第90話 最高の朝。
いよいよ、その日を迎えた。
その朝は雲一つないほどの晴れやかな晴天で、最高の日となり、体育祭を迎えることが出来た。
俺はいつもより30分ほど早い時間に起きて日課のデイリークエストを消化して、咲の家へと向かった。今日は生徒会として来場者の案内の仕事があるので、いつもより早く学校に着いておく必要がある。
だから、早起きをしたのだが、咲と雪が寝坊すれば俺の早起きも無駄になってしまう。だが、俺が家に着くと既に二人が門の前で俺のことを待っていた。
今までこんなことは一度たりともなかった。流石は体育祭だ。二人に早起きまでさせるとはな。
「‥‥2人とも早いね。」
「当たり前でしょ。今日は体育祭なのよ?遅刻など出来ないわ。」
「うん!!もう待ちきれない!!」
「ハハ‥‥なら、行こうか。」
二人のテンションに俺の体は全くついていけなかった。どれだけ名家の人間であっても、どれだけ探索者の力を持っていても中身は中学生で、まだまだ子供だ。学校の行事に一喜一憂する、そういう歳なのだということを再認識させられた。
そして中身がおっさんの俺にとっては中学生の二人はあまりにも眩しい。
決して冷めているわけではない。こういった何かを楽しみにしてワクワクするということを、過去を通して数えるほどしかしていないのだ。しかも、それは俺が小学生の頃の話だから、記憶もかなり曖昧だ。
俺が本当の意味で中学生なら二人のように同じ気持ちで楽しめていたかも知れないが、既に俺の心は枯れたおっさんで、二人のお陰で少しは色が戻ったが、未だその色の大半は”茶色”なのだ。
と、俺は少し暗い気持ちで歩いていたのだろう。二人がいつの間にか振り向いて顔を覗かせていた。
「何を暗い顔をしているの?」
「悠真‥‥何処か体調でも悪い?」
二人に心配を掛けてしまった。これは俺の心の問題で、二人に伝播させるものではない。二人にとって人生で初めての体育祭なのだから、全てを楽しんでもらう必要がある。
俺は首を横に振ってから――
「朝が早かったからね。少し、眠いだけだよ。ほら、行こう。」
と出来るだけ明るい態度で前を向いて歩きだした。
そう、これでいいのだ。
過去は消えないし、やり直しも出来ない。だから、過去は過去と割り切って囚われ続けるのではなく、新しい自分と混ぜてちょっとずつ変わっていけばいい。みんなと同じような反応と気持ちが持てなくても、それはそれでいいじゃないか。
二人のように体育祭を純粋に楽しみにしている人、運動や動くことが苦手でこの日を早く終わってくれと思う人、体育祭に別の思惑を持っている人と、色々な人がいるわけだから、全員が同じ気持ちを持っているわけではない。
なら、俺もそれでいこう。俺なりの楽しみ方でこの体育祭を楽しもうじゃないか。
この世界に生まれ、前世で経験した辛い出来事は悠真の体を鎖のように固く縛っていた。人と深く接することを嫌い、他人を信用することなど絶対にしなかった。なぜなら、自分と家族以外の人は敵だと思っていたからだ。
でも、そうではないかも知れないと。他人と接することでそう思えるようになった。それは、大きな一歩だと言える。
この体育祭も前世の悠真なら自分の役割だけをこなして、あとは下を向いて終わっていただろう。でも、現世ではどうだ?右には咲で左には雪がいて、学校に着けば生徒会の人達がいる。
決して多くはない繋がりだが、それは確かな繋がりだと言えるし、その繋がりのおかげで悠真の固い鎖はゆっくりとではあるが、解かれていっている。それが良いことなのか?悪いことなのか?は誰も分からない。
その答えが出るのは今ではなく未来なのだから。




