で俺は身体を伸ばす。

 今日は何の事だか訳が分からない発言が多いな。俺は佐伯裕樹の言動とマユミの言動を重ねながら何気なく視線をベッドに向けた。

 するとシーツの上には見覚えのない雑誌が寂しげに置かれているのに気が付いた。

 誰かの忘れ物だろうかと何気なく手に取る。適当にページを開いて中身に目の焦点を合わせてみると、雑誌の中には数多くの過激的かつ魅惑的な女性が裸で映しだされていた。

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