第88話 相容れない存在。
南雲と共に生徒会室を出て、グラウンドへと向かう。
「‥‥」
「‥‥」
その道中はとても静かだった。この学校で友達と呼べる人は咲と雪だけで、他のクラスメイトとの関わりは一切ない。名前こそ知っているが、それ以外は何も知らない他人であった。
そんな他人の集まる中で、南雲についてはよく知っている。正確には南雲グループについて知っていると言う方が正確だな。
南雲グループは咲と同じで名家の一つで、東雲家とは仕事上でライバル関係なのだ。それもあって、咲の騎士という立場もあり、こういう時のコミュニケーションに困っていた。
俺がそう考えていることを察したのだろう。南雲から――
「お互いの立場的に‥‥話しづらいよね。」
と声を掛けてきた。
向こうから声を掛けてくるなら、それを無視するわけにもいかない。つまり、話をする口実が出来たということだ。
「俺は咲の騎士だからね。南雲グループの、それも次のCEOとは、仲良くお喋りは出来なくて当然だと思う。互いにな。」
「そうだね。でも、雑談ぐらいならいいんじゃない?例えば、生徒会の仕事とかについてなら、ただのクラスメイトの会話でしょ?」
「だな。ただ、生徒会の仕事なんて気になるのか?」
「もちろんだよ。僕は――生徒会に入るつもりだからね。」
その言葉が意味するのは、俺の成績を抜いて後期から自分が一年を代表するという意味が込められている。俺は生徒会に固執していない。むしろ、早く辞めたいと思っている。だから、南雲にその席を渡すこと自体には何の抵抗もない。
ただ――負けることは嫌だ。
成績でこいつに負けることが嫌だ。それは咲の騎士としての言葉ではなく、俺――白瀬悠真から出た気持ちだった。なぜ、そんな気持ちが生まれたのかは分からないが、なぜか負けたくないと思ってしまった。
だからだろう。俺は南雲に――
「それは無理だと思う。だって、後期も俺が生徒会に居続けるから、南雲の席はない。」
ただ負けたくないという気持ちで、後期も生徒会に居続けると言ってしまった。そして、それを聞いた南雲はフフッと笑みを浮かべる。
「なら、勝負だね。入学試験では満点で負けたけど、次は僕が勝つ。そして、僕が一年生を代表して生徒会に入る。東雲 咲でも君でもなく、僕が一番になる。」
一番。その言葉は、かつての俺‥‥白瀬悠真になる前の俺にとっては何よりも価値がないものだった。
人と競って上にあがったところで上には上がいるのだから、無理して上にあがるより現状維持に努めておいた方が楽で賢いと思っていたし、何より前世の俺は未来に希望ではなく絶望しか抱いていなかったから、上を見て前に進むなんてことはそもそも出来なかった。
でも、今は違う。前を向いて現状維持ではなく、上を見て歩くことが出来ている。そして、一番という言葉にも意味を見出すことも出来ていた。
一番とは誰かの上に立ちたいから目指すのではない。この場にいる誰よりも成長した証として、一番というものが与えられるのだ。つまり一番とは”努力の証明”だ。
その時、はっきりと分かった。俺が南雲に負けたくない理由を。南雲は一番を、他人の上に立つためのものだと考えている。その考え自体を否定するつもりはない。だが、他人と比べて優劣を決め、自分が上にいると実感するためのものだと言うのなら、それには納得が出来ない。
全てが成績、運動、家などで決まるわけじゃない。だから、その物差しで上下を決めて明確な差を持つことが、俺は嫌いだ。
「南雲。これだけは言っておく。お前にだけは絶対に負けないとな。」
俺はその言葉を残して、その場を走って離れた。南雲という人間と俺は根本的に考えが違い、その違いは磁石でいうところのSとSで、絶対にくっつくことはないと確信した。




