第85話 踏み出す理由。
ダンジョン探索も無事に終わり、二人を家まで送っている時だった。
「悠真。結局、あなたはどうする気なの?」
それはダンジョンの時に話していた”七瀬先輩と一ノ瀬先輩の関係”についてだろう。このまま放置するのか、それとも首を突っ込んで止めるのか、どっちにするのかだ。
「俺は――止めようと思っている。」
「それはなんで?家の問題はあなたには関係ないことでしょ。同じ生徒会ということだけで首を突っ込むつもり?本当にそれでいいの?」
「そうだね。理由としてはそれもあるけど。俺の中で首を突っ込むと決めた最大の理由は”同じ生徒会”ってだけじゃない。今日、会長と七瀬先輩が話しているところを見たんだけど、お互い”すごい苦しそう”だった。
本当に言いたいことはそれじゃないのに、本当はもっと仲良くしたいのに、もっと話したいことがたくさんあるのに”家”という問題で、その関係を築けていないというところを変えたい。
それが一番の理由。この理由じゃ納得できない?」
その言葉は本心だ。もちろん、見返りを求めていないとは言えない。だけど、俺は前世で友達という存在を一人も作ることが出来ずに、家族以外の人を敵だと思っていた。でも、違った。俺が敵だと思っていただけで、きっと前世でも俺と仲良くしたいと思って話しかけてきた人はいたはずだ。
俺は過去の経験から、その手を無意識に拒んでいた。でも、それらの辛い経験を『雪と咲』そして『家族』との関係が払拭してくれた。
なら、俺が救われたように、あの二人の関係も救いたいと思った。まぁ、この思いは本人たちには絶対に言わない。恥ずかしいからな。
「咲ちゃん。私は悠真の意見に賛成だよ。だって、私達も最初はそうだったじゃん。相手を知らず、相手を敵だと思い合っていた。でも、今はこうして友達ができている。」
と雪は咲に抱き着いた。
「だから、私は賛成だよ。」
すると咲は「はぁ‥‥」と大きなため息を吐いて
「それを言われると何も言い返せないわね。うん、いいわ。私も賛成よ。ただし、悠真一人じゃなくて私たち三人でやるっていうのなら、私はいいわ。」
「あぁ‥‥もちろん。三人でやろう。」
ほらな。二人ならきっと認めてくれると思った。咲だって仕方なくみたいな雰囲気を出しているけど、実際は助けたいと思っているから、認めてくれた。もし、嫌だったら絶対に認めたりしないからな。
「じゃあ、私は色々な伝手を使って七瀬家の情報を集めてみるわ。近々、行われるイベントやパーティーなどをね。雪はどうする?」
「私は育成学校にいた時に知り合った探索者の人に色々と聞いてみようかな。七瀬家もダンジョン関係の事業もしてるわけだし。」
「じゃあ、俺は学校をメインで情報を集めてみるわ。」
「そうね。集めた情報は夜に電話で共有をしましょう。それでいいわね?」
「りょーかい!!」
「分かった。」
「なら、今日は解散ね。見送りありがとうね。」
「ありがとうねーー!!悠真、また明日ね。」
「あぁ、また明日。」
と二人と別れて帰路へと着く。
時刻はすっかり夜になっていた。街灯の明かりが等間隔に道を照らし、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っている。アスファルトに響く自分の足音だけがやけに耳についた。
季節も春から夏へと移り変わりつつあるせいか、夜だというのに空気はどこか生ぬるく、頬を撫でる風にもわずかな熱が混じっている。
けれど――それだけじゃない。
胸の奥が、妙に熱かった。
今日決めたこと。七瀬先輩と会長の関係に首を突っ込むと決めたこと。そして、あの二人の関係を変えたいと思ったこと。どれも面倒ごとで、普通なら避けるべきことだ。
前の俺なら、間違いなく関わらなかっただろう。それでも――今は違う。
雪と咲がいて、家族がいて、気付けば守りたいと思えるものが増えていた。だからこそ、見て見ぬふりは出来ない。
「‥‥面倒だな、本当に。」
思わずそんな言葉が漏れる。だけど、その言葉とは裏腹に、心の奥では少しだけ高揚している自分がいた。静かな夜道を歩きながら小さく息を吐き、ふと空を見上げると、雲の隙間から月明かりが覗いていた。
――まぁ、やってみるか。
そう思いながら、俺はいつもより少しだけ軽い足取りで家へと向かうのだった。




