第87話 体育祭、その裏側。
――体育祭。
それは学生にとっては1、2を争うほどの目玉行事で、たいていの人は喜び、歓喜するものだが、全員が全員そうではない。例えば運動を得意としていない人は楽しみにはしていないだろう。
体育祭は運動部や運動が得意な人にとっては最高ではあるが、その逆な人にとっては最悪とまでは言わないが、あまり気が進まないものだろう。
そして、それとは別のベクトルで行事を運営する側は、開催日が近づくにつれて仕事と問題が湯水のようにどんどん溢れ出てくる。一つ解決したら二つ出てくる。
早く、この地獄から解放してくれ――と思いながら、その仕事をこなしている。日々の仕事でクタクタにはなっているが、決して悪い話ばかりではない。こういった何かを運営するというのは立派な経験であり、大人になり社会に出た時に自分のアピールポイントにもなる。
それに白王には名家の人が多く在籍しており、今後の人生において人の上に立つ者が多い。なら、なおさら人を動かして何かするという行為は、その人の成長に繋がる。
だから、生徒会という組織には優秀かつ名家な人間を入れることで、そういう部分の成長を早める為に多くの業務と権力を持たせており、責任と立ち振る舞いが求められる存在なのだろう。
「白瀬。関係者と保護者の参加名簿はまとめた?」
「はい、参加名簿はまとめられています。そして学校側の出迎え体制も会長から問題ないと言われているので、後はそれを実施できるように色々と動いています。」
「そう。なら、それが終わったら次は設備予算の方に回って。あと、芽衣先輩が一人で全部の団を見てるから、後輩の私達が少しでも楽にさせて、会長と副会長には体育祭を楽しんでもらうわよ。」
「そうですね。お二人は――最後の体育祭ですもんね。自分も出来る限りの仕事を引き受けます。」
「そうして。」
相沢先輩は相変わらずだ。前に食堂で友人と楽しそうに話をしている先輩を見たが、その時は別人かと思うほど見たことがない先輩がいた。
先輩は複数の顔を持っている。例えば、芽衣先輩や会長と話をする時は尊敬の眼差しを向けている。
友達と話している時は、飾らずただの学生という特に普通の目をしている。
そして、俺と話をする時はかなり酷い。口調も投げやりというかぶっきらぼうだし、互いに目を合わせて話すこともほとんどない。この人は俺にだけめちゃくちゃ冷たいのだ。
それほどまでに俺という存在が嫌いなのだろう。まぁ、全員に好かれようとはしていないから、自分が嫌われる分には特に問題ない。
ただ一言付け加えるなら、その部屋で二人きりになると、少しというか‥‥かなり気まずい。とは感じている。
今の仕事の量を考えればそんなことも言ってられないので、気まずさには蓋をして仕事に没頭することにした。すると――コンコンと扉がノックされた。
「失礼します。」
――と部屋に入って来たのは俺のクラスの南雲であった。
「どうしました?」
と隣からとても優しい声が聞こえてきた。当然、その声の持ち主は相沢先輩だ。
俺と話している時とは全く違う声だ。南雲も俺と同じ後輩のはずなのに、何でこうも対応が違うんだ?納得がいかんぞ!!と思っていると――。
「実は、今からクラスの全体の競技の練習をすることになったので、白瀬を呼びに来たんです。」
「あーーでも、今‥‥俺、手が」
と手が離せないと言おうとしたところで、隣から――
「行ってきなさい。クラスの競技の練習も必要よ。こっちは私一人で大丈夫だから。」
まさかの言葉が返ってきた。さっきまでは仕事をしろと言っていた人が、今は仕事を忘れていいと言っている。絶対にあり得ない。南雲がいるから顔を変えているのは間違いないが、こうも急に優しくされると凄い気持ち悪い。
だが、せっかくこう言ってくれているのだから、言葉に甘えておこう。
「分かりました。ありがとうございます――相沢先輩。」
と頭を下げて、南雲と共に生徒会室を出た。




