第91話 予期してないできごと。
「それじゃあ、生徒会の仕事に行ってくるわ。」
と二人に別れを告げて、生徒会室へと向かう。
既に時刻は集合5分前になっており、このまま歩いていけば遅刻になってしまうので、少し駆け足で向かっていると――
「廊下は走ってはダメよ!!」
背後から声が飛んできた。
すぐさま足を止めて振り向くと、風紀委員長の七瀬先輩が立っていた。
「すいません。少し遅れそうだったので‥‥。」
「それでもですよ。白瀬くん。あなたもこの白王の生徒で、しかも一年生を代表して生徒会に所属しているのですから、小さな校則であっても守ってくださいね。」
「はい。すいませんでした。」
七瀬先輩が言っていることは100%正しいことなので、素直に頭を下げて謝罪をした。
「うん、素直に謝罪ができることはいいことです。では、もう行っていいですよ。」
「はい。すみませんでした。」
最後にもう一度だけ頭を下げて、再び足を前へと向けて歩き出した時に、ふと疑問が浮かんだ。
なぜ七瀬先輩がこの時間に既に学校にいるんだ?今日は体育祭だから風紀委の朝の抜き打ち検査はないはずだし、体育祭の準備に関してもすべて完了していると報告を受けているので、先輩がこの時間にいる意味はない。
俺の頭の中では、あの電話の内容がフラッシュバックしていた。
「‥‥もしかして、七瀬先輩は‥‥体育祭で何かするつもりなんですか?もしそうなら、俺は‥‥全力で止めます。」
その言葉は七瀬先輩には届かない。そもそも届かせる為に言ったわけではない。その言葉は悠真が自分自身に放った言葉で――誓いの言葉であった。
その場ではそれ以上のことはなく、悠真は生徒会室へと向かい、すぐさま会場案内の仕事を始めるのだった。
◇
「体育祭の鑑賞は等間隔に、紐の内側でお願いしまーーす!!十分なスペースがありますので、焦らずゆっくりで大丈夫です!!」
とメガホンを使ってしっかりと呼びかける。
俺の仕事はグラウンドへと入って来た保護者たちを誘導すること。そして、どこで見るか迷っている人がいれば率先して声を掛けて場所へと案内することだった。
流石は天下の白王ということもあって、入ってくる保護者の恰好も華やかな人が多いし、中にはボディーガードを連れて来ている人もいたので、流石に中学の体育祭には連れてこなくてもいいのでは?とも思ったが、過去にはそういうこともあったらしく、二人までは許可されている。
そうして仕事をしていると、背後から――
「あの~~すいませーーん。」
声を掛けられたので振り向くと――パシャ!!といきなり写真を撮られた。
「‥‥何をしているの?母さんたちは。」
そこには、母、父、姉の3人がいた。どうやら俺の体育祭を見に来たようだ。
「何って、もちろん。息子の勇姿を見に来たに決まっているでしょ?パパなんて仕事を休んでまで来たんだから、今日は全員で全力で応援するからね!!はいっ!!もう一枚!!」
「ちょっ‥‥やめて!!」
手でカメラを抑えようとするが、父さんが俺の肩に手を置いて、その手を止めた。そして母さんは何枚も何枚もパシャ!!パシャ!!と写真を撮っていた。
すると、ちょっとした騒ぎになったせいか――。
「あの~~」
と同じ担当の仕事をしていた芽衣先輩が話しかけて来た。
「あ、芽衣先輩。すいません。」
「それは大丈夫だけど、その状況はどうしたの?」
「あ、これは自分の両親で、そっちは自分の姉です。こちらは芽衣先輩で、同じ生徒会で副会長をしている方です。」
「あらそうなの?私は悠真の母の白瀬 梓です。悠真がお世話になってます。」
「こちらこそ息子さんにはいつも助けてもらっています。私は神成 芽衣です。3年生で副会長に就いています。よろしくお願いいたします。」
「あら、これはご丁寧にありがとうございます。じゃあ、私達は行きましょう。生徒会の仕事をお邪魔しては悪いでしょうから。じゃあね、悠真。体育祭はしっかり応援するから頑張るのよ!!」
「あ、うん。」
正直、その熱量で応援をされても困る。だって、俺が出る種目は借り物競争と玉入れで目立つ競技ではないから、声を出して応援などされてみろ、全員が注目するだろう。
それだけはなんとしてでも阻止しないと。今後、俺の学園生活が死ぬことになる。
などと考えていると、芽衣先輩が――
「テンションの高いお母さんなんだね。」
と言ってくる芽衣先輩に「すいません」と謝り、体育祭が始まる前に心に凄まじいダメージを負うこととなった。




