表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脇役の苦悩を主人公は知らない!?  作者: 竜宮


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/51

第11話 物語のはじまり

  人通りが少ない住宅街も朝になると様子は違っている。

 スーツ姿で足早に歩く会社員やランドセルを背負った小さな子供を引き連れた母親、登校する学生服の姿が多い。

 早朝なので眠たそうな顔をしている者も多いような気がした。


「ついに始まりますねアユトさん! 始まっちゃいましたねアユトさん! 始まりの始まりですよアユトさん!」


「あまり騒ぐな」


 会社や学校に向かう人達とは違い俺とアイは電柱の影に一緒に隠れている。中学生の制服を着たアイは興奮しているのか声が大きい。正直に言えば邪魔だ。本当に何でこいつはいつもひょっこりと現れるんだろうか。

 高校の制服を着た俺と電柱の間に挟まれたちびっ子ツインテールは密着している。隠れているので今の状況は仕方がない。

 本日は入学式。つまり物語が開始される記念すべき日だ。俺がランクAとしての最初の仕事が始まる。アイとは違い冷静さを保っているが実は緊張している。決して顔には出さないが必要以上に緊張している。

 これから三ヶ月間の物語が始まるのだ。俺の今後が決まる仕事になるのは間違いない。

 この日まで幾度となく会議を開き、幾度となく街の責任者であるおっさんに罵倒を浴びせられた。

 会議ではおっさんが協力的ではないのが原因で議論が止まり、ランクBのおっさんとアイが衝突するという無駄な時間が多かった。そして中性的な容姿のランクBのフウキさんが笑顔で無駄な衝突を抑えてくれるのが通例となっていた。

 責任者であるランクAの俺は普通に頭を悩ませている。部下をまとめるのも自分の仕事なのだと分かっていながらもおっさんの不必要な挑発に腹を立ててしまう。感情的になるなんて俺もまだまだ若い。


「そろそろ二人が来ますよ! 集中して下さい!」


 緊張感を高めるアイに釣られてか俺も十字路を凝視する。

 今回の作戦は俺が立案した。作戦内容は入学式の登校中に主人公とヒロインが衝突して出会うというシナリオだ。俺はあえて使い古された手法でいきたいと考えていた。おっさんからは反吐が出るシナリオだと罵られたが気にはしない。昔から一度は叶えたいと思っていたのだ。

 この作戦は時間とタイミングとの戦いだった。二人が自宅を出る時間、学校までの通学路のルート、歩く速度、二人が衝突する最適なポイントなどをシュミレーションしなければならない。

 仮説を立てた後は実験、検証を繰り返して二人の自宅を出発する最適な時刻を算出することが出来た。

 出発する時刻を主人公とヒロインの両親役の演者に報告して、二人を誘導するようにと指示を出している。通行人の演者達には二人の邪魔を決してしないようにと念を押して衝突ポイントまでの不要な道はすべて通行止めとした。よほどの馬鹿でない限り主人公とヒロインは思惑通りの道順を進んでくれるだろう。

 ただ、そこまで入念な準備をしても不確定要素が多い。この作戦は成功率が三割程度と報告も受けている。あとは神のみぞ知るだ。


「アユトさん、出雲かなでが来ましたよ。思ったより地味ですね」


 この物語のヒロインの一人、出雲いずもかなで。

 両親の都合でこの街に引越しをしてきたばかりの少女は物語の舞台となる高校に入学する。この少女は引っ越してきたばかりなので友達や先輩、後輩もおらず、知り合いが誰一人いないこの町で新たなスタートを切ろうとしていた。

 くせ毛で少しボリュームが増している髪は肩の長さまであり、すこし垂れた瞳は大きく優しそうな印象を受ける。図書館が似合いそうな可愛いらしい少女だった。

 人付き合いが苦手だと知ってはいたが実際に見てみると間違いはないと分かる。出雲かなでは周りをきょろきょろと警戒しながら怯えるような足取りで歩を進めていた。

 まるでお化け屋敷の中みたいだ。プロフィールでも挙動不審な所があると書いてあったが大げさなような気もする。誰かに追われているのか勘違いしてしまう程だ。


「次はアイのお兄ちゃんが来ましたよ!」


 この物語の主人公の名前は佐伯さえき裕樹ゆうき

 人当たりがよく、困っている人を見ると放っておけない馬鹿正直な人間らしい。この物語の中ではアイの兄でもあるのでアイは数日前から一緒の家に住んでいる。

 アイはマユミに主人公の妹役に任命されていた。マユミにしてはいい判断だと感心せずにはいられない。さすがは歴戦のランクAといった所か。

 アイは誰もが認める妹役の適任者である。むしろ子供か妹ぐらいしか出来ないのではないかと思うほど似合っている。本人には機嫌を損ねそうなので言えないけれど。


「やっぱりアユトさんの方がかっこいいです……どうせならアユトさんの妹が良かったな……」


 呟くアイは俺と佐伯裕樹を交互に確認していた。意識を主人公達に向けていたのでアイの発言を聞き逃してしまう。


「んっ。なんか言ったか?」


「何も言っていません。本当にアユトさんは鈍感ですね。乙女の鉄拳です。受け取って下さい」


「はぐっ!」


 アイの尖った肘が俺の下腹に突き刺さる。瞬時に痛みが広がる俺は声を出さないように奥歯を噛みしめた。ちょっと待て! なんなのだこの仕打ちは!

 腹を押さえる俺はツインテールを引っ張るという報復を実行に移しかけたが、主人公とヒロインの距離が詰まっていたので先送りにした。

 徐々に近づく二人の動向に意識を向ける。アイも俺と同じように唾を飲み込んだ。

 歩くスピード、十字路への距離、十字路への侵入角度、すべて完璧だと俺は感じた。そのまま行けと期待を込めるように拳に力をこめた。

 しかし二人の距離があと三秒もすれば作戦の成功だったのだが、成功寸前で出雲かなでが転んだ。コンクリートで整備された平らな道で前のめりに転んだ。受身をとれずに顔面から勢いよく転んだ。悲鳴を上げながら地面に吸い込まれた。


「ほえっ……」


 アイが間の抜けな声を出す。俺は瞬きを忘れて目で捉える情報を解析する。結果、解析不能だった。なぜそうなるんだ。ありえないだろ。

 俺は無意識に頭を抱える。出雲かなではドジっ子とプロフィールに書いていたがまさかこのタイミングでドジっ子要素を出してくるとは想定外だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ