第97話 事件勃発。
放送で呼び出された俺は急いで生徒会室へと向かい、扉を開けた瞬間、既に全員が揃っていることに気付いた。室内には重苦しい空気が漂っており、ただならぬ状況であることが一目で分かる。
「すいません、遅れました。緊急だって言ってましたけど、何か問題でも起きましたか?」
そう問いかけると、誰もすぐには口を開こうとせず、全員がどこか気まずそうに視線を落としていた。その沈黙を破るように、芽衣先輩がこちらへと視線を向け、「実はね」と静かに話し始める。
「実はね。さっき栞と一緒に昼食を取っていた時なんだけど、栞の鞄から”これが”出てきたの。」
そう言って芽衣先輩は机の上に二つの瓶を置いた。一つは完全に空になった瓶で、もう一つは以前雪から受け取った回復ポーションに酷似した見た目をしている。
だが、ここにそれがあること自体が異常だった。
なぜこの場にポーションがあるのか。そして、なぜそれが会長の鞄から出てきたのか――その理由がまるで分からない。
「何で、会長がポーションなんかを持っているんですか?誰か怪我でもしたんですか?」
俺の問いに、芽衣先輩はゆっくりと首を横に振る。
「悠真くん。これは回復用のポーションじゃないの。肉体を強化するための、いわゆるバフポーションよ。」
その言葉に、思考が一瞬だけ止まる。
バフポーション。それは探索者が主戦やボス戦に挑む前、時間制限付きで能力を底上げするために使用する補助アイテムだ。ただし、その強化量は決して高くはなく、価格に見合う効果が得られないことから、実際に使用しているのは一部の高ランク探索者に限られている。
そんなものを――会長が持っていた。
だが、本当に問題なのはそこではない。
この体育祭では、探索者としての能力の使用が禁止されているのはもちろんのこと、アイテムの使用および持ち込みも厳しく禁じられている。
つまり、この時点でそれが発見されたという事実だけで、十分に“問題”になり得る。
「‥‥悠真も知ってるよね?探索者の能力の使用はもちろん禁止だけど、アイテムの使用と持ち込みも禁止だっていうことは。」
「‥‥はい。つまり、その……会長がこの体育祭でアイテムを使っていた可能性がある、ってことですよね?」
そう言葉にした瞬間、会長は机をバン!!と強く叩き、勢いよく首を横に振った。
「私は断じてこのような物を使用していないし、持って来てもいない!!私が知らない間に‥‥鞄に入っていたんだ!!みんな、信じてくれ!!」
その必死な訴えは、決して嘘をついている人間のそれには見えなかった。
だが――
「会長がそんなことをしていないことは、もちろん私も他のメンバーも理解しています。」
そう静かに口を開いたのは相沢先輩だった。
「ですが、こういった物が会長の鞄から出てきたこともまた事実です。この状況を無視するわけにはいきません。ですので、この体育祭において何らかの処置を取るべきだと‥‥私は考えています。申し訳ありません、会長。」
その言葉は冷静で、理にかなっていた。
だからこそ――重い。
「何故だ!!私は不正などしていない!!この体育祭だって、紳士に正々堂々と向き合ってきたのに、罰を受けるなどあり得ないことだ!!」
会長の叫びが響く。
正義と事実がぶつかり合い、どちらも間違っていないからこそ、場の空気はさらに重く沈んでいく。
そして――
俺には、この場にいる誰もが知らない情報がある。
七瀬先輩の電話。そして、今朝見たあの様子。
あの人なら、朝のうちに会長の鞄へ瓶を入れることも不可能ではない。
だが、この情報をここで出せばどうなるかは明白だった。
会長は間違いなく七瀬先輩のもとへ向かい、証拠もないまま衝突するだろう。その結果、ただの口論で済むはずもなく、最悪の場合は取っ組み合いに発展し、個人間の問題では収まらず、家同士の問題へと発展する可能性すらある。
――それだけは、避けなければならない。
ならば取るべき行動は一つだ。
「皆さん、少し落ち着きましょう。」
俺はゆっくりと口を開き、全員の視線を引き寄せた。
「こんなことで自分たちがバラバラになるのは、あまりにも勿体ないです。だから、少し自分に時間をもらえませんか?」
一拍、間を置く。
「会長がこの件に関わっていないことを証明できる証拠を、必ず見つけてきます。」
その場の空気を受け止めながら、俺ははっきりとそう言い切った。




