第83話 隠していた理由
「雪!!右から二体来るわよ。」
「分かってるよ。氷槍!!」
雪の周囲に冷気が集まり、空気中の水分が一瞬で凍り付く。鋭く形成された氷槍が放たれ、一直線に飛ぶ。
鈍い音と共に氷槍がオークの胸を貫いた。分厚い皮膚と脂肪を突き破り、そのまま背中まで突き抜ける。体を大きく仰け反らせたオークは、そのまま崩れ落ちた。
「残りは、正面だけよ‥‥遅刻魔」
遅刻魔と呼ばれているのは俺だ。七瀬先輩と話をしたせいで朝の授業に遅れてしまった。そして、その罰なのかは知らないが、咲からは“遅刻魔”と呼ばれている。
たった一回で初めての遅刻なんだから大目に見てくれとは思うが、遅刻をしてしまったのは事実で、それに関しては俺が100%悪いのでしぶしぶ受け入れていた。
「はぁ‥‥分かった。」
俺は新調した剣の柄に手を置き、ゆっくりと呼吸を整える。
足裏で地面の感触を確かめる。重心を落とし、余計な力を抜く。視界の端でオークの動きを捉えながら、意識を一点に集中させた。
オークは唸り声を上げながら突進してくる。鈍重なはずの巨体が、地面を踏み鳴らして一直線に距離を詰めてくる。
だが、その動きが遅く見える。
集中が限界を越えた瞬間、世界の流れが一段階遅くなったように感じた。
「抜刀!!」
同時に「神速」と「会心」を発動。
踏み込みと同時に腰を回転させ、鞘から剣を引き抜く。抜き放たれた刃が一直線に走り、オークの首元を正確に捉える。
一瞬の静止。
次の瞬間、遅れて血が噴き出した。
巨体がその場で崩れ落ち、地面を揺らすような音を立てる。
戦闘を終えてドロップ品を回収し、再び歩き始める。
「なぁ、そろそろ“遅刻魔”って呼ぶのやめないか?」
「やめないわ。」
と即答される。
「遅刻をしたのは申し訳ないとは思っている。もうしないからさぁ~~。」
「もうしないのは当然のことよ。この私がわざわざ電話までして“遅刻になるわよ?”と知らせてあげたのに遅刻をした。そして、その理由を聞いても答えようともしない。こんなのはおかしいとは思わない?」
「いや、まぁ‥‥そうだけど。」
そう。俺は遅刻の理由を咲に話せずにいた。それは別に話していた内容があれだったからという理由ではなく、俺が話の内容を盗み聞きで知ったからだった。これが、盗み聞きではなく偶然知ってしまったとかであれば素直に話していた。
などと思っていると、雪がとんでもないことを言い出した。
「私達に言いづらい理由で遅刻をしたってことは、もしかしてだけど“裏で女の子”と会っていたとかじゃないよね?」
その表情には笑みなど一切なく、氷のような冷たい目と冷めた顔でこっちを見てきた。そして、その言葉を聞いた咲も俺を見る目がより鋭くなった。
俺は、これがヤバい方向に話が行っていると感じ、すぐさま否定するが、二人の目には全くと言っていいほど響いていなかった。
これは本当のことを言うしかないか。まぁ、実際に咲の家なら何かしらの情報を持っている可能性もあるしな。
と、本当のことを言うことにした。
「俺が遅刻をした理由は、集会の片付けが終わって教室に戻っている道中に、風紀委員長の七瀬先輩が誰かと話している声を聞いた。実は、今朝に七瀬先輩から生徒会を辞めて風紀委に入らないかって打診を受けたこともあって、その内容が気になった。
で、言いたくなかった最大の理由が、その会話の内容を盗み聞きしたからだ。この内容は盗み聞きによって知ったことだから、俺の中に留めておこうって思っていたんだけど、雪と咲が見当違いでバカなことを考えるから、結局、話すはめになった。」
「ば、バカなことって‥‥別に普通のことじゃない。主にも、そして幼馴染にも秘密にするほどの秘密ってね‥‥雪。」
「うん。そういう勘違いが起きてもおかしくないと思う。で、その聞いた内容ってどんなものだったの?結構、ヤバい感じの内容だったりするの?」
「‥‥うん。正直‥‥かなりヤバめの内容だった。」




